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ノエル・カチュアシリーズ

どんな時でも助けてくれた優しい幼馴染の話、どんな時でも君を助けた我儘な俺の話

作者: リィズ・ブランディシュカ
掲載日:2022/05/07



 これは私の話じゃない。


 私の目線だけれど、幼馴染の話だ。


 だって私はその時まで立ち上がる事も、頑張る事もできなかったのだから。


 だから、最後までこれは幼馴染の話なのだ。


 いつも、いつだって、頑張るのは彼だった。


 努力するのも彼だった。


 抗うのも彼だった。


 私は何もしていなかった。


 私は何もできていなかった。









 私は絶対絶命のピンチの中で、彼の背中を見つめていた。


 この場にいるはずのない幼馴染の男の子。


 どうしてと問いかける私に、彼は語った。


 彼がこの場にいる理由を。


 それは、子供の頃の数年前の思い出までさかのぼる。







 何でへびなんて、いきもの存在するのかしら。

 へびきらい。へびこわい。


 土の上をのたくるへびに出会って硬直する私。


 ちょっと庭をお散歩するだけだったのに、なんて不運なんだろう。


 小さな少女に気づいた蛇は、こちらを獲物と定めたのだろうか。


 じっと視線を向けてくる。


 このまま何もしなければ、かまれてしまうかもしれない。


 そう思ったけど、何か行動にでる勇気がなかった。


 そしてだんだん、じりじりとへびが距離をこっちにつめてくる。


 こないでったら。


 そして、ある程度まで近づいてきて、一瞬の間を置いた後、一気にこちらへとびかかってきたところで。


「はい、終了」


 へびは、誰かの足に頭を踏んづけられた。


 足の上、膝、お腹、首、と順に視線をあげていくと、そこには見慣れた顔があった。


 最近よく遊ぶようになた男の子だ。


 男の子は、自分が踏んづけた蛇を見つめて、言葉をつぶやいた。


「スリープ」


 すると、踏んづけられたままじたばたしていた蛇が動きをとめた。


 眠りの魔法が聞いたのだ。


 男の子のはその蛇をつまんで、近くの草むらに移動させて。


「もう大丈夫だよ。カチュア」


 男の子が私に微笑みかける。


 私は安心したように、その場に膝をついた。


「ありがとう、アスク」


 近所の優しい年上の男の子。


 アスクは、私ににっこりと笑いかけた。








 その男の子アスクとの出会いは、はっきりと覚えている。


 近くに流れている川をのぞきこんで、おっこちてしまった時だ。


「きゃっ、誰か! たすけて!」


 水の中で浮き沈みしながら流される私は、必死に助けを求めた。


 でも、誰も助けに来てくれなくて、浮き上がる事ができなくなって。

 このまま死んじゃうんじゃないかと思ったのだ。


 その時に彼がかけつけてきてくれた。


 アスクが、川に飛び込んで助けてくれたのだ。


 おぼれかけていた私は、無我夢中でアスクにしがみついた。


「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」


 だから、かなり迷惑をかけたはず。


 手を放しても、良かっただろう。


 当時、同じくらいの背丈だったアスクだって、危なかったはず。


 自分の安全を一番に考えてもよかったのに。


 けれど、アスクは最後まで私の手を掴んでくれた。


「あの、たすけてくれて、ありがとう。おなたのおなまえは?」

「アスク! 君の名前はなんていうの?」

「カチュア」

「可愛い名前だな! 俺達はもう友達だ。だから、これからよろしくな」







 それがきっかけで、アスクとよく遊ぶようになったのだ。


 アスクと一緒にいるのは楽しい。


 アスクは優しくて、いつでも気にかけてくれるし、頼もしくていつでも助けてくれるから。


 私が住んでいる村では、アスクの事を悪魔の生まれ代わりだとか、嫌な事を言う人がいたけれど。


 とてもそうは思えない。


 アスクは他の人には使えない、魔法が使えるけれど、そんな事どうだってよかった。


 だって、アスクは人を傷つけるために魔法を使ったりはしなかった。


「へくち」

「カチュア、さむいなら温かくしてあげるよ」

「わぁっ、小さな光。きれい!」

「ろうそくかわりにな」







 でも、そんなアスクだから、近くにいると甘えすぎてしまう。


 このままではよくないと思った事は何度もある。


 でも、アスクから離れたくなかったから。


 それなら、私が強くなろうって、思った。


 方法は分からないけれど。


 他の人に色々いわれても、平然としてられるような。


 アスクのように強くなれたらいいな。


 私は臆病とか弱虫とか人から言われると、すぐ気にしちゃうから。


 周りの人の言う事が気にならないくらい強くなって、いつかアスクを助けてあげたい。


「アスク、大きくなったら。私がアスクを助けてあげるね。約束」

「わかった。楽しみにしてる。がんばれよ、カチュア」

「うん、応援してて」


 まず、へびを見ても怖くならないようにしなくちゃ。


 にょろにょろしてるのが、ちょっと気持ち悪いけど、ずっと見てれば慣れるようになるかも。


 あと、泳げるようにもならないとね。


 アスクに助けてもらえる時が、いつもあるとは限らないもの。


 ちょっとくらいの事でびっくりしないようにもならないと。


 でも、どうやればいいんだろう?


 強くなる方法が分からない。


 ずっと悩んでるとアスクが優しく言ってくれた。


「カチュアの事は応援する。でも、俺が守ってやるから、どうしてもって時は無理をしなくてもいいんだぞ」


 アスクはどんな時でも優しい。


 油断したら、うんって頷いてしまいそうになる。







 そんな私は、十五になった時、聖女に選ばれた。


 聖女は闇の魔力にとりつかれた狂獣や、闇の魔力に汚染された土地を浄化する存在。


 聖女に選ばれた人は、中央の都にいって、パレスという場所で修行しなければならないと決められている。


 けれど、その間は一人ぼっちだ。


 知り合いの誰もいない土地で。


 同じ境遇の人達はいるけれど、仲良くなれる気がしなかった。


 私は他の子供達のように気が強くないし、なんでもうまくこなせない。臆病だから。


 だから、私は引越が嫌で泣いてしまった。


 そしたら、アスクも一緒についてきてくれることになった。


「大丈夫カチュアを一人になんてしないから」

「ほんと」

「俺がずっとそばにいるよ」


 その言葉が、初めは嬉しかった。


 けど。


 だんだん、私のせいでアスクの人生が台無しになってしまったんじゃないかって怖くなってきた。


「お母さんも、お父さんも、自分の力を活かして人の役に立ちなさいっていうけど。アスクはどう思ってるんだろう」


 アスクの本当の気持ちを知りたい。


 私に優しいままの、アスクなのか。


 それとも内心では、うっとおしく思ってるのか。


 私に優しくしてくれるのも、何か別の理由があるんじゃないか。


 なんだか、嫌な事ばかり考えてしまう。








 中央の都に行って、パレスに住む事になった。


 聖女としての日々が始まる。


 でも、アスクが一緒にきてくれたから。


 私はあまり心細くなかった。








「カチュア! 良い魚がとれたぞ!」


 聖女の修行の合間、アスクはよく話しかけてきてくれる。


 護衛となって働くアスクは、聖女になった私の護衛をする事が多くなった。


 話の内容は、大抵は他愛ない事ばかりだ。


 故郷にいた頃とかわらない。


 どんな虫がいたとか、どんな悪戯をしたとか。


 周りの人達は聖女に対する態度ではない、「不敬だ」と言って怒るけれど、私は、変わらないアスクの態度が心地よかった。


 その日、アスクがとても良い顔で報告するのは今日の晩御飯についてだった。


「外で修行するのはいいな! 俺は魚とりの名人だから、食べ物食べ放題だ! 魚限定だけど」

「じゃあ、私がお料理するわね。お魚を美味しく料理するのは、私が一番なんだから」

「楽しみだな!」


 アスクは、いつだって前向きだ。


 自分だって忙しいのに辛い修行があっても、私に優しくしてくれる。


 彼はどうして、私にそんなにも優しくしてくれるのだろう。


 私は、この幼馴染の男の子がどうしてそうなのか分からないでいた。


 とある日、私が濡れ衣を着せられた時も、真っ先に私をかばってくれた。


「カチュアはそんな事しない! 泣き虫だし弱虫だから!」


 たまに余計な事も言うけど。


 でも恰好良かった。


 そのおかげで、濡れ衣は晴れて、真犯人が明らかになった。


 でも、失敗したらって考えなかったのだろうか。


 もしそんな事になったら、アスクまでとばっちりをくらってしまうのに。


 護衛の仕事は給料がいい。


 他の仕事よりも危険な事があるから。


 それに、立場だって平民よりすごく上なのに。


 だから私が「アスクは怖くなかったの?」って、そう言ったら。


「だって、カチュアは大事な幼馴染だから、放っておけなかったんだ」って。


 アスクは本当にいい男の子だ。


 ほんの少しだけ、何か理由があって、私に優しくしてるんじゃないかって思っていた。


 その事が少し恥ずかしい。








 そんな中、厳しい任務が言い渡された。


 聖女である私達は、ギリギリの人数でそれに向かわなければならない。


 その時期は人手不足だったから、余裕がなかったのだ。


 護衛もいつも通りついてくるけど、その人数も最低人数。


 そのメンバーにアスクはいない。


 だから私達は入念な準備を行った。


 けれど、そんな予想も無駄になるほど、任務は苦難の連続だった。


 私達は一人、また一人と倒れて、消耗していった。


 そして、最後は私一人になってしまう。


 もはやここまで、そう思った私は、その場にいないアスクの事を考えていた。


 最後に一目だけでもいいから、彼に会いたい。


 そう思った。


 その瞬間に、私はアスクの事が好きなのだと気が付いた。


 だから、こそ。


 同時に彼がこの場にいなくてよかったとも思った。


 好きだからこそ、死んでほしくない。


 彼には生きて幸せになってほしい。


 だって、今までずっと迷惑をかけっぱなしだった。


 だって、アスクはとてもいい人だから。


 そんな人が、これから生きて幸せになれないなんておかしい。


 けれど、覚悟した死は私には訪れなかった。


 目の前にアスクが立っていたからだ。


 彼はここにいるはずの人間ではなかったのに。


「どうして」と訪ねる私に、アスクはいった。


「カチュアの事が好きだから」


 幼馴染の男の子が私にずっと優しかったその理由は、愛だという。


「私もアスクの事が好き」







 それからどうやってその場から逃げたのか分からない。


 気が付いたら二人とも傷だらけで血まみれになっていた。


 けれど、二人とも生きていた。


 たくさんの手当てと休養が必要だったけれど、生き延びる事ができたのだ。


「片腕、動かなくなっちゃったね。私のせいで」

「カチュアのせいじゃない。気にすんなよ」


 けれど、私は自分ふがいなさを恥じた。


 これまで私はアスクに助けられてばかりだった。


 何も返せていない。


 だから、これからら私はアスクをたすけて行こうと思った。


「私がアスクの腕の代わりになる。私もアスクみたいに頑張るから」


 私は臆病で泣き虫な私にさよならを告げた。


 大好きな人の力になるために。


 彼がこれまでくれたものを返していくために。








 これは、ずっと俺の物語だった。


 彼女の物語なんかじゃなかった。


 そうあるべきだったのにもかかわらず。


 彼女は頑張ろうとしていた。


 いつだって、自分が成長しようとしていた。


 けれど、俺が過剰に親切を働いてしまったから、それを邪魔してしまったんだ。


 だから、この物語を彼女にかえそうと思った。


 彼女が頑張っていける、彼女が主人公の物語に。


 だから、役立たずの体になったときにさよならをするつもりだったのに。


 でも、どうして彼女は俺から離れていかないんだろう。




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