ワイバーン狩り
依頼所から向かったのは鍛冶屋。ジンはベルシスに一緒に行くか聞くために寄る。
だが、工房には誰もいなかったので、工房に隣接してるベルシスの家のドアをノックする。
「ジン。どうした?」
扉から顔を出すベルシス。
「今、大丈夫か?」
「大丈夫だけど」
「さっき依頼が入って、今からクライ森へワイバーンを狩りに行くが。一緒にどうだ?」
「お! 行く行く! すぐ準備する。依頼内容は討伐だけ?」
「そうだ。あと、レフィはいるか?」
レフィは時々、鍛冶屋での作業後、そのままベルシスの家に泊まる事があるのでジンは所在を確認する。
「昨日からウチに泊まってるけど、もうすぐ起きてくると思う。起こす?」
「いや、起こさなくていい。その代わり、これをレフィのところに置いといてくれ。それと、持ってく得物はなんでもいいぞ」
ベルシスにメモを渡す。
「わかった。じゃあ試しにあれを使ってみるか」
見た目は大人びているが、心躍らす彼女は年相応の少女で、ジンは小さく微笑む。
あまり待つ事もなく準備が終わり、変わらずラフな服装のままウエストバッグを腰に巻いて出てきた。
「マジックバッグに入るくらいの物でいいか?」
マジックバッグは空間魔法で入れられる容量を大きくしたバッグである。
「大丈夫だ。行くか」
「おう」
◇ ◇ ◇
クライ森は街を出て南の方角にある。生息するのは低ランクの魔物がほとんどだが、奥に行くと紛れ込んだ高ランクの魔物が時折見られるため、新人冒険者は奥に進むことを禁止されている。
二人で森を進みながら、ワイバーンを探す。
「奥地の川の近くに開けたところがあったよな?」
「ある。たぶんそこ。ところで、本当に討伐だけか?」
ベルシスは困惑した目でジンを見る。
「あぁ。依頼自体はな」
先程、二人が言っていたところに着き、案の定、ワイバーンが翼を休めていた。体長はおよそ10メートル。平均的なサイズだ。
「俺が正面で気を引くから、ベルシスは回り込んで翼に攻撃して機動力を無くす。あとは適当」
「了解」
ベルシスが回り込むのを見届けて、ジンはワイバーンの前へ堂々と歩いていく。
「〈ファイアボール〉」
手をかざし、唱えると手のひらに魔法陣が浮かび、文字通り炎の玉が出ると、ワイバーンに向かって飛んでいく。
この世界には『魔法』がある。魔力を媒体に魔法陣を展開して発動する。〈ファイアボール〉のように戦闘系の魔法もあれば、非戦闘系の魔法もある。また、魔法には『初級』『中級』『上級』『特級』と階級があり、階級が上がる程、威力や効果も上がる。
魔法以外にも戦闘をする際、『戦技』を使用することがある。戦技は主に素手もしくは武器を用いた技の呼称である。魔法とは違い、魔法陣を展開せずに使用し、超人的な技を可能とする。
そして、この二つの他に『スキル』がある。種類は戦闘系や非戦闘系問わず存在し、尚且つ強力なものが多い。しかし、スキルは一人一つしかなく、持つ者自体少ない。その理由として、スキルは魔法や戦技とは違い、後天的に得ることが出来ないためである。故に、その希少さからスキルを持つ者を『スキルホルダー』と呼ぶ。
ファイアボールが頭部に当たったがダメージは無い。
出会い頭に、火の玉をぶつけられたワイバーンは翼を広げ、咆哮で威嚇する。
その瞬間、ベルシスは後ろから三本の投擲用の短刀を投げ、二本は両翼に刺し、最後の一本は外した。それでも、機動力を奪うのには充分だった。
ワイバーンは短刀を投げられた方に顔を向けるも、既に彼女は居らず、気づいた時には足元にいた。
「もらった!」
武器を振りかざすと、その先端に付けられたナイフは首元に刃を通す事が出来たが、致命傷には至らなかった。
「チッ! やっぱり刃が短いか」
ワイバーンは怒り狂うまま腕をベルシスに叩きつけようとした瞬間に、ジンが現れる。
「ふっ」
ワイバーンがベルシスに気を取られているうちに間合いを詰め、大剣で一撃で首を切り落とした。
「何やってんだよ」
「アハハ……ワイバーンの皮を切れるか試したかったんだ」
「切れてよかったな」
「ああ! やっぱり折りたためる割に耐久性が高い! もっとリーチを長くし──」
「──ベルシス」
「ごめんって、反省してる」
「分かったならいい」
「だけど、それを言ったらジンも急に魔法使うなよ」
「そんくらい良いだろ」
「良くない。森が吹き飛ぶかと思った」
「そんな事しねえよ」
「前科ありだ」
「あの時は仕方なかった」
「反省の色無しと。レフィに言っておく」
「……悪かった」
そうして、二人でワイバーンの討伐証明部位を剥ぎ取り、刺した短刀を回収する。そして、外したもう一本の短刀を探す。
「ジン」
ベルシスは予想してた場所よりも少し離れた所に転がっている短刀を見つけた。
「……どうするか」
ジンは明日のことを考えながらベルシスと街へ帰った。