カクテルファミリーへの依頼
ベルシスとレフィの様子を見に行ってから数日。
いつも通り、ジンは広場で笛を吹いていた。一曲吹き終えたところで女性が話しかけてきた。
「こんにちは。ジンさんでお間違いないでしょうか?」
「あぁ、合ってる。あんたは……ギルドの人間か? 見ない顔だな」
「今月から、この街の冒険者ギルドに配属されました『サレン』と申します」
「どおりで知らないわけだ。何の用だ?」
「依頼をしに参りました」
「誰宛にだ?」
「 『カクテルファミリー』にですが、依頼内容から貴方が適任かと、選択はそちらにお任せします」
【カクテルファミリー】
この街で活動するにあたってジンが作った組織。
ファミリーメンバーは、『エグノ』、『オリン』、『アメル』、『ベルシス』、『レフィ』、その他にも何人かいる
「わかった。とりあえず、依頼所まで来てくれ」
「分かりました」
「そういえば、名乗ってなかったな。改めて、俺はジントニック。一応、カクテルファミリーのリーダーをやってる。よろしく」
「はい。ジントニックさん。よろしくお願いします」
「ジンで構わない」
「分かりました」
握手を交し、依頼所に向かう。
「俺が言うのもなんだが、知らない男に、あんま付いて行くなよ?」
「はい。しません。今、あなたに付いて行くのもギルドからの信頼があるからです」
「そうか」
「自衛も出来るので」
「そんなにレイピアに自信があるのか?」
「そこらの冒険者を屠れる程度には……何故、私がレイピアを使うと分かったのですか?」
サレンは自慢げだったのを、すぐに警戒する表情へ微妙に変わった。
「レイピアを使いそうだと思ったから」
「……よく分かりません」
いい加減な理由を言うも、さらに警戒された。これ以上疑惑を産まないために正直に話す。
「握手した時、ギルドで事務的なことをしてる割に握力があった。いや、手首が強いのか、手の変形も特に感じなかったし、華奢だ。重いものを振るとは思えない。なにより、一番の理由は」
「理由は?」
「勘だ」
「……なんですかそれ」
「当てずっぽうだ。さっきも言ったが、結局、レイピアを使いそうだと思ったってのが一番の理由」
「やはり、よく分かりません」
他にも、ちゃんとした理由はあるが、女性に対して握力が強いってだけで気に障るかもしれないのに、初対面で異性から身体の事をとやかく言うのは危険人物になりかねないため、ジンは言わない。
◇ ◇ ◇
そうして話しているうちに、依頼所に着いた。
依頼所に入り、テーブルを挟んで対面に座る。
「依頼内容は?」
「こちらになります」
サレンから依頼書を受け取り、目を通す。
「Cランクの依頼……ワイバーンの討伐?」
「はい。昨日、クライ森の奥で目撃されたので、お願いできますか?」
「別に構わないが、カクテルファミリーじゃなくても良くないか?」
「いえ、この街でワイバーンを討伐できるランクの冒険者がいるにはいるのですが、最近、新人の冒険者が増えてきたため、高ランクの方に早めに倒していただきたいのです。あと確認のためにギルドカードを見せていただけますか?」
「そうか。分かった。……ほい」
「……はい。Aランクですね。ありがとうございます」
冒険者には『ランク』というものが存在し、能力の高さ、もしくは、依頼の達成率などから格付けされる。
よって、ランク=自身の強さ、という認識が一般的である。
表記はEからA、それ以上はS。
冒険者のランク平均はD~C。BからSに上がるにつれて人数が限られていく。特にSランクは指折り数えられる程度の人数しかおらず、それ以上のランクの格付けが不可能かつ不必要な為、S以上は全てSランクで括られる。
また、依頼には受注する際、難易度によって推奨ランクが定められていることが多い。
「始めからギルドカードを拝見させてもらうべきでした」
「忘れてた。最近見せる事ねえから」
「ギルドカードは嘘つかないですから」
ギルドカードはランクを証明するだけでなく、身分証明書としても使われる。カードの登録時には自分の血を使って登録するため、自分専用のものになる。また、ランクアップなどランクを更新する際に、ギルドのみ保有する魔道具で更新する故に、ランクの変更などの不正ができないため、信用性が高い。
「報酬はハート金貨30枚か……」
『ハート金貨」……ハートという名はこの国の王族の家名からつけられた。硬貨は全部でハート銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類。ハート金貨30枚で3ヶ月くらいは暮らせる。
「わかった。引き受ける」
「ありがとうございます。出発は何時になりますか?」
「この後すぐ出るから明日には終わる」
「すぐ……ですか。でしたら、また明日ここに来ます」
「わざわざここまでくるのか?」
「ええ。ギルドからの依頼ですから」
「そうか」
依頼所から出て彼女を見送る。
「適当に誰か誘うか」
そのままジンも依頼所を出た。