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アメル

 

 日は沈み、街灯は頼りなく光り、エッグノッグまで暗くなった道を歩く。途中、誰とも会うことなく着いた。

 店に入り、また、カランコロンとドアベルが鳴る。



「おかえりなさい!」


「ただいま」


 ジンは、オリンの二度目の出迎えを受ける。

 カウンターに目を向けると、一人の女性が座っていた。


「おかえりなさい」


「ただいま、アメル。お前もオリンの手料理を食べに?」


「ええ、今日は運動して疲れたから外で食べようと思って」



【アメル】


 街の女冒険者。そして彼女はエルフだ。


 特徴的な長い耳、長い翡翠色の腰まである長い髪、スレンダーな体型、綺麗な容姿をしているため、初めて彼女を見る者は目で追いかけてしまう。本人は、そういう事にあまり良い気はしないようだ。



「というか、私はエグノの料理も食べたいわよ」

 

「そりゃどうも。そんな優しく素敵なお客様には、こちらをどうぞ」


 アメルの前に置かれたのは、


「ビーフステーキのオレンジソース添え、です」


 女性でも食べやすい一口大で切られたステーキの上に柑橘の香り漂うソースがかけられている。


「すごく美味しそう! 頼んでもないのに、いいの?」


「もちろん。といっても肉は貰い物だし、オレンジソースは試作品なんだ。味の感想聞かせてくれ」


「なるほどね。でもありがとう。いただきます」


 アメルは早速、一切れ食べる。



「美味しい! お肉はジューシーだし、オレンジソースのおかげでサッパリして食べやすい!」


 アメルは頬を落ちないように抑える。


「それは良かった」


 安堵の笑み浮かべるエグノ。


「ジンの分は?」


 一人だけ食べる事にバツが悪く感じるのか、アメルはエグノに尋ねる。


「こいつは──」

「──お待たせしましたー!」


 エグノが答える前に、オリンが料理を持ってきた。



「オリン特製オムレツです!」



 ジンの前に置かれたのは、ケチャップで可愛らしいニコちゃんマークが描かれたオムレツ。


「ありがとう」


 ジンはオリンにお礼を言う。


「今日はオムレツの気分なんだ」


 エグノの代わりに答える。


()()()だろ?」


 エグノの訂正を気にせずジンは食べ始めていく。


「美味い」


 せっせとスプーンを動かすジンに、嬉しそうなオリンと肩をすくめるエグノ。



「私も今度オムレツ作ってみようかしら……」


 アメルは何やら思いついたように独りごちる。


「アメルさん、お待たせしましたー。野菜スープです! パンはいりますか?」


「ありがとう。パンは大丈夫」


「わかりました!」


「オリンの分もオレンジソース作ったから食べてくれ。客はもう来ないだろうし、片付けも俺がやっとくから」


「えっ、でも」


「作る側としては美味しいって言ってもらいたいだろ? だから、早く冷めないうちに」


「はい! ありがとうございます!」



 エグノに促されて、オリンもカウンター席に座り、食べ始める。美味しい美味しいと頬張り、幸せそうにしている姿は非常に微笑ましい。


「アメル、一口欲しい」


 そんなオリンを見ていたジンがアメルにねだる。


「エグノに作ってもらえば?」


「そこまではいらない」


「そもそも今日はオムレツの気分じゃなかったの? ……まぁ、いいけど。オムレツのお皿に置いていい?」


「あ」


 アメルの質問を聞き流し、ジンは口を開ける。


「何?」


「何って、スプーンだと食べ辛いだろ?」


 スプーンを掲げる。


「なにより早く食いたい」


「はぁ…全く、しょうがないわね。あ、あーん」


「あむ」


「どう?」


 アメルは自分で作った訳では無いが、つい聞いてしまう。


「美味い」


「そう。エグノに感謝ね」


「くれたアメルにもな。やるよ」


 ジンはオムレツを一口分スプーンで掬い、アメルの口元に差し出す。


「え! ちょっ! あのっ!はむ…………ん、美味しい」


「オリン、オムレツ美味しいってよ」


「本当ですか! わーい! よかったー!」


「オリン、すごく美味しいわ。今度作り方教えてくれる?」


「もちろんです!」



 ニコニコしているオリンに笑顔を向けてからアメルはジンの方をキッと睨む。


「急にビックリするじゃない」


「悪い悪い」


「絶対悪いと思ってない!」


 改めて自分の行動を振り返るアメル。



「あーんって、あーんって……」


 顔を染めて呟きながら、赤いネックレスをいじる。



「今日はギルドの依頼か?」


「んんっ。ええ、そうよ。依頼とは別に弓の訓練もね」


 アメルは調子を取り戻しながら答える。


異常(なにか)あったか?」


「近場は、これといった変化は無いわね。魔物の強さ、エンカウント率、オマケに私の弓の腕も変化なし」


「そうか。魔物は問題ないとして、弓に関しては専門外だからなぁ」


「私しか使わないものね。気休めかもしれないけど、ベルシスに今使ってる弓をみてもらおうかな」



 うーん。とアメルが唸る横で、オリンがハッと思い出し、


「ベルシスさんは今日どうされてるんですか?」


「あー多分、レフィとまた何か作ってると思うわよ」


「なるほど。お二人はちゃんとご飯食べてますかね?」


「アイツらのことだから適当に済ましてるんだろうな」


「明日、様子を見てくる。ついでに弓を見てもらうわ」


「俺も行くわ。なんか心配だから」


「じゃあ明日何か簡単に食べれる物を作っておくので、持って行ってあげて下さい!」


「ありがとう、オリン。私が持っていくね」


「わかった。頼むわ」



 しばらく他愛のない話をして、夜が深まる前に解散となった。


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