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親子のその後

 

 マタリがカカゼに診てもらった翌日、朝からモカは商店街へ、おつかいに来ていた。



 病は治っても体力が戻りきってないマタリが買い物に行こうとするので、モカが代わりに行くと言ってきかなかった。


 結果、折れたマタリは簡単なおつかいを頼んだ。



 モカは、マタリに渡された手提げ(かご)の中からメモを取り出す。


「お芋に……ってお芋だけ? も〜お母さんてば〜子供扱いして!」


 モカはメモを読んで、品物の少なさにびっくりする。


 マタリが、娘に無理させないように配慮したのだろう。



「え〜っと、お野菜屋さん、お野菜屋さんは…………あった!」


 青果店を見つけたモカは並べられている野菜を眺める。


「このお芋さんたちにしよう! あと、他のお野菜も欲しいけど、どうしよう……」


 袋の中の少ない硬貨を見つめて考えていたら、店主が出てきた。



「いらっしゃい! 君は、おつかいかな?」


「はい!」


「そうか、偉いな! 何を買うんだい? うちは何でも揃ってるよ!」


「ありがとうございます。あの、お芋を四個ください」


 他の野菜は諦めて芋を買うことに決めたモカは硬貨を店主に渡す。


「はいよ! 籠を貸してくれるか?」


 籠も渡すと、店主は芋だけでなく他の野菜や果物も入れた。


「そんな偉い君におまけだ!」


「え!? いいんですか!?」


「おうよ! いつもジンさんに世話になってるし、なにより子供はいっぱい食べて元気でいなくちゃな!」


「ジンさん?」


「ん、いや、こっちの話だ。もっと他に何か欲しいものあるか? 芋は足りるか?」


「こんなに貰えたら充分です。ありがとうございます!」


「謙虚で良い子だな! また買いに来てくれ!」


「はい! ありがとうございました!」



 丁寧にお辞儀をして、歩きながら籠の中を見る。


(こんなに貰っちゃった! お母さんもびっくりするだろうなぁ。あと今日は何作ろう? ……そういえばジンさんって言ってたけど何だったのかな? あっ! ジンさんにもお礼に何かしてあげたいな!)


 ニマニマしてしまうのを止められないでいると、パン屋から出てきた女性と目が合った。女性からふんわりと香ばしい匂いがする。パン屋で働いているのだろう。


「ずいぶんと嬉しそうだけど、何か良いことでもあったのかい?」


「あ、あの、お野菜屋さんでお芋を買ったらおまけしてくれたんです」


「あら、良かったわねー! おつかいかしら?」


「はい!」


「一人で偉いわね。なら、ちょっと待ってて」



 女性は店に戻り、いくつかのパンを袋に入れて持ってきた。


「これ食べてみて」


 そのうちの一つのパンを一口大にちぎり、籠で手が塞がっているモカに食べさせてあげる。


「美味しいです!」


「良かったわ。はい、持って行って」


「え? でも」


 袋ごとパンをカゴに入れられ、戸惑うモカ。


「試作品なのよ。だから遠慮しないで。家族の人にも食べさせてあげてね」


「では、いただきます! ありがとうございます!」


「あなた名前は?」


「モカです!」


「モカちゃんね。また食べたくなったら、うちに買いに来てちょうだい」



「おいおい、子供をたらし込むってのはどうなんだ?」


 急に大きな男性に声をかけられモカはビクッとする。



「人聞き悪いこと言うんじゃないよ。この酒バカ」


「ひでえいいようだな」


「あの……」


「ああ、俺は向かいで肉屋をやってるんだ。お嬢ちゃん。これも持って行きな!」


 肉屋の男性は沢山の干し肉を籠に入れる。


「パン屋と似たような理由だから遠慮しなくていいぞ!」


「どうせ、酒止められて食べなくなったつまみだろ?」


「んんんんなわけねえよ!」


「図星ね」



「ふふっ、じゃあ、いただきます」


「おう! じゃあ気をつけろよ」


「気をつけるんだよ」


「ありがとうございます」


 二人の見送りを受けて歩き出すが、いっぱいになった籠はモカが一人で持ち帰るのには重すぎた。


 モカは荷物に揺らされるようにフラフラ歩く。



「大丈夫?」


 向かい側からきた女性に声をかけられた。


(すごく綺麗……お姫様みたい)


「あのー、あなたの事なんだけど?」


「あっ! ごめんなさい! ぼーっとしちゃって」


 彼女に見惚れていたモカは、しゃがんで目線を合わしてくれる彼女の声で我に返る。


「いいのよ。荷物持ってあげるわ」


 彼女の優しい笑みにモカは安心を感じた。


「あ、でも」


「どこかに持って逃げたりはしないわ。でも、そうね。じゃあ、あなたも籠を持って」


「は、はい」


 二人で一つの籠を持つ。モカはほとんど手を添えているだけ。モカは知らない人と並んで歩くなんて普段はしない。でも、何故か彼女の事は信頼ができると感じていた。



「あの、お姉さんのお名前は?」


「私は『アメル』。冒険者をやってるの。あなたは?」


「モカって言います」


「あなたがモカちゃんね! ジンから聞いてるわ」


「え!? ジンさんのお友達なんですか!?」


「友達……んーそうね。お友達よ」


「お友達! 一緒に冒険したりするんですか!?」


「ときどきね。最近はあんまりしてないけれど」


「へー! それから、それから!」



 モカはアメルと家に着くまで話し続けた。主にジンのことを。


「あっ、私ずっとジンさんのことばっかり、ごめんなさい」


「いいのよ。モカちゃんはジンのこと大好きなのね」


(こんな女の子までも、ジンは本当に女泣かせね)



「はい。その、アメルお姉ちゃんも優しくて好きです!」


「ふふっ、ありがとう」



 家に着く頃には、モカはアメルに相当懐いていた。



「ただいまー! みてみて! こんなにもらったの!」


「おかえりなさい。そんなにたくさんどうしたの!? あら、そちらの方は?」


 ベッドで体を起こし、洗濯物を畳んでいたマタリはアメルを見る。


「アメルお姉ちゃん!」


「はじめまして、カクテルファミリーのアメルです。ジンからお二人のこと聞かせてもらいました。元気になられているみたいでよかったです」


「はじめまして、マタリです。その節は本当に感謝してもしきれないです」


「いえ、こっちが勝手にやった事ですから。あれから特に問題は無いですか? 具合が悪くなったとか?」


「おかげさまで、すっかり良くなりました。まだ娘には心配されてベッドの上にいる事が多いですが」


「お母さんはまだ無理しちゃダメ! 早く元気いっぱいになれるように今日は美味しいご飯食べようね!」


「わかったわ。でも、どうしてそんなたくさん……もしかして、またご迷惑をおかけしましたか?」


「私は何も。商店の人たちがモカちゃんを可愛がって色々あげたんだと思います」


「そうですか、よかったです。この街の人たちは温かいのですね」


「ええ、本当に」


「そうだ! アメルお姉ちゃんも一緒にご飯食べよ!」


 家の中、母親と話していたという事もあり、モカは丁寧語が抜ける程にアメルに気を許していた。


「よかったら食べていってください。たくさんもらったみたいなので」


「ごめんなさい。これから用事があって」


 親子二人から誘われるのをアメルは苦笑いで断る。


「えー! そんなぁ」


「また今度ね」


「うん……」


 アメルは断りの返事に肩を落とすモカの頭をしゃがんで撫でる。


「じゃあ、またねモカちゃん。マタリさんもお大事に」


「次は絶対だよ!」


「ありがとうございました。ジンさんにもよろしくお伝えください」


「わかりました。あと、『モズボス』という方は()()()()()()()街を出て行ったみたいで、この街には戻ってこないそうです」


「そうですか……」


「はい。それでは」


「今度はジンさんも一緒だよ!」


 大きく手を振るモカにアメルは手を振り返し、家を出た。


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