命知らず
次の日、サレンはギルドの正式な業務を終わらし、依頼所へ行く。依頼所に着いてジンに勧められるまま、イスに座り、依頼の報告を受ける。
「遅くなり申し訳ありません」
「気にしないでいい、ギルドの仕事で忙しかっただろうしな」
「いえ、まだ仕事中です」
「そうか」
サレンは忙しかったという部分に引っかかったが流して、証明部位の確認をする。
「……確認できました。こちら報酬のハート金貨30枚になります」
「いらねえ」
「え?」
(いらない?)
「武器の修理費に当てたらどうだ?」
「……どういうことでしょうか?」
(武器の修理費? 昨日、短刀を弾いてレイピアが脆くなったことに気づいた? そんなまさか)
「それはこっちのセリフだ。なんの真似だ?」
「仰っていることが分かりません」
なんとか白を切る。
「この依頼、ギルドからの依頼じゃないだろ」
(………バレていた)
サレンは必死に頭を回転させる。
(この状況はどう考えてもマズい。打開策を捻り出さないと)
しかし、依頼書を不正に持ち出し書き換えたこと、サレンの個人による行い、全てジンに気づかれていた。
(けど、それよりも彼はギルド内部の情報を知っていた)
(確信した。彼は危険だ)
「…………いつから気づいていたんですか?」
もはや言い訳は意味を成さないので、自白し、認める。
「依頼書を見て気づいた。なんなら最初会った時から疑ってた。……さて」
ジンが立ち上がった瞬間、ワイバーンとの戦闘で同行してた彼女が使っていた武器を突きつけられた。
「っ!! 今どこからっ!?」
(全く見えなかった。同ランクのはずなのに、彼の動きを目で追えなかった)
「俺の質問に答えろ。じゃなきゃ首が飛ぶぞ。見たと思うが、これはワイバーンも切れる代物だ」
「私が死んだら問題になりますよ?」
「構わねえ。ファミリーの為なら殺しだってやる。あと質問するのは俺だ。勝手に喋ってんじゃねえよ」
(苦し紛れの脅しをするがダメだ。下手すると本当に死ぬ。逃げる機会を窺いつつも答えるしかない)
サレンは嘘を吐く意味も無いので正直に質問に答えていく。目的、理由全て話した。尾行にも気づかれていたことを知り、自分が情けなくなる。ただ、おかげで死からは遠のいた。
「この件は互いに無かったことにしよう。俺が招いたことでもあるしな。だが、正義感が強いのはいいが、その生き方は短命になるぞ」
(ここにきて、その提案はありがたいが……アドバイスは求めてない)
「この生き方しか知らないのです」
こんな状況でも、悔しくて少し煽ってしまうあたり、自分が短命と言われる所以だと気づく。
「そういうのは嫌いじゃない」
(笑われた。だが、気が緩んでる。逃げるなら今しかない)
「それと、忠告だ」
ドアに向かって動き出そうとした瞬間だった。
「ファミリーに何かしてみろ。そん時は首を飛ばすだけじゃ済まさねぇからな」
サレンは殺されたと感じた。
(体が動かない。これが同じAランク? ありえない。こんな殺気を放つAランクがいてたまるものか、こんな化け物に抵抗は不可能だ。確実に殺される)
声も出ず、頷くことで精一杯、冷や汗が止まらない。
彼の持っている武器が奇妙な音が鳴り、反射的に体が強ばる。恐る恐る横めで見ると、先程の刃が手の形に変わっていた。
(これは……孫の手?)
「まぁ、街のヤツらはお人好しがすぎるから疑うのも無理ないか。だから、アイツらが困ってる時は手を差し伸べてやってくれ。何かあれば俺らも協力する」
威圧感を消して、孫の手? を仕舞い、彼は話す。
(内容に嘘は見えない。……彼は本当に善人なのかもしれない)
「わかりました。しかし、あなた自身のことは、まだ信用しません」
(いや、あの殺意は本物だった。目の前にいるのはBランクの皮を被った得体の知れない何かだ。信用してはいけない)
サレンは席を立つ。
「これで失礼します。報酬の方は……」
「始めにも言ったが修理費にでも当てろ。ベルシスの短刀で刃こぼれしただろ。なんならアイツに修理を頼むか?」
(正直ありがたい。流石にギルドから報酬金を持っていくのは無理だったから自分の手持ちで代用していた。しかし、これ以上彼に借りを作るのはダメだ。レイピアに関しては自分でなんとかする)
「分かりました。それは結構です。頼むにしても自分で頼みます。では」
出来るだけ早く、ここから出たかったサレンは扉に手をかけるが、立ち止まる。
「あなたを信用していませんが、一つだけ信憑性のあることを言ってました」
「?」
「『知らない男には付いて行くな』です」
やられっぱなしではいられず、小さな意趣返しをして、短命になると自負する彼女は依頼所を出た。