3段階で見るなろう作品書籍化の変遷
「月導」アニメ化にともなって、「アルファポリス」という語を見ることが増えたのでつい作成。
嫌われる理由は理解しつつも、時に事実と反する叩かれ方とかを見ると思うところもある。
◆1 web書籍化唯一の手段──アルファポリス
◆2 高ポイント≒書籍化構造の出現──ヒーロー文庫
◆3 大手出版社の参入と書籍化の一般化──KADOKAWA
◆1 web書籍化唯一の手段──アルファポリス
今でこそなんら珍しいものでは無くなった、小説家になろう掲載作品の書籍化であるが、10年前のそれは非常に限られたものであった。リニューアルに関する記事(2009年09月23日)を見ていくと、
>リストの下部に「出版社の方へ」と書いてはおりますが、数年間運営していて一度もメッセージが来たことはありません。
という記述が見られ、少なくとも00年代中だと、なろう掲載作品が直接書籍化されるなどというのは、まずあり得ない状況だったようだ。
その後2010年から徐々に、書籍化作品が見られるようになっていくのだが、それらはほぼ「アルファポリス登録のなろう作品」の書籍化、と言っても過言では無い。
その中でも特に多かったのは、2010年11月に設立されたアルファポリスのレジーナブックスであり、2012年初頭までの書籍化例としては、女性向けの恋愛作品が大半を占めていた。その後に続くような形で、なろうランキングの上位にあった男性向け作品も多数書籍化を遂げていくこととなる。
この流れの中である意味有名だったのが、2011年8月と早期に書籍化を遂げた「シーカー」であった。内容やネタ的に語られる部分については割愛するが、「アルファポリスに登録して」「ある程度ポイントを集める」という条件を満たせば、自分の作品も夢の書籍化を遂げうるという、現実的な道筋がついた出来事であったと言える。
ただ例外についても触れておこう。
少数ではあるがアルファポリス以外でも、なろう作品が書籍化された例は存在する。アニメ化に至った「ログホラ」「劣等生」「オバロ」が特に著名な作品と言えよう。
しかしながらこれらの作品はあくまでも「例外」に過ぎない。ログホラは同作者の2ch投稿作「まおゆう」書籍化と合わせてのもの、劣等生は別作を電撃大賞に応募した際に声をかけられた、オバロはタイミング的にarcadiaで書籍化決定してからなろうへもマルチ投稿、といった具合である。
それらの出版社がその後継続的になろう作品を刊行していった、なんてことは数的に見ても全く無く、あくまで目に留まった「ごく一部の作品」が拾われたに過ぎない。
表中の「フェザー文庫」は、そんな状況の中で2011年11月、web小説を専門に書籍化するレーベルとして出てきた存在だ。刊行作品についても当時のなろう累計上位を押さえる形となり、期待した人もいたかもしれない。
……のであるが、このレーベルは色々と問題だらけであった。作者の活動報告を覗くと3月には契約があったようなのだが実際には遅れに遅れた刊行、詳細は触れないものの、軽く検索するだけでも黒い噂やら書籍作者の不満の表明やらが出てくるなどと、なかなかひどいものである。
エンターブレインや電撃文庫といったレーベルには、ごく僅かな有力作品が拾われるのみ。フェザー文庫は参入こそ早かったものの、実際に書籍を刊行するための能力を著しく欠いていた。
このように手が届きそうにない存在と、一方で極端な失敗例が存在したというのも相まって、「書籍化のために能動的に動けて」「何より信頼がおける」web作品の出版社として、アルファポリスは長くなろうで非常に大きな存在であった。
以降多くの出版社がなろう作品書籍化に参入してくることとなり、アルファポリスは相対的にその地位を押し下げていくこととなったが、現在でも刊行点数としては最も多い出版社にあたる。なろう作品書籍化の有力ルートとしてのアルファポリスという関係は、2016年06月のダイジェスト化禁止まで続いた。
◆2 高ポイント≒書籍化構造の出現──ヒーロー文庫
2012年までのなろう投稿作品の書籍化手段としては、基本的にアルファポリスが一強であったと言える。書籍化に伴うダイジェスト化や作品削除に関しては読者的に不満だったろうとは思うが、作者からしてみるとそれは夢の書籍化作家になる唯一の手段と言ってもよく、なろう投稿作品をアルファポリスランキングに登録するのは広く一般的なことであった。
こうした構造が変わっていく切っ掛けとなった出来事が、2012年09月の「ヒーロー文庫」創刊だ。
2012年07月まで累計1位にあった「ヒモ」に、それと代わって累計1位になった「内密」と、まさに当時のなろうの顔と言うべき作品の相次ぐ書籍化。それまでのように「アルファポリスへの登録」を行わなくても、「なろうでポイントを集め」さえすれば書籍化を叶えてくれる(大丈夫そうな)レーベルの出現である。
創刊からしばらくの間はライバルと言うべき企業も存在しない環境であり、当時の非アルファポリス登録の累計上位作品を次々と書籍化し、現在でも有力なレーベルと言えよう。アニメ化とスパロボ登場が叶った「ナイツマ」や、漫画が1000万部を超える大ヒットを見せている「薬屋」などは特に著名な作品だ。
ここで当時のなろうに関して、軽く数字で見ていきたい。
2012年10月を例にとると、ユーザ数(左軸)では25万人を超え、累計10位のポイント量(右軸)としては5万ptを超えたあたりである。非常に雑ではあるがブクマ数によるポイントを約6割と仮定すると、大体1万5000程度のブックマークを集めた作品といったところか。
何が言いたいかというと、あくまで当時の基準にはなるものの、このあたりが出版社的に「売上が期待できる」ラインとなったのではなかろうか。
それまでの出版社の経験による判断を越え、純粋な「数字」として、「これだけのブックマークを集めた作品であれば、書籍化した時もこれだけ売れるだろう」という考え方へのシフト。小説家になろうというサイトのシステムと、集まったユーザ集団の数が、出版においても有益と判断される水準に達し、ビジネスとして離陸していく時期の象徴のように思う。
◆3 大手出版社の参入と書籍化の一般化──KADOKAWA
ヒーロー文庫創刊からの約1年、累計上位作品の書籍化に関しては、依然重要なルートだったアルファポリスと、新興のヒーロー文庫の2強とでも言うような環境であった。一応女性向け作品に関してはスターツ出版にアリアンローズと参入が見られ、書籍化が出始めてはいたものの、全体として刊行点数はまだまだ控えめだったと言える。
量的にもなろう作品の書籍化が激増していくタイミングを挙げるなら、それは2013年08月の「MFブックス」創刊であり、ライトノベル業界最大手と言うべきKADOKAWAグループの参入だろう。
(厳密に言えばKADOKAWAグループが子会社9社を合併したのは2013年10月のことであり、先述したエンターブレイン含め、時期によって出版社名は揺れがある)
2013年後半から2014年にかけてと、累計100位内を中心として非常に多くの作品が書籍化を遂げていった。この中にはアニメ化に至り、大ヒットを見せた作品も多く見られる。「異世界かるてっと」のような取り組みが出来たのも、人気作品を多く集めた大手グループだからこそと言えよう。
上の表で薄黄色を付けたレーベルがKADOKAWA系にあたる。もっとも昨今主流の「シリーズ累計発行部数」に関してはコミカライズ等、様式や出版社を跨いでの数字であり、必ずしも参考にはしづらい面もあるのだが。
他のレーベルに関しても見ていくと、2014年からなろう作品の出版に参入した例がかなり多く見られた。上の表中に見られるものでは、オーバーラップ文庫・GCノベルズ・一迅社文庫アイリス・TOブックスであり、刊行点数の多いアース・スターノベルなどもこの年である。
多様な出版社がなろう作品の書籍化を手掛けるようになり、なろうで人気になりさえすれば書籍化の声がかかる。こうした状況が当たり前になっていったのが、2014年であったと言えよう。
以降のなろう作品の発展普及を考えるには、メディアミックスが複雑に絡んでいって難しそう。特に漫画版のことも考えていかないと多分片手落ち。
00年代とかそれ以前のライトノベルは、コミカライズは基本壊滅的だったから、発行部数が小さくなったりするのも仕方ない面がある。それを踏まえても昨今のなろう作品の数字って化け物じみている感。
転スラとか今年中にもSAO抜いてそうな。
作品に関して
基本的に「書報」掲載作品。
古い時期は「1作でもなろうに投稿」してあれば「個人出版も掲載するよ」だったり「出版社で書き下ろしたのも掲載するよ」だったりして、結構カオスなので表中には多分間違いがある。逆に書報申請してなくて、作品が欠けているってパターンもあるかも。
色分けに関して
赤:異世界転移 (濃いのは召喚、薄いのはトリップ等)
橙:ゲーム要素ありの異世界転移
緑:異世界転生 (黄緑はゲーム世界)
黄:VRゲーム
紫:その他中世ヨーロッパ風
青:その他非中世ヨーロッパ風
あらすじの印象で振り分けた程度なので、間違いとかもありそう。
順位に関して
出版直近の時期のなろう累計ランキング順位。
資料が限られるので、古いものほどあまり正確ではない。また累計が100位から300位まで拡張されたのは、2013年06月だったという点には注意。