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第八話:暴れ竜と不思議な少女

私は仲間が嫌いだ。



私だけみんなと違うから。



みんなは普通できることなのに私は、私だけができない。



友達なんていらない。



私は1人でいたい。



1人なら……



1人でいれば……





誰かと自分を比べなくて済む。



誰かを羨まなくて済む。



誰かを妬まなくて済む。



自分を惨めに思わなくて済む。








だから…………



私は友達なんていらない。


慰める言葉なんて聞きたくない。



私は1人でいたい。


みんな私とは違うから。



私は仲間なんて嫌いだ。


自分が哀れになるから。



そして、



こんなことを思う……


みんなと違う……


……そんな私が大嫌い!!














「ハァハァハァ……」


全力で走り続けたせいで息が苦しい。


だけどそんなことは言ってられない。


木の陰に隠れて周りを窺う。


どうやら撒いたらしい。


「……冗談じゃないよ」


危険があるのは知っていた。


ある程度の覚悟もしてきた。


……………けどさぁ、


「ドラゴンはないだろドラゴンは!」


叫びたくなるのを堪えて小さく毒づく。


見つかったらただでは済まない相手だ。


慎重に行動しなくては。


とりあえず今のうちに状況を整理しよう。


クリスさんのアイディアで僕はこの森にきた。


狙いは当主に僕が死んだと思わせること。


この森はいわゆる秘境と呼ばれる場所で僕くらいの子どもが生き残る可能性はゼロに近い。


これなら当主も僕が死んだと思うだろうから、後は僕が生き延びれば晴れて自由の身……という予定だったんだけど。


いきなりドラゴンに遭遇するとはな。


……やっぱり不幸な星の元に生まれたのかな、境遇からしてついてないしな僕。



ドラゴン。


姿は簡単に言うと羽のある巨大なトカゲだ。


しかし能力はそこらにいるデカいトカゲとは段違い。


比べるのがバカらしくなる程の差がある。


身体は種類にもよるがだいたいが十メートル以上。


岩を容易く砕く爪に、鋭く長い牙、空を飛ぶ種が多く翼は身長の倍近くある。


他にも上位種になればブレスと呼ばれる特殊な攻撃をしてきたり、言葉を理解するものもいるらしい。



まあ上位種ほど賢いから凶暴性が低いそうだが。


小さい町ならたった一体で壊滅可能で、並みの魔法や武器はその鱗に弾かれてしまう。


貴族だろうが逃げ出す正真正銘の化物だ。


かなり珍しく普通に生活していたらまずお目にかかれない希少な存在。




自分の中のドラゴンの知識はこんなもんかな。


いや〜、さすが秘境。いかなりドラゴンにお目にかかるとは。


ハハハハハハハハハ………ハァ。


たぶんクリスさんもこれは想定外だったろうな。


滅多に逢えるもんじゃないしね。


とりあえず生き残るために策を考えないとな。


あのドラゴンは暴れ回ってたからそんなに上位じゃないと思うけど。


ゴウッ!!!


そう考えていた矢先、派手な音が森の中に響いた。


「なっ、なんだ!!?」


振り返った先にはやけ野原が広がっていた。


そこはほんの少し前まで木々が生い茂っていた筈なのに………


ブレス。それが木々を焼き払った攻撃の正体だった。


ドラゴン種の特徴的な能力。ドラゴンたちの魔法のようなものではないかと言われている。


広範囲を攻撃可能なうえに威力は中級魔法以上らしい。


それを使えるということはあのドラゴンは……


「ただのドラゴンじゃなくて上位種……?」


最悪だ。


ただのドラゴンが本能のまま暴れているのではなく、ブレスを使えるほどのドラゴンが何かしらの理由で暴れているとなると逃げることすら難しい。


さっきのは運良く当たらなかったが、ブレスの射程範囲内にいる以上いつ直撃するかわからない。


かと言って全力で逃げてもブレスの射程から逃れるにはしばらくかかるし、ドラゴンに見つかり標的にされるかもしれない。


だいたい闇雲に森の中を進んでもより迷うだけし、解決策になってない。


「となると選択肢は二つか……」


ひとつはこのまま息を潜めてドラゴンをやり過ごす。


運が良ければ無傷で済むだろうが……


ただでさえ不幸なのにそんなラッキーが起こるか微妙だな?


もうひとつはドラゴンを落ち着かせることだけど、理由がわからなければどうしようもないよな〜。


殴って正気に戻るかな?



いや、たぶん死ぬな。


第一、僕の攻撃はほとんど効かないだろうし。


「…………手詰まりか」


突破口が見つからない。


せっかくアドリビティウム家から出られたのにこんなところで終わるのか!!?


「ああもう!! 誰か助けてくれ〜〜!!」


やけくそ気味に大声で叫ぶ。返事など帰ってこないだろうが叫ばなきゃやってられない。




「……なんで人間がいるの!?」


「……………へ?」


誰もいるはずがないと思っていたのに返事が聞こえてきて僕は慌てて声の方を向いた。


僕は声が出なかった。


そこには綺麗な女の子がいた、いや容姿はまだ可愛いという言葉が合っている年頃に見えるのに神秘的な雰囲気を纏っていて綺麗という言葉しか出てこない。



正確には女の子の姿をした何者かだろう。宙に浮いてるし、こんな森に普通の女の子がいるわけがないし。


女の子も僕が森にいることに驚いているらしく、びっくりした顔で僕を見つめている。


しばらく僕らは見つめあっていた。




「ガァァァァ!!!」


「「!!?」」


ヤバい! さっき叫んだせいでドラゴンがこっちにきた!


ポカンとしてる状況じゃないってのに何やってんだ僕は!?


「チィ!」


僕は符をドラゴンの目の前に投げつけた。


「発動!」


カッ!!


「グォォォ!」


符から閃光が溢れてドラゴンがうめき声を出した。目眩ましは効くようだ。


「逃げるよ!」


「え? キャア!?」


魔力を開放しコンバットフォームを再発動した僕は咄嗟に目の前の女の子を抱き抱えて逃げ出した。


「ちょ、ちょっと!?」


「話は後! 今は逃げるの優先!」


女の子がいろいろ言っていたが僕は無視して全力で疾走した。


この際迷うことは気にしないようにしよう。どうせ迷ってるんだし。


ドラゴンはまだ目が見えていないようで、爪で周りを凪ぎ払っていたためブレスを使わなかった。


僕って悪運は強いのかな? ……嬉しくないや。









しばらく走っているとちょうど滝が見えたため、そこで休むことにした。


「フ〜」


僕は大きく息をはいた。魔法を使ったのにかなり息が上がっている。あっ、ドラゴンと遭遇したせいかな?


ドラゴンはさっきの目眩ましで怒ったからか、自分の周りを手当たり次第壊しているので音や土煙で位置がわかる。


逆方向に向かっているようなのでひと安心だ。


「…………ねぇ、下ろしてよ」


「!?」


いかん。うっかり女の子を抱き抱えっぱなしなのを忘れてた。妙に軽いんだよなこの子。


「あ、うん。ごめんな」


僕は女の子を丁寧に地面に下ろした。心なしか女の子の顔が赤くなっている気がする。


やっぱり恥ずかしかったかな?


「コホン! それで何で人間のあなたがここにいるの? 」


「ああ、実は……」


さすがに全部話すわけにはいかないのである程度ボカして事情を説明することにした。


「ふーん、貴族を怒らせて森の中に置き去りにされた、と。それって死ねってことよね」


「いや、まあそうだけど……」


はっきり言う子だな〜。


「やっぱり人間ってよく解らないわ。貴族のどこが特別なの?」


「いちよう、魔力量が段違いだけど………うん?」


なんか違和感があるな。いや違和感自体はこの女の子と出会ってからずっと感じてたけど。


つーか、なんでこの子はこんなところにいるんだ。宙に浮く魔法は有るけど魔力を感じなかったような気がするし。


ホントに人間か、 ………ってあれ?


「"人間ってよく解らない"?」


「………あなた、まだ気づいてなかったの」


なんか呆れられた。





「精霊!!?」


女の子、ルキアは自分のことをそう言った。


精霊と言えば伝説級の存在なんだが…。


精霊はこの世界において人間を遥かに凌ぐ力を持つ高位存在だ。


古代には精霊から武具を授かって王になったという話が伝わっているが、近年は存在自体が疑われてたと本で読んだことがあるんだけど。


「………本物?」


「まだ疑ってるの? じゃあ、これでどう?」


ルキアはそう言うと身体を半透明にして宙に浮き上がった。


魔力を使ってはいない。人間が魔法なしでこんなことができるわけがない。


つまり、ルキアは本物の精霊……。


「えっと、サイン貰っていいか?」


「別にいいけど、とりあえず落ち着きなさいよ」


いや、ドラゴンはちゃんと確認されてるけど、精霊は未確認なんだよ。


すごいじゃん、歴史的瞬間しゃん。そりゃテンパるよ!


つーかこの森すごいな。正に人外魔境、秘境、人類未踏の地だよ。


ドラゴンの上位種に精霊って、ここに探検家が来たら世紀の発見だらけだな。





失礼。取り乱した。とにかく話を戻そう。


ルキアは話では一時期から精霊は人間の目の届かない場所に隠れすむようになったらしい。


その数多ある場所のひとつがここらしい。


「あれ、じゃあ僕と話してちゃ不味いんじゃ…」


「かまわないわ。事故だし、もう他の精霊はいないから」


「? いない?」


「さっき見たでしょ。あのドラゴンよ」


聞くと精霊の住んでいた集落のような場所は数日前にドラゴンに襲われ壊滅したらしい。


他の精霊は別の集落に移動したそうだ。


「じゃあなんでルキアはここにいるんだ?」


「…………」


僕の質問にルキアは答えず、ある方向を指差した。


「そっちに行けば、森から出られるわ。じゃあね!」


「あっ、おい!」


ルキアは僕の呼びかけに振り返らず、森の奥に消えてしまった。


このまま森を抜ければ自由になれる。だが、どうしてもルキアが気になった。


精霊を心配する必要なんてないと頭ではわかっているが放っておけなかった。


僕は急いでルキアの後を追った。


あの目。僕の"なんでここにいるの?"と聞いた時の目。


あれを僕は知っている。


自分に、世界に絶望した目。


自分の生を呪った目。


楽になろうと死に逃げようとする目。


…昔、僕がしていた目だ。


僕が追いついた時にはすでにルキアは絶体絶命だった。


ドラゴンはルキアを切り裂こうと腕を振りかぶっていて、ルキアは避ける気すらなくただ立っている。


間に合うか!?


ドガッ!!


ドラゴンの爪は地面を砕いただけだった。


ギリギリでルキアを掴み離脱することに成功したのだ。


「なんで……?」


ルキアは不思議そうな顔で僕を見ている。目には涙が光っていた。


「決まってんだろ…」


僕はドラゴンの方に向き直った。勝てるとは思っていない。いますぐ逃げ出したいくらいだ。


だから、せめて精一杯の虚勢をはろう。


「ドラゴンから可愛い姫を助けるのは勇者の仕事だ!!」


ルキアを見捨てるなんてできるはずがないのだから。


読んでくださった方どうもありがとうございます。ついにヒロイン登場。実は出す直前まで名前決めてませんでした(実話)。うっかりしてたな〜。結局主人公の名前関連から取りました。某死神の漫画からじゃないです。次回ドラゴンと対決。勝ち目ほぼないですが(笑)。そこはヒロイン、ルキアに期待ですね。感想・意見お待ちしております。

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