第五話:初戦! 落ちこぼれの実力 後編
アヤツを認めることなどできるはずがなかった。
アヤツは魔力の並な落ちこぼれだったのだから。
アドリビティウム家の血を引いているのにも関わらずに、だ。
優秀な者を生ませるためにあの女を連れてきたというのに。
とんだ役立たずだっだ。
何かの役に立つかと生かしておいたが所詮は落ちこぼれ。
私に逆らうことの愚かさすらわからないとはな。
だが、これで終わりだろう。
アヤツはどうやっても私には勝つことなどできない。
アヤツの魔力は……………
私よりはるかに下なのだから。
僕は地面に倒れこんでいた。当然直撃は避けたが、衝撃はどうしようもないし。
「無様だな」
当主は優越感に溢れた顔でこちらに歩いてくる。もう勝った気でいるらしい。
「……舐めるな。まだやれる!」
「口だけは大したものだな。だが無駄だ。所詮お前は落ちこぼれなのだ。」
確かに魔力は並だが貴族と比べんな。お前らの方がマイノリティだろ。
「魔力は受け継がなかったくせにあの女の愚かさは受け継ぐとはな」
ピクッ!
「あんたの人間性を継がなかったことを自分で誉めてやりたいんだが…」
きっとろくでもない奴になっただろう。………………間違いなく。
「だが、度胸は認めてやろう。限界まで体に強化かけ続けたボロボロの状態でそんな口がきけるのだから」
ニヤニヤと笑いながら当主は歩いてくる。ムカツクな。
「どうだ? 命乞いして私たちに忠誠を誓うなら助けてやるぞ」
嘘だ!!!
あの顔はいたぶる気満々だ。命乞いさせて助かると思った相手を絶望のドン底に突き落とす気だ。
「さぁ、言ってみろ。お許し下さい。今後一生アドリビティウム家に忠誠を誓います、と」
プルプルプルプルッ!
堪えろ! 堪えろ! 堪えろ! 堪えるんだ!
「体が痙攣しているのに強情だな。いや、もう喋る力も残ってないか?」
そして次の瞬間、歩いて来た当主が僕の間合いに入った。
「うっさいわ!!! この性格破綻野郎!!!!」
ズゴッッッッッ!!!
「グオワ!!」
一気に起き上がって近づき当主に今までの鬱憤を込めた渾身の膝げりをぶちかます。追撃しようとしたが障壁が張られたため断念した。
「…ばがな、おまえのがらだはげんがいのはず」
ダメージのせいで上手く喋れないらしい。本当は大笑いしたいが後にしよう。………………残念だ。
「確かに強化であれだけの動きをしたら僕の体は限界だろうね」
「なりゃば、なぜ?」
「でもな。僕はさっきの戦いから強化なんて使ってないんだよ」
「バカな!? 強化無しであんな動きができるはずがない!!」
もう治ったのか、残念だ。とりあえず僕は疑問に答えてやることにした。
「見せてやろうか?」
僕は魔力を解放し、右手に集中する。
イメージは片手剣。
「魔力はイメージ次第でどんな形にもなる」
僕は右手に魔力の剣を作り出した。
「それがどうしたっ!!!」
話は最後まで聞いてほしいんだが。
「また魔力はイメージ次第で様々な性質となる。火、岩、雷とかな」
「私はそんなことを聞いているのではない!!」
当主は魔力を開放し魔法を使おうとしている。僕は気にせず話を続けた。
「だから、しっかりと"イメージできていれば"魔力はどんな使い方だってできる。例えば……」
強く剣をイメージし、右手の魔力を作り替えていく。
「燃やせ! ファイア!」
当主が放った魔法に対して右手を振りかぶる。
「こんな風にな!!」
ザン!
僕は魔力の剣で当主の魔法を切り払った。
通常、変換前の魔力は物体にも魔法にも干渉できない。例えば、障壁はそのようにイメージしたから攻撃を防ぐことができるのだ。
「クッ!?」
「アンタの障壁は危険なものを防ぐようイメージした魔力を発することで攻撃を防いでいる。つまりは曖昧なイメージで魔力を垂れ流してるわけだ」
「だからなんだというのだ!!?」
「けどこれは魔力で剣を再現してるから壊れない限り消費はないし、重さや性質も剣とほぼ同じだ」
やっぱりわかんないかな〜? 普通そんなこと考えたいしな。
「じゃあ魔力で強靭な肉体をイメージしたらどうなるかな?」
「! まさか!?」
「そう、魔力の筋肉で本来の筋肉をアシストするだけだから負担をかけないで超人的な動きができる」
これが切り札その一。
「名付けて、コンバットフォーム!」
これで肉体的にはハンディどころかアドバンテージがとれる。
「待て、お前は確かにフラついていただろう!?」
「ああ、それは……」
そう言うとともに駆け出して飛びげりを放つ。
「演技だよ!!」
バン!!
障壁に防がれたが牽制にはなっただろう。これで当主は迂闊に障壁をとけない。
「ククク…」
また当主は笑いだした。気づかれたかな?
「お前の魔法は大したものだ。これでは私は障壁を張り続けなければならん。だが………威力が足らんな。私の障壁を突破出来なければ意味がない」
……性格は破綻してるのにバカじゃないんだよな〜。
「先ほどの目眩ましに大半の魔力を使ったのは失敗だったな。中級魔法なら私の障壁を破れたかもしれんのに」
「いや、護衛とアンタを引き離すのが第一だったし」
正直、あの鎧とは相性最悪だった。こっちの攻撃ほぼ無力化されるし、当主が残ってるから全力だせなかったからね。
「それに、まだ負けたわけじゃない!」
僕は魔力の剣、ソードを構える。対して当主は障壁を張ったまま魔法を使おうとする。
こちらの攻撃、ソードも打撃も障壁を通らない。あちらは障壁をとかないと魔法が放てない。
魔力を使い続けるあちらの方が不利だがそこは貴族。魔力が尽きるより先にこちらの体力・集中力が切れるだろう。
「燃え尽きろ!! メガファイア!!」
下級なら楽にかわせるが中級は回避に専念しなければならない、あっちも分かっている。
「それっと!」
符を前方に投げて障壁を作り、メガファイアをブラインドにして後方に下がる。
ドーン!!!
障壁はあっさり破られたが回避に成功したから構わない。十分に距離をとり、魔力を解放する。
「魔法か!? 無駄なことを」
「それはどうかな?」
嘲笑う当主を無視してイメージを開始する。イメージは燃え盛る炎。
「いくぞ……燃やし尽くせ!! メガファイア!!」
「なに!!?」
空にかざした左手に巨大な炎塊が出現する。
「魔力は足りぬはず……」
驚いている当主にタネを教えてやる。
「実はな、符に込めた魔力を使ってたからほとんど消耗してないんだわ」
「なっ!!?」
僕が告げた真実に当主は唖然としている。毎日作っていた魔法具のひとつだ。魔力不足を補うために大量に持ち歩いていて良かった。
貴族じゃない以上そう易々と魔法を使えないし奥の手はとっておかないと。
「だが、一撃ならば…」
当主は中級魔法を使おうとする。これは正真正銘最後の一発。だけど相手はまだ十発は撃てるかもしれない。相殺されたら次はない。だから……
シュン!
「!?」
「一時的に魔法を格納できるグローブ、マジシャンズハンド。切り札その二だ。これならアンタに相殺されない」
コンバットフォームのスピードがあれば接近できる。あとは至近距離で中級魔法を開放すれば……
「貴様!! 刺し違える気か!!?」
「舐めるなよ!! こっちは最初から命賭けてんだ!!」
何か勘違いしたのか当主が叫ぶが好都合なので叫び返して全速力で駆け出す。
「く、来るな!! メガファイア!!」
「ハァァァァァァ!!!」
タタン!
当主が怯えながら放った中級魔法は、宙に投げた符で張った障壁を足場にして上空に飛んでかわす。
「正気か!! ただではすまんぞ!!?」
「アンタがな!!」
当主が的外れなことを叫んでいるが僕は死ぬ気は毛頭ない。
僕は左手と右手を合わせ魔法を開放する。
「切り札その三」
左手のメガファイアと右手のソードを。
「融合魔法!!!メガソード・ファイア !!!!」
両手に現れたのは両刃の炎の大剣。爆炎とともに斬りつけるこの魔法ならば僕には反動以外のダメージはない。
「大したものだ、本当に」
当主が焦った様子から一転感心したように呟いた。変わり身早いな。
「しかし、愚かな!! 空中では動けまい、隙だらけだ!!」
威勢をとりもどした当主は即座に下級魔法を使おうする。
確かに両手が塞がっていては新しい符は使えない。
けどそれくらい僕にだって分かっている。
当主が魔法を放とうと障壁をとく。その瞬間、
「発動」
「ガッ!!?」
僕が言い放つとともに当主を雷が襲う。
それは地面に散らばっていた符から放たれている。
目眩ましの時にばら蒔いた符は全て発動させていなかったのだ。
念のためだったんだけどね……
「じゃあな」
その一言とともに炎の大剣を無防備な当主に降り下ろす。
ドガンッ!!!
「ガッ!!」
当主は爆炎とともにぶっ飛んでいった。
僕が……勝ったのだ。
読んでくださった方どうもありがとうございます。どうもこり過ぎたせいでうまくまとまりませんでした。伏線回収できたかな? 感想・意見お待ちしております。