表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

第四話:初戦! 落ちこぼれの実力 中編

最初に抱いた感情は悲しみだった。



自分を愛してくれないという悲しみ。



次に抱いた感情は恐怖だった。



自分に向ける温かみなどまるでない目に対する恐怖。



その次に抱いた感情は怒りだった。



自分のことを理解しようともしてくれないことへの怒り。



母のことを知った後に抱いた感情は嫌悪だった。



母に極悪非道な仕打ちをしたことに対する嫌悪。



そして



目の前で相対した時に抱いた感情は……















「前言を撤回したらどうだ? 土埃が付いてるぞ。誰が汚れさえつけられないって?」


当主を挑発しながら起き上がる。パンパンと土埃を払うのも忘れない。土埃まみれじゃ様にならないからね。


「……貴、貴様!!」


当主はかなり頭にきてるようだ。顔真っ赤になってるし。こういう時にタコみたいだ、というのかな?


「と、当主様!! お怪我は!!?」


「黙れ!!! 何をしておるか!!!」


心配してくれたヤツに怒鳴り散らしてどうすんだか。まあ、確かに護衛としては失格だけど。


「早く始末しろ!!」


「ハッ! 」


護衛がまた剣を構えてこっちに走ってくる。さすがに同じ手はもう使えないだろう。どっちみち、コイツは倒さないといけないし。


「死ねぇぇぇぇ!!」


どうやら護衛さんも頭にきてるらしい。一直線に突っ込んでくる。 好都合だな。


ダッ!!


「ほいっ!」


ガッ! ズルッ!


「なっ!?」


ガシャン!!


こちらも護衛に突っ込んでいき、すれ違い様に足をかける。面白いようにずっこけてくれた。何気に痛そうだな。


「クッ!!」


当主がさっきのような攻撃を警戒し、魔力を解放するがもう遅い。僕は符をあたりにばらまいて唱える。イメージするのは雷。


「サンダー!!」


カッ!!


何枚かの符から閃光が弾けた。


「キャ!!」


「クッ!!」


当主たちは光から思わず目を背ける。ちなみに使用人たちは当主が怒りだした時点で逃げ出している。巻き添えを怖れたのだろうが、忠誠心のなさがうかがえるな。


「おのれ!! 何処に行った!!?」


「ただの目眩まし? なんで?」


目を開けた当主はまたも怒鳴り散らし、ブレアは不思議そうに呟いている。いや、当主には効かなそうだったからね。


僕はよろけながら森に向けて走っていた。見つかる前に距離を稼がないといけない。


「待てぇぇ!! 貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」


いつの間にか起き上がった護衛がすごい勢いで追いかけてくる。全身鎧着てるのに信じられないスピードだ。


だが、追いつかれる前に森に辿り着いた。あとはこっちのもんだ。










「どこにいったぁ!!」


撒いた護衛が叫んでいるが当然無視して、体制を整えるために蔵へショートカットして戻る。これで時間は十分稼げる筈だ。


蔵に辿り着くと、あの護衛を倒すのに必要なものを用意する。そして当主と戦うのに必要なものも。


ここまでやっちゃった以上もう全面対決しかないだろう。僕の計画が台無しだ。


「ま、やるっきゃないっしょ!!」


僕は当主と戦うために準備していた切り札を身につける。


準備は整った。






「オーイ!!」


僕はどこにいるかわからない護衛に向けて声かける。

軽く遊んでみるか。


「おっにさんっ、こっちら! 手のなる方へ!」


「そこかぁぁぁぁぁぁ!!!!」


……護衛のボルテージは下がるどころか上がりっぱなしだったようだ。


楽に誘導できてよかったけど。


「ほら! こっちこっち!!」




しばらくすると、護衛が鎧に葉やら枝やらをつけて現れた。かなり闇雲に走り回ったらしい。


「殺す。貴様は殺す。」


間違いなく目は血走ってるだろうなこれ。


「ハッ! 簡単に殺られるか!」


「笑わせるな!! 強化のし過ぎで体はフラフラ。魔法もあと一発がいいところだろう!!」


確かに僕の魔力量では下級魔法は一日十数回が限界。さっきの目眩ましのように魔法を大量に使えば大半は削られてしまう。


「いいかげんに、しねぇ!」


護衛が走ってくるのを僕はただ見ている。何もする必要はない。


フッ


「なんっ……」


ズドーン!!


なんせ僕と護衛の直線上には自作の落とし穴があるのだから。


「卑怯ものがーーーー!!」


学習せずにまた引っかかった護衛が穴の中で叫んでいる。丸腰相手に完全武装で襲いかかってきた輩に言われたくない。


穴はわりと深いので鎧を着たまま出ることはできないだろう。


「あらよっと!!」


ベチャァ!


「な、なんだ?」


掛け声とともに穴の中の護衛に粘性の液体をぶっかける。実は勿体無いと思うんだけどね。


「…甘い!! これはまさか!?」


「そう。蜂蜜だよ」


「…………。………。……………。………。バカにするのもいいかげんにしろ!!!!」


こっちは大真面目だ。


続いて魔力を地面に浸透させて地面の中に四角い箱をイメージ。


ズズズッ!


その箱を持ち上げるイメージで地面の一部を切り取って持ち上げ、穴の中に投下する。


グシャ!


「こんどは何を?」


次の瞬間護衛は固まった。


「なっ……!」


僕の投げた土の塊から黒い何かがわいてきて、護衛の鎧に群がり始めたのだ。

はたから、見てても気持ち悪いな〜、この光景。


「あ、蟻か!?」


「ご名答!」


僕が切り取った地面には蟻の巣がまるごと含まれていたのだ。甘いものに群がるのは当然である。ひょっとしたら巣を壊した敵とみなしたのかもしれないが。


「これが何だと…っイタタタタタ!!」


全身鎧といえど隙間はある。先ほどの蜂蜜は鎧の中にも入っただろう。蟻も蜂蜜につられ、鎧の中に入る。従って護衛は素肌を無数の蟻にかまれることとなる。


「クソッ!」


ガチャ!


蟻を払うには鎧を外すしかない。狙いどうり、護衛は鎧の頭部を外した。


そう、僕の攻撃を防いでいた鎧を……


「じゃあな。ハァ!!」


ドガッ!!


「ガハッ!!」


僕は手ごろな岩を護衛の頭めがけて、思いっきり投げつけた。


シーン


穴の中を覗き込むと護衛はピクッピクッと痙攣していた。…………生きてはいるな。


「とりあえず、…………大・勝・利〜〜〜〜!!!」


僕は両手を天に向けて突き上げ、声高らかにそう宣言した。


第一関門クリア!!


残るは……………










森の端まで来て見つからないように屋敷の方をうかがう。


どうやら当主とブレアはまだ屋敷に戻ってはいないようだ。律儀だな、意外と。


そういえばブレアの母親はどうしたのだろうか? 最初からいなかったし、健康な人と聞いてたけど病気かな。


…………考えてみると一度も会ったことないな。まぁ、会いたくなんかないだろうけど……立場的に。


いや、それは今考えることじゃないな。僕は思考を切り換える。


当主は少しは落ち着いたようだが、まだイライラしているようだ。


ブレアの方は不安そうな様子で森の方を見ている。不意にブレアが口を開いた。


「…の、…と…さ…」


さすがに距離がありすぎて聞こえない。夜なら気づかれずに近づく自信はあるが、まだ昼間なので断念する。


「…………………」


「ふざけるな!!!」


ブレアが何か言ったら当主が怒鳴り返した。かなりの大声だな。こっちまで聞こえるし。


「アヤツを認めることなどできん。あんな落ちこぼれを!!」


どうやらブレアが僕を擁護してくれたらしい。あの僕を痛めつけていたブレアが。びっくりだねぇ。


当主は聞く耳を持ってないみたいだけど。


ブレアは当主に怒鳴られてしゅんとしてしまった。怒られ慣れてないんだろう。


さてとそろそろ仕掛けますか。僕は姿を隠さずに堂々と歩き出した。


当主は僕の姿を見ると顔がさらに強張った。ブレアは驚いた顔をしている。


「……あの者はどうした?」


「倒したよ。しばらくは起きて来ないと思うけど」


ビギッ!!


怒りを圧し殺した声で聞いてきた当主に軽く返すと、何か不穏な音がしたがあえて無視だ。うん。


「貴様は、逆らうと言うのか、私に…」


「当然!」


ブチッ!!!


挑発しておいてなんだが、かなり当主の顔は恐かった。……逃げ出したくなるくらい。


「良いだろう…。私自ら引導を渡してくれる!!」


「そんなもん、突っ返してやるよ!! このわがまま野郎!!!」


こうして決戦の火蓋は切って落とされた。


互いに魔力を解放してイメージを開始する。唱えるのは属性は違うが同じ下級魔法。だが、使われた魔力にはかなりの差があった。


「燃え散れ! ファイア!」


「潰せ! ロック!」


ドンッ!!!


「クッ!?」


僕の放った地の下級魔法は完全に押し負けて衝撃をモロに喰らう。


それを好機と見て当主はさらに膨大な魔力を解放した。たぶん中級魔法を放つつもりだろう。


「ハァッ!」


牽制として石を蹴りつける。しかし、


バァン!!


「!」


それは当主が張っていた障壁に阻まれてしまう。さすがに甘くはないようだ。


「終りだ。焼き尽くせ! メガファイア!!」


"ファイア"よりもはるかに大きい炎の塊がこちらに向かってくる。


基本的に中級魔法に使われる魔力は下級の十倍。平民では使うことすらできない者の方が多い。


貴族は中級すらバンバン放つことができる。なぜこんなにも格差があるのか? 神に抗議したくなるな。


僕は迫り来る中級魔法を前にしてそんなことを考えていた。


恐怖などなかった。目の前の勝利を確信している当主に対して抱いた感情は……


憐れみだった。


ドカーーーーーン!!!!


次の瞬間、僕の体は宙を舞っていた。


読んでくださった方どうもありがとうございます。なかなか思うように書けないのにアレコレつけ足していたら後編の予定が中編に。しかも、主人公がセコし。弱者が強者に勝つのは難しいです。もっとかっこよく書きたいのですが。感想・意見お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ