第三話:初戦! 落ちこぼれの実力 前編
アイツは私にとって、兄ではなかった。
血のつながりはあってもアイツには魔力がなかったから。
アドリビティウム家の恥。
要らない奴。
お情けで生かされている子ども。
それだけだった。
アイツに魔力がなかったから私は跡継ぎとして教育を受ける毎日を送ることになった。
魔法だけでなく跡継ぎにふさわしい教養を身につけるための勉強、礼儀作法の訓練。
別に怨んでいるわけではない。
アイツにはどうやっても手が届かない領域に私はいるのだから。
嫌がらせをしていたのはアイツがむかつくからだ。
アイツは私に媚びることはなかった。
アイツは私を羨むことはなかった。
私より遥かに弱いくせに。
使用人たちもアイツを虐めていたのは知っていた。
別に止めようとは思わなかった。
所詮、アイツは血がつながってるだけだから。
使用人たちより弱いアイツが悪いのだから。
だから、……私はその光景に自分の目を疑った。
使用人たちを数秒もかからず薙ぎ倒したアイツの姿を信じることができなかった。
アイツが私より強いことを認められなかった。
私はあんな動きには反応できない。
私はあんな攻撃を防げない。
毎日訓練してきた私の魔法が通用しない。
それが私は信じられなかった。
信じることなど……………………できるはずがなかった。
とりあえず、当主の話を整理するとこうだ。
昨日僕が使用人たちをボコボコにしていた様子をなんと妹が目撃していた。
妹からその話を聞いた当主は僕が口止めした使用人たちから無理矢理(殺すぞと脅したらしい)話を聞き出して裏をとりそれが事実だと確認した。
そして今日わざわざ光栄にも当主直々に僕を呼び出したらしい。
蔵の中でしか鳴子の反応がわからない点は改善するべきだった……。
というか、かなり焦ってたみたいだなー。見られてるのに気づかないなんて……。
とりあえず、そこまでの経緯はわかったが、
「当主、それで僕になんの用ですが?」
特に僕を呼び出す理由ないじゃん。
魔力至上の当主は魔力並の僕がいくら強くなろうが興味を持つはずがないし。
すると、当主は後ろに立っていた人たちの中のなんか雰囲気の違う剣を持ち鎧をきた人を指差し、
「お前にはこの者と戦ってもらう」
そう言った。
「…なんで?」
ブン!
「おわっ!」
「無礼者め! 当主様になんという口を聞くか!」
なんか、いきなり斬りかかられました。
僕に斬りかかった、たぶん護衛の人は剣を構えて殺気を全身から放っている。
キレるの早すぎ。カルシウム不足じゃないかな。
「いいか、ブレア。よく見ておけ。出来損ないは出来損ない。私たちに敵うはずがない」
なんか、僕の疑問はスルーされている。ちなみにブレアというのが妹の名前だ。
「当主様。容赦は?」
「いらん。斬り殺せ!」
殺せって言った! 僕いちようあなたの息子ですよね?!
「くそっ!」
懐から符を取り出して剣を振りかざす相手に向けてかざす。
カキィン!
金属音を響かせて符を使った魔法障壁が剣を受け止めた。
「ほう。なかなかやるようだ。だがあの者を倒せぬ以上は私たちに指一本触れることはかなわぬ」
「ですが、お父様。それは私の力では…」
「何を言う、ブレア。お前はアドリビティウム家の跡継ぎ。そのお前に護衛が就くのは当然。だからそれも含めお前の力だ」
キィンキィンキィーン!
僕が殺されかけてるのに平気そうに会話してるし。
だけど話が読めてきた。つまり、昨日の僕の動きを見たブレアは自信を無くしてしまい、それを当主に相談した。だから当主は僕をブレアの前で殺すことで自信を取り戻させようとしている。
………………………………
僕っていったい……?
バキィン!!
「んなっ!」
連撃に耐えきれず障壁が砕け散った。本気でヤらないやばそうだ。けど、
「この…!!」
ガン!!
「……いっつ〜〜!」
相手が鎧、それも全身鎧で体を固めていてはこちらのダメージが通らない。むしろ蹴りを放ったこっちがダメージを受けている。
「おとなしくしていろ! せめて楽に殺してやる」
「冗談!!」
魔力を解放し、イメージを開始する。
魔法を発動させるにはいくつかの段階がある。まずは魔力をコントロールして魔法に使うぶんを引き出す。
次に魔力を使う魔法のイメージにそって変換・形成する。魔法は主に十属性、火・風・雷・光・氷・地・水・闇・聖・魔に分けられ、それぞれの特性があり人によって相性がある。
また、十属性に変換するのとは別に魔力そのものに何か特性を持たせることもできる。例えば障壁の場合、物体に干渉できるようにして剣を防いだり、魔力に干渉するようにして魔法を防いだりできる。
まあ、そういうのはイメージしずらいため十属性に変換するのが戦闘用の魔法では普通だが。
最後にイメージを補強するための言葉と魔法の名前を唱え発動させる。
この作業中は高い集中力を維持する必要があり、未熟なうちは無防備になってしまうため護衛をつけるのが一般的だ。
当主クラスなら集中してる時に障壁を張ったり、魔法を使うときも無防備にならないようにできるかもしれないが。
イメージするのは燃える火。相手との距離を測りながら教本に載っている基本の下級魔法を唱える。
「燃えろ! ファイア!!」
ボン!!
放った魔法は護衛に直撃した。鎧といえど熱は防げないはずだが……
「ちっ、魔法具か!?」
護衛は何事もなかったかのように立っている。どうやら障壁に防がれたらしい。
「その通りだ。貴様程度の魔法が通用すると思うな!」
対魔法用障壁の魔法陣が刻まれている鎧とは、なかなかの高級品だろうな。羨ましい。
「観念したらどうだ。成長しきっていない体では強化もあまり意味はあるまい」
護衛は哀れそうに僕を見ながら告げた。
強化とは身体能力を上げる魔法全般のことで光・地・風属性などに存在する。
これは元々の能力により強さの程度が決まるため確かに子どもの体ではたいして効果は期待できないし、無理をすると体を壊してしまう。
というか、明らかにこっちの戦力分析されてるな。僕を相手にするというなら油断してもっと軽装で来たはずだ。
それなら、例え対魔法用障壁があっても鎧のないところに直接攻撃できるから勝算はある。
だが、ブレアに昨日の動きを見られたせいで対策をとられてしまった。
「ハッ! なめるなよ!」
しかし、こんなところで死ぬわけにはいかない。また、符を取り出して構える。
素手の攻撃はダメ。むしろこっちがダメージを喰らう。
魔法も効かない。障壁を破るには中級以上の魔法がいるだろう。
武器も持っていない。
……絶望的な状況だなー。
「ハァッ!」
ブン!
とにかく今は剣を避け続けるしかない。僕は昨日と同じように魔力を体に纏わせた。
「ハア、ハア、ハア…」
僕は息を荒くしながら立っている。良い策は思いつかないし、はたから見たら僕は絶体絶命という感じだろう。
「見苦しいな。たいして価値などない命なのだから、潔く死ねばよかろう」
当主がそんなふざけたことを口にした。
「知ったようなこと言ってんじゃねぇ!! お前が僕の何を知ってるんだ?!」
「知っているとも。貴様はただの出来損ないだろう。このゴミが! 魔力があればまだ私たちの役に立てたものを」
当主はそれが当然のことのように言った。
「……ククク」
その様子を見ていたらなぜか笑いがこみ上げてくる。
「クハハハハッ!」
「何がおかしい!!」
ああ、こんな魔力だけでしか人を測れないような。
「ハッハッハッハッハ!」
自分達の優位を全く疑わないような。
強い者に立ち向かう弱い者の心の強さも知らないような。
そんなヤツに
「負ける気がしないな!」
「クッ! 早く片付けんか!!」
「ハッ。了解しました」
当主の命に従って護衛がまた斬りかかってくる。それを障壁で受けるが、
バキィン!
障壁は一撃で破壊され、僕は後ろに吹っ飛び、手に持っていた符も宙に弾き飛んだ。
「ハハハ! 口だけは達者なようだが、お前の攻撃などこの者には通じん。私には傷どころか汚れすらつけられんぞ!」
当主は笑いながらしゃべっている。
護衛も剣を降ろし、倒れている僕をただ見つめていた。
僕はまた魔力を開放する。
イメージは固い岩。
「潰せ…… 」
「無駄だ!」
護衛が魔法を警戒して構える。だが、狙いはお前じゃない。
「ロック!」
発動した地属性下級魔法は宙を舞っていた符から当主に向けて放たれた。
ドンッ!!
誰も反応できず、放たれた魔法は当主の脇に着弾した。余波で土埃が舞う。
「…貴様。…………わざとか!!」
「どうした? 服が汚れてるぞ?」
怒り心頭の当主に向けて僕は笑いながらそう言い放った。
読んでくださった方どうもありがとうございます。戦闘というより説明・会話の方がメインになってしまったような…。難しいですね。間が空くかもしれませんが、次回もがんばって書きますのでよろしくお願いします。