第二十五話:変わる平穏 後編
私は考えている。
ミアさんも、ハルトも、エイミも、トムもみんなが喜ぶ方法を…。
あの孤児院をどうにかして、みんなを仲直りさせる方法を…。
ルキフェルにも言われたけど、力づくはダメ。
もしあの孤児院を壊せても、そこにいる子達を養うのは無理だから。
話し合いも……たぶんダメ。
ミアさんはキチンと話せば伝わるとか言うかもしれないけど、世の中そんな良い人ばかりじゃない。
もしそうならあんな孤児院はできないし、ルキフェルだって幸せに暮らせたと思う。
あと私が考えついたアイディアは取引。
何かと引き換えにあの五人を教会に返してもらう。
これが一番現実的だと思う。
あの孤児院は善意でやってるんじゃない。
だから、あっちに有利な条件を出せば断りはしない……はず、だよね。
う〜ん、でもどんなものならOKしてくれるのかな?
…………ルキフェルならどう考えるかな。
これくらいルキフェルでも思いつくよね。
なんで 何もしないんだろ?
ルキフェルでも何がいいかわからないのかな?
あとできいてみよ。
美味い。
美味いには美味い………色はともかく。
「ど、どうですかルキフェルくん?」
「ルキフェル? 大丈夫…なんですか?」
しかし、あくまでも普通の果物の範疇だ。
あまりリアクションがとれないな。
この実を持ってきたフォルティアさんを始めとするみんなに見られてる状況で何も無しというのも……
「(いや、普通に言ったら良いでしょ!)」
「(けどみんなリアクションを期待しているわけだしな〜)」
俺が未だに果実を咀嚼しながら、唸ってるのをガン見してるし。
「(純粋な心配からだよっ!! ほら、ウィルやエイミ涙目だよ!!)」
「(ならば、そこから一転笑顔にするほどの見事なリアクションをっ!!)」
「(ああ、逆効果っ!!?)」
まぁ、それは冗談で。
あまりにも普通の味だったんで、どんな顔をすれば良いか解らないんだよ。
「(笑えばいいと思うよ?)」
「(聞きたいのはこっちだ!! …あと笑うのはこのシチュでは違うと思うぞ)」
さて、マジでどうしよう……。
ひっぱり過ぎたせいで余計言い出しづらくなった。
…………ヨシ! ここは正直な感想を。
「………う」
『う?』
「…美味い?」
「知りませんよっ!?」
うん、フォルティアさんごもっともです。
「色はともかくとして、味は普通ですね」
「ふしぎ〜」
ミアさんとエイミが切り分けた実のひと切れを食べながら談笑している。
まぁ結局、食べられるってことでみんなで食べることになった。
フォルティアさんは俺がなんともなかったことに心底安堵してたけど。
なら、最初から持って来なきゃいいのに。
「ほれ、出来たぞ。ハルトよろしく」
「はい、これで最後ですね」
「ああ、後はルキアのお茶だな」
とりあえず丸かじりは行儀が悪いってことで、俺が果実を切り分けることに、ついでということでルキアがお茶の準備をすることになった。
簡単な作業なのでミアさんや年少組は休んでていいと言ったのだが、ハルトは手伝ってくれた。
いい子だねぇ〜。年少組の中じゃ一番上だからか、しっかりしてるし、ええ弟ぶんだ。
「ルキフェル〜、できたよ〜」
「おう。じゃ、ハルトは先にそれ持ってってくれ」
俺はそう言ってからルキアの手伝いにいった。
俺たちなら別に一人でも人数分のカップを運ぶくらいはできるけど、ルキア一人に運ばせるのは絵的にアレだしね。
「え〜と、ミアさん、フォルティアさんがストレートで、他五つは砂糖入りだよね」
「ああ、ルキアは先にミアさんたちのを持ってってくれ」
「ところでルキフェルはストレートで飲まないの?」
「………甘い飲み物って衝撃的だったんだ」
うん、俺甘いものなんて果物くらいしか食ったことなかったから、甘い菓子とかはかなり新鮮だった。
けど一番ショックを受けたのはジュースや砂糖入りの紅茶。
水や血の味しか知らない俺にはかなりファーストインパクトだった。
「文章おかしくない? あとルキフェルって獲物の生き血啜ってたの?」
ルキアは引いていた…っておい!!
「違うから! 生肉を食ったことがあるだけだ!! あと文章は言いたいことが伝わればいいの」
正確には獲物を捕まえるのに全体力を使いきり、生で食うしかなかったんだが。
嫌な思い出だった。血のしたたる肉って不味いやん。というか血の味しかしなかった。
ま、そんなわけで俺は甘い飲み物にわりと病みつきになってしまったのだ。
「でもルキフェルってお菓子はあまりがっつかないよね。むしろ果物の方が…」
ああ、それはな。
「果物は俺にとって、もはや主食だから」
数年にわたったサバイバル生活…いや、サバイバル食生活のせいでパンなんかよりは果物の方が合うんだよな〜。
果物の方が手にいれやすいってのもあるけど。ぶっちゃけ近くの森に取りに行ったりもするし。
「ねえねえ、ルキフェル」
「なんだ?」
俺は残りのカップを載せたお盆を持ち上げながら聞き返す。
「赤ちゃんはみんなミルクを飲むんだよね」
「普通そうだな」
「じゃあルキフェルも?」
「そうなるな」
「じゃあミルクの味も知ってることになるんじゃないの?」
「いや、ものごころつく前のことなんか普通覚えてないから」
やっぱまだルキアには常識が足りないな〜。
さて、お茶もみんな配ったしやっと一息つける。
「しかし、色だけみるとホントにアレだな」
「まぁ美味しいならいいんじゃない?」
たしかにそうだけど……。
「ってルキア。お前まだ食べてないだろ?」
「あ〜、ほら、私アレだから?」
いや、意味わからんぞ。
「(これ精霊の力がかなり詰まってるから、私が食べたら……)」
ああ、もし反対属性だったらヤバいな。
「(だから、ルキフェルが私の分も食べていいよ)」
「(そうか、なら……って俺たち風にも適正あるだろ!)」
というか苦手な属性なんぞなかっただろ!?
コイツ、ただ単に食いたくないだけか……。
ならば!!
「ほら、ルキア」
俺は果実の一切れをフォークで刺し、ルキアの顔の前にもっていく。
「あ〜ん」
そして笑顔でそう言った。
「る、ルキフェル!?(な、何するのかな? 私は別に食べたくないよ!?)」
「ほら遠慮するな(俺が食べたんだ。お前も食え、俺たちは一心同体だろ)」
「遠慮とかじゃなくて…(いや〜、私こんな色の食べ物はちょっとさ〜)」
「じゃあ、ほらあ〜ん(やっぱりそれが本音か! 年少組だって食ってるだろ!?)」
「は、恥ずかしいし(それはそれだよ! それに精霊が他の精霊の力を取り込むなんて危ないよ!)」
「今更照れるような仲か、俺たち? (ふむ、それは一理あるか? けどお前今は擬態してるし大丈夫じゃないか?)」
「ほら、みんな見てるし(どうなるかわからないんだよ!? もし私に何かあったら同化してるルキフェルも…)」
「気にするなって(まぁ、何事もチャレンジだ)」
俺はルキアの口に無理矢理果実を押し込んだ。
「…むぐっ!?(ちょっ…っっっ!!?)」
「なっ!!?」
俺とルキアは次の瞬間驚きで固まった。
ルキアの髪と瞳が緑、いや翡翠色にゆっくりと染まっていき、身体からは強大な風属性の魔力が溢れだしたのだ。
…………………選択肢ミスったかな。
まず、更新がかなり遅れて申し訳ありませんでしたm(_ _)m
なんかあまりネタが浮かばないうえ、去年より忙しくて…。
キリのいいところでいったん充電期間をとるつもりです。
とりあえず、キリのいいところまであと数話はありますので、どうかよろしくお願いします。
ではまた次回ノシ