第一八話:ルキフェルの荒行綴り 後編
ハァ…………。
お父様ったら、またルキフェル君をからかって…。
怒られるのは私なんですから、もう止めて欲しいんですけど。
この前真剣で斬りかかった時なんて、数時間かけて勉強という名の説教を受けましたし…。
………いえ、あれは私が悪いんですよね。
普通の人は突然剣で斬りかかられたらのを、避けるなんてできないんですから。
世の中、お父様やルキフェル君のような人ばかりじゃないんですよね。
お父様を基準に考えるのは止めなくては……。
でも……それならルキフェル君は何者なんでしょう?
結局、森でのことは誤魔化されてしまいましたが、あれはルキフェル君に間違いありません。
けど……おかしいんですよね。
たしかにルキフェル君はまだ身体ができてないのに、かなり体力があります。
もちろん、力も速さも私より下なんですけど……
でも…………あの森でのルキフェル君は違いました。
私より速く、私より重い一撃を放ってました。あの男の人は複雑骨折してましたし。
でも、普段のルキフェル君にはあんなことができるとは考えられないんですよね。
私だって、一撃であそこまでの威力は出せませんし…。
ただ、間違いないのはルキフェル君は素人だということ。
森での一撃も、鍛錬中の様子を見ても、武術をやったことのない……いえ、多少の心得はありましたから、武術をかじった程度の動きでした。
無駄の多い、精錬されていない動き。それなのに私より威力のある一撃を……。
身体能力も私の方が高い筈なんですけど………?
なにか秘密があるんでしょうか?
………………いえ、確実に何か在りますよね。
私……今のルキフェル君には勝てる気がしません。
恐いです! 早く落ち着いて下さい、お願いしますぅ〜!!
「ハァァァァ!!」
ブンッ!!
怒りを込めた必殺(言葉通り)の蹴りは師範に軽く避けられた。
「甘いわっ!!」
ドガッ!
「グゥ…!」
反撃の拳をガードしていったん距離をとる。
ったく、どんな身体能力してんだよ。
…いや、モーションで丸わかりだったし、しょうがないか。
頭はクールにハートは熱くだ。
もうあまり長いこと動けない……つーか今の蹴りに力を込めすぎたせいで、あとニ撃で限界だな。
手加減無用!!
教わった全てを思い出せ!!
一撃目で体勢を崩し、ニ撃目でヤる!!
「いくぞ!! ダメ師範ッッ!!!」
「来い!! バカ弟子がッ!!!」
互いに怒鳴りあってから、俺は突っ込んだ。
威力ではなく、当てることに重点を置いた左ストレート。
鍛錬のおかげで以前よりはるかにマシになったそれを師範の腹目掛けて打ち込む。
「ふん!!」
ガシッ!
チッ! ガードされるどころか掴み取られたか。
だけど……。
「もらったぁぁ!!!」
ガシッ
「なっ!!?」
俺は右手で師範の左腕を掴み返し、勢いのまま突っ込んだ。
両手は塞がっていてガードできない上に、掴みあっている以上回避も不可能!!
俺は飛び上がり、頭突きを師範の顔面にぶちかまし……
「フッ!!」
「なっ…!?」
ガン!!
ドスン!!
んな…ありか、よ。
「ハッハッハッ! まだまだだな、小僧!!」
……ひ、きょう…だ。
「くそっ!! 次は叩きのめす!!!」
結局、俺はあの後気絶したらしい。
しかし、普通あそこからブリッジやるか?
勢いのせいでそのまま俺は床に叩きつけられてKO、ハァ…無念だ。
まぁ、師範もモロに頭をぶつけてたから、一矢は報いたんだけど。
「次は必ずヤってやる…」
「あの〜、ルキフェル君? やってやるの発音おかしくないですか……?」
しかし、体格差を考えてなかったのは俺のミスだな。
コンバットフォームで力は大人以上にできても、体格や体重は変わらないし。
身体を重くするよう構成し直すか?
いや、身体に負担がかかりそうだし、長所の素早さがなくなるかもしれないから却下だな。
「ねぇ、ルキフェル君? 聞いてますか?」
いや待て、トレーニング用としてならありじゃないか?
普段からそれを纏っていれば日常生活ですら鍛錬になるし、非常時にすぐに構成の切り換えができるようにしておけば突発的事故にも対応できる。
これは本気で考えてみるべきかもな……。
「もしも〜し! ルキフェルく〜ん!!」
でも、体格か…。
まだ子どもだからしょうがないけど、何か考えるべきだよな。
いくら力が強くても…いや、いくら力があっても、この身体じゃあ、活かしきれない。
さっきも師範にあっさりストレートを捕まれたし…。
「無視ですか? 放置なんですか?」
ん? この前のチンピラや使用人や当主?
いやいや、突っ込んできたところをアゴ狙いのカウンター合わせたり、不意打ちしたりしたからね。たいして鍛えてなかったし。
当主にいたっては馬車やら使用人やらのいる生活してるからモヤシだし。
でも、師範のようなしっかり鍛えてる人間相手にはそれじゃあ、決定打に欠けるんだよな〜。
だから師範相手に初手で放った蹴りには、森で出会った盗賊さんに使ったのと同じ魔法をセットしてたんだけど……。
今考えるとマズかったな……、うん。
アレを喰らえば師範といえど倒れるしかないだろう。
普通の人相手に使ったら、文字通り必殺技になるような威力出るし。
検証すると想定してたより威力あったんだよね、アレ。
あの盗賊には悪いことしたかもしれない。
なんせ、たいして大きくないとはいえ、木にヒビ割れをいれるくらいの威力があったからな〜。
……………………………死んでないよね?
オホンッ! とにかく、子どもの身体じゃ鍛えてる人相手にはキツイってことだよな。
まぁ、俺がしっかりと武術を覚えればマシにはなるかな?
急所とかを狙えば、パワー不足は補えるだろうし。
…………そういや、コンバットフォームってどれくらいの力出せるんだろ?
え〜と、全力で使った時は………。
あれ? 全力で使った時ってあんまない?
つーか、回避とかにしか全力出してなくね。
いちよう、師範を力で上回るくらいはできると思う。
まぁ、本気で使う機会なんて早々ないよな。
とりあえず師範を実力で倒せるようにならないとな。
実際、さっきはかなり手加減されてたし……師範なら俺の腕を掴んだら投げ飛ばすくらいはできたはずだ。
つーか、コンバットフォームありでも完全に見切られてたってことだよな、あれは。
「ハァ〜、先は長いな…。うん?」
「イインデス、イインデスヨ。ドウセ、ワタシナンテ……」
気付くと隣を歩いていたフォルティアさんが落ち込んでいた。
今日の分の鍛錬を終え、これから教会に戻って昼まで勉強をするから、一緒に歩いてたんだけど。
「どうしました? そんなに勉強が嫌なんですか?」
まぁ、ルキアと同レベルだもんな。
「違います!! 勉強ならドンと来いですよ!!! 私は貴方「ほほう」…が…」
「なら多少きつめで大丈夫ですよね。覚悟してください…ねぇ、フォルティアさん?」
「ヒィッ!? いえ、できれば最初は易しめでですね。あの……」
俺は慌てているフォルティアさんをスルーして歩く速度を上げた。
鍛錬のため今までより早起きしているとはいえ、ルキアたちはもう勉強会を開始しているはずだ。
パパッと飯食って混ざらんとな。
「ほら! 急ぎますよ、フォルティアさん! 朝食の後はみっちり勉強漬けですからね」
何か悲鳴が聞こえたが無視だ。
決して、鍛錬の恨みを晴らそうとしているわけではない。
「さてさて、今日はどんな日になるかな?」
俺はすっかり太陽の登った空を眺めながら、賑やかになり始める町を歩いていった。
どうも、読んでくださった方ありがとうございます。
やっとテストは終わったんですけど、更新ペースは多少ゆっくりになるかもしれません。
ご容赦ください。
次回は前にちらっと触れた孤児院との話になる予定です。
では、また次回で。