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第十話:旅の道連れと新たな誓い

まだアドリビティウム家にいた頃、思ったことがあった。



精霊に力を貸して貰えれば良いのに、と。



本で精霊の存在が確認されていないことは知っていたし、



僕のような者に力を貸すはずがないというのも解ってはいた。頭では……



心の中では願わずにはいられなかった。



精霊の力があれば当主も、妹も、使用人たちだって僕を認めるはずだ。



もう痛めつけられたり、無視されたりすることがなくなる。



その妄想は、僕にとってはとても甘美なものだったから。




でも、ある日使用人たちを見ていて思ったんだ。



それは幸せなのか? って。



使用人たちは貴族に敵わないから従っている。



実際に忠誠を誓っているのは一部だろう。



そして裏では貴族を罵っている。



僕が力を手にいれても同じじゃないのか?



そう思った。



当主は、もとより強力な魔力を持つ者が欲しかった。


家のために使える駒が。だから、僕を家族とは、息子とは思わないだろう。



使用人たちも表向きは従っているだけで、裏では僕を罵り続けるだろう。



………それは僕の望みとはかけ離れたものだった。



僕は家を出ることを決意した。



だけど、抜け出すだけではもの足りない。



だから、強くなり当主に一撃喰らわしてから出ていこうと思った。



誰の力でもない、自分自身の力で。



だって……



ただ待ってるだけじゃあ、現実は変えられない…



これは自分の力で乗り越えなければならない…



そう感じたから。















目の前にはドラゴンが横たわっている。


禍々しいモヤは消えているし、呼吸もしているようだ。


「成功だな……」


ぶっつけ本番にしては上出来だろう。


あんな量の力をコントロールするのは初めてだったからな〜。


量的には中級魔法の数倍はあったかもしれない。


…………正直、集め過ぎた。


人間が精霊に勝てないことや、ルキアが貴族という存在に疑問を持つ理由がよくわかった。


貴族と平民の差など、精霊と人間の差からしたら些末なものなのだろう。


「やったぜ! ルキア…」


僕は空を見上げながら呟く。返事など返ってこないだろう……


「見てたからわかるわよ。どこ向いて言ってるの?」


…が。って、あれ?


「ルキア!!?」


叫びながら振り向くとそこには確かに宙に浮いているルキアがいた。


「どうしたの? 幽霊でも見たような顔して…」


「いや、お前は精霊だろ」


いや、そうじゃなくて、


「消えたんじゃなかったのか!?」


確かにルキアの存在を感じてはいたが、僕の周りには居なかったはずだ。


「何言ってるの? 私はアンタに力を"貸した"だけよ」


ルキア曰く、あの時僕に力を貸そうとしたがよくよく考えれば自分はその方法を知らなかった。


第一、力をまともに扱えないのでは貸したところで意味が無いのではと考え、思いつきの方法を試した。


僕と融合……いや、同化? とりあえずそんな感じのことをしたらしい。


アイディアは僕の融合魔法からだそうだ。


「…って、紛らわしいことすんなよ!! というか、んなこと出来るのか!?」


「さあ? 出来たから、出来るんじゃない?」


超アバウトだった。


「ある一定以上の精霊なら自分と同じ属性に属するものと同化できるらしいけど……」


「なんだ、根拠はあったのか?」


「うん。でも属性が合わないとその同化したものが耐えられないんだって」


「何してくれんだっ!!!」


シャレになってないことを明るく言うなよ。つーか僕、もしかしたらルキアに止めをさされたかもしれないのか?


「なによ! どうせあのままじゃ死んでたじゃない!!」


「うっ!!」


言い返せない。九死に一生を拾ったのは事実だし。


とにかく、ルキアは消えた訳ではなく、僕と一体化していたらしい。


そういえば、さっきまで辺りには力が溢れているのを感じたのに今はまるで感じない。


あれは精霊の感覚だったのだろう。


「でもスゴいわね。本当にドラゴンを助けちゃうなんて……」


「……お前が言ったんだろ」


ルキアはまだ眠っている…いや、気絶しているドラゴンを見ながらそう言った。どこか呆れているよいな感じがするのは気のせいか?


「でもなんでそんなこと言ったんだ? いや、コイツの意思で暴れてたんじゃないのはわかってるが…」


「……このドラゴンとは知り合いなの」


「へ?」


話を聞くにこのドラゴンは元からこの森に住んでいたらしい。


「でも数日前、ドラゴンは奴等にとり憑かれてしまったの」


「それがあのモヤみたいのか?」


「…っていうか、アンタ知らないの? 別に珍しい話じゃないし、かなり前からあったことよ」


…………どうせ僕は世間知らずですよ。


「まあ、精霊の住むようなところまで奴等が来るのは珍しいけどね」


「? なんでだ?」


「………そこから説明しなきゃいけないか〜」


「…………頼む」


情けないな、僕。


奴等というのは簡単に言うと異世界からの侵入者らしい。


実際は精霊にもどこからやってくるのかはわからないらしいが、少なくとも(精霊にとっては)近年になってから確認されたことと、その存在がこの世界のものとしてありえないからそう言われているらしい。


「イマイチわかりづらいんだが…」


「う〜と、つまりその侵入者たちはね、なんというか。私たち精霊とは真逆の存在なの」


「真逆? 属性みたいな感じか?」


属性には優劣は特にないが相性がある。互い打ち消し合う属性が存在するのだ。火は氷、雷は水、地は風、光は闇、聖は魔がそういう関係だ。


しかし、ルキアは首を横に振った。


「そうじゃなくて、えっとね、この世界にはある力が満ちてるの。私たちはマナって呼んでるんだけど」


「ああ、そんな内容を読んだ覚えがあるな。ってことはさっきまで感じてた力がマナか?」


「うん。それで私たち精霊の身体を構成してるのも、人間が言う魔力もマナなんだって」


ルキアはさらに続ける。


「この世界に属する存在はマナを生み出せるの。でも同じマナでも性質とかの違いがある、それが…」


「属性、か?」


「そう。だから火と氷属性が打ち消し合うってるのは互いの性質であって存在じゃないの」


「じゃあ、その侵入者たちはマナそのものと打ち消し合う存在、マナの反存在で構成されてるってことか……」


確かにこの世界のものとは考えづらいな。


「人間はどう考えてるかは知らないけど、精霊にとっては正に天敵なのよね」


「向こうもそれは同じだから、精霊のいるところには現れづらいわけか」


あれ? でも…


「なあ、侵入者はマナと打ち消し合うんだろ。マナに満ちてるこの世界じゃ勝手に消滅するんじゃ…」


「敵もバカじゃないのよ。だからこの世界の物にとり憑くのよ」


「…おかしくないか?」


この世界に属するものはマナを生み出せる。反存在の発生源にとり憑くなんて妙だ。


「知らないわよ! 奴等に聞いてよね! とにかく、奴等は石とか草木とか獣とかマナをあまり宿していない物にとり憑くの」


「つまりあのドラゴンは運がなかったのか」


「そうね。あのドラゴンは私たちと意志疎通できたし、ブレスも使えるから人間なんかよりとり憑かれにくいはずだから」


ルキアが言うにはとり憑かれはしたが必死に抵抗していたらしい。本気だったら僕は三秒で死ぬそうだ。


この森の精霊たちもドラゴンを倒せるものはいたが、基本平和主義な精霊たちはドラゴンを殺すことができず、かといって手加減すれば自分たちが消されてしまうため森を離れることにしたそうだ。


「? 殺さずに侵入者だけを消せばいいだろ」


僕みたいに、そう言ったらルキアにものすごく呆れられた。


「そんな器用な真似、普通は出来ないわよ。可能性があるのは聖か魔属性くらいね。でもこの森の精霊は地とか風、水属性だったから逃げるしかなかったの」


つまり……


「僕に無茶を言ったのかよ!!!」


「出来たから良いじゃない」


本当にアバウトだった。






「そういえばさ」


説明が一段落したところで僕はルキアに気づいたことを言ってみた。


「僕と同化できるってことはルキアの属性って僕と同じなんじゃないか?」


「………………………あっ!!!」


気づいてなかったらしい。


「そうよ! アンタ何属性?」


「知らない」


「えっ!?」


「知らないんだよ。いちよう火、雷、地が使えるけど」


そう言うとルキアは不思議そうな顔をした。


「………聖や魔はつかえないの? あれ、でもさっきは属性……………でもありえないし、………」


なんか独り言を延々と呟いている。どうかしたのか?


「まっいいか。それよりこれからどうするの?」


「いいのかよ。…とりあえず森を出て町にいく予定だ」


自分の常識のなさが良くわかった。早く孤児院とやらで教えを受けないとな。


「そっかぁ。じゃあ私も行くね!」


「そうか。……………ハイ?」


「だから私も行くね!」


「なんで?」


思わぬ事態に僕の頭がついていかない。なぜそうなる?


「あのね、実は……」


「なんだよ」


言葉を濁すルキアに内心恐る恐る問いかける。


「完全に同化が解けないの」


僕は唖然とするしかなかった。


今の僕とルキアはある繋がりが出来ていて、ルキアが言うにはあまり離れることができないらしい。


なにせ無理矢理同化したものだから、どうすればいいかもさっぱりだそうだ。


「(でも、ほら。心の中で会話できるんだよ。便利でしょ!)」


確かにルキアは声(精霊も声出すのか?)を出していないが思っていることが伝わってくる。


確かに便利だ。だけどさぁ。


「どうかした?」


「いや、いいわ」


相手は精霊だし、人間の感情論など通じないだろう。旅は道連れと言うがこういうことなのか!!?


「グォォ」


「あっ、気づいたんだ」


ドラゴンはまだ横たわっていたが目を開けていた。暴れ様子はないしどうやら本当にもう大丈夫そうだ。


ルキアはドラゴンの目の前に行き、何か話している。ドラゴンはグォとかしか言ってないがルキアには通じてるようだ。


今はルキアとほんの一部が同化しているだけだからわからないが、ルキアと完全に同化したらわかるかもしれない。


「ねぇ、この子がお礼がしたいって」


突然ルキアがこっちに言ってきた。つーか"この子"? 精霊だからおかしくはないか?


「いや、別にいいんだが」


礼儀正しい、いや義理堅いドラゴンだな〜。でも僕は自分の身を守っただけだし。


「だからさ!」


「無視かい!?」


なんで問いかけたんだよ!!










ビュォォォォォ


今僕はまた空にいる。


正確には飛んでいるドラゴンの背中に。


「快適だね〜」


ルキアの案で人の住む周辺までドラゴンに乗せてもらうことにしたのだ。


たしかに食料がないんじゃ餓死するかもしれないし、ありがたいんだが。


正直かなり怖い。いや、それよりも、


「…………ルキア。本当に僕と一緒でいいのか?」


「うん?」


「自分で言うのもなんだが僕はかなり不幸だし、ルキアの力を借りなきゃ死んでいた」


僕は真剣にルキアに問う。


「僕といればたぶんまた厄介事に巻き込まれるぞ。一旦仲間を探して合流したらどうだ。同化を解けるかも…」


「イヤ」


「二文字かよ!!」


ルキアの即答に思わずツッコミをいれてしまった。


「別に嫌々ついてくんじゃないよ。私が一緒に行きたいの」


ルキアは笑顔で話しだした。


「アンタといれば私のこともわかるかもしれないしね。それに実力が足りないなら一緒に強くなればいいし」


その笑顔に僕は見惚れてしまっていた。


「それにね、同化したとき思ったんだ。アンタとなら何だってできるって」


だから、と彼女はさらに続ける。


「よろしくね、"ルキフェル"」


初めて、名前でルキアは僕を呼んだ。


「……ああ、ルキア」


僕はこの日、また新しく誓った。


ルキアとともに強くなると、ルキアを守ると。





………まあ、ともかく僕の、いや俺の波乱万丈な日々はまだまだ続くらしい。


読んでくださった方どうもありがとうございます。説明にほとんど使っちゃった(;^_^A


まとめたほうがいいですかね?


とにかく今回で一区切りです。勢いで書いてきたので次回は更新遅れるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。


それでは感想・意見お待ちしております。



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