おにぎり
「ただいまー。」
がちゃり、と玄関をくぐり、乱雑に靴を脱ぎ捨てて手を洗いリビングへ向かう。
「しょうちゃん。お帰りなさい。」
「お、しょうお帰りー。飯暖めといたぞ。」
「兄ちゃん、ありがと。ただいま。」
テーブルにはおにぎり2つと、タッパーの炒め野菜、肉。
炒め野菜はキノコがいつも入ってるから、嫌いなんだよな......と、食卓に着いた。
「頂きます。」
タッパーの蓋を開けて箸で案の定入っていたキノコを端に寄せ、がつがつもぐもぐと食べ始めた。
「しょうちゃん、塾どうだった?ちゃんとやってきた?」
「......やってきた。」
「そ、そう。......あっ、輝くんお皿洗ってくれてありがとうね。」
「どういたしまして。あっ!しょう、キノコ残すなよ?」
「うげぇぇ、兄ちゃんだってトマト嫌いだからいつも残してんじゃん。」
「......兄ちゃんはいいんだ。」
「はぁ?」
いっつもトマトを食べたふりしてティシュにくるんで捨ててるの知ってるからな......!と兄ちゃんを睨めば食べ終わったら母さんにお線香あげろよーと逃げられた。
なんなのアイツ。むかつく。
がぶりっ、と腹いせにおにぎりを食えば、中には私の大好きな梅干しが入っていた。
「っ!......。」
これ、入れてくれたの叔母さんかな。それとも兄ちゃん?いや、兄ちゃんな訳ないか。
無言で梅干しの味を堪能していると、肩を何かに掴まれているような気がする。
「......れいこさん?」
「......美味しそうだから私も食べたいなーって......。」
「梅おにぎりは私のです。あげません!ぜっったい!」
「っ、いいじゃない!今はえっと、叔母さん?もお兄さんも居ないし!」
「それでも駄目です!れいこさんはキノコでも食っててください!」
「それは貴女の嫌いな食べ物だからでしょう?!」
梅おにぎりは譲れない!と一気に口のなかに放り込む。
「こへれわらひのへふ!」
「あぁー、梅おにぎりが......。後口の中に入ったまま喋らないのよ。」
「っ、分かってます。」
ごちそうさまでした、とタッパーのキノコだけ台所の三角コーナーに入れ、仏壇の前に立った。
「ただいま帰りました。おやすみなさい。」
お線香を上げ、ちーん、と鳴らす。
母さん、幽霊が家に来ました。
私の梅おにぎり食べようとするし、キノコも食べてくれないけどなんだか楽しいです。
(梅おにぎり良いわねぇ......ちらっちらっ)
((っ、あげませんからね!絶対に駄目ですから!))
(分かってるわよ、私はね、鮭おにぎりの方が好きなのよねぇ)
((ふ、ふーん。))
(んふふ、いつか作ってあげようか?)
((別にいいです。))