大根ですが、おでんパーティから追放されました。パーティの野菜成分を俺が一手に担っていたんだが、大丈夫かな
「大根、お前はこのパーティのお荷物だ。お前をパーティから追放する」
それはパーティリーダーである薩摩揚げからの突然の宣告だった。
俺は最初、こいつが何を言っているのか分からなかった。
「ど、どう言う事だ? 俺を追放だなんて……正気か……!?」
俺の名は大根、根菜の一種だ。
Sランクパーティ「おでん」の主力の一人である。
「お前はおでんの中で何の役にも立っていない! むしろ独特の臭みが出て全体の調和を乱している!」
薩摩揚げが更に力強く、俺に告げた。
「子供にも不人気な存在だしな……。加えて下処理が面倒だ……。他のメンバーはスーパーで買ってきたものをそのまま鍋に入れればいいだけだが、お前は手間がかかる……」
いつもクールな男、こんにゃくが冷徹に俺に言う。
いや、確かに俺はパーティ唯一の野菜であるし下処理が面倒なのは認めるが、こんにゃく、お前に言われたくないぞ。
大体最初からスーパーに完成品が並んでいるだけであって、作る手間で言ったらこんにゃくの方が余程作業工程がかかってるじゃないか。
なんだよ、こんにゃく芋をカットして熱湯で茹でてから摩り下ろし、石灰水とかき混ぜて成型する。(中略)その後に加熱凝固してあく抜きしてやっと出来上がりって。
そこまでしてこんにゃくを食べたいのか? 馬鹿なのか人類は。
「しかしだな、俺はパーティ唯一の野菜だぞ? それに、スープを吸って出汁の味を染み込ませるなんて芸当、他に出来る奴がいないじゃないか」
尚も俺は食い下がるが、玉子がその艶めかしい肌を見せつけながら俺に反論した。
「それなんだけど、淡白な味わいとスープの吸収ならはんぺんちゃんがいるのよねー。正直あんた、はんぺんちゃんと役割被るんだわ。だから、薩摩揚げもあんたを追放するって言ってるワケ」
いや、食感とか全然違わない!?
はんぺんちゃんと俺の類似点って白いって点しかなくない!?
「つーかさ、そもそもお前は煮崩れるだろ!? スープと一体化してんじゃねえよ! 箸で取ろうとした先からボロボロ崩れやがって! 食いにくいだろうが!!」
リーダーの薩摩揚げが業を煮やしたのか、声を荒げて俺を威圧した。
「それは調理法や下処理が悪いからだ! 皮を厚めに剥いて面取りする、そしてあらかじめ下茹でしておけば煮崩れるなんてことはない!」
薩摩揚げの言葉に俺も声を大きくする。
ボロボロ崩れるなんて風評被害だ。それは俺の下処理をちゃんとしてないからであって、下処理をすれば外はしっかり、中はしっとりのパーフェクトな俺になれるんだ!
そこは勘違いしないで頂きたい!!
「その手間がクソだって言ってんだよ!! 大体てめえはスーパーで売ってる出来合いの一式セットに入ってないじゃないか! なんで野菜コーナーに行かなきゃなんねえんだよ! 一人暮らしの奴の事を考えた事がねえのか!」
その点についてはぐうの音も出ないが、野菜なんだから仕方ないじゃないか……。
大体その理屈で言うなら、玉子が許されて俺が許されない理由が分からないぞ。
玉子だってゆで卵を作る必要があるではないか。
「それにな、野菜枠は新メンバーで埋まってるんだ。お前の席はもう空いてねえんだよ!」
な、なんだって……。
おでんに入れる具材で俺に代わる野菜なんてあるのか……?
まさか、ニンジンか!?
確かに奴ならあり得なくはないが、それでもスープの吸収量や食物繊維で言えば俺の方が勝っている自信がある……!
「俺達は新メンバーとして、じゃがいもを加入させる!」
「いや、バカなのか!? そいつ野菜面してるけど、実態は炭水化物だぞ!? 栄養素的には餅巾着やちくわぶと被ってる奴だぞ!?」
じゃがいもを野菜扱いって、アメリカ人かよ!
確かにポテトサラダとかはあるけど、どちらかと言うと主食だからね!? 米とかと一緒の扱いだからね!?
百歩譲ってじゃがいもはおでんパーティのメンバーとして有能だとは思うけど、俺と役割全然被ってないじゃないか!
大根とじゃがいも両立しててもよくない!?
「しかも、キタアカリと言う強い奴だ! 大根如きが勝てるわけないだろ!」
「そいつ甘すぎて絶対おでんに合わないやつー! 大体キタアカリ速攻で煮崩れるじゃーん!! 下処理してない俺より早く煮崩れるじゃーーん!!!」
なんでよりにもよってキタアカリなんだよー!
大人しくメイクイーンとかにしておけよー!
「と言うわけで、何度泣き言を言っても無駄だ。大根、お前のおでん追放は確定事項なんだよ。恨むのなら自分の無力さを恨め」
俺に対して最後通牒を突きつけると、薩摩揚げ、こんにゃく、玉子達は俺を置いて行ってしまった。
後に残された俺だが、正直どうしようもなかった。
もう既におでん用のカットと皮剥きと面取りを済ませてしまっている。
大根サラダとしてパーティを組もうにも、メンバーの当てがない。
これから俺はどうすれば……。
「あの、先程のやり取りを聞いておりました。宜しければ、私とパーティを組みませんか……?」
置いていかれた俺にかけられる声。
振り向くと、美しい肌を持った一人の女性が俺の方を見ていた。
「君は……?」
「私の名前はブリ、スズキ目アジ科の海洋魚です。あなたの力が必要なのです。まだまだハマチからジョブチェンジしたばかりの新米ですが、一緒に戦って頂けますか?」
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こうして俺は、新たな仲間ブリと一緒にまだまだメインディッシュを続けている。
ブリも俺も単体として見れば確かに独特の臭みはあるのだが、それをお互いが補い合いうまく調和した料理になった。
ブリが今の俺にとってベストパートナーであることは言うまでもない。
なんなら、刺身としてブリが主役となり俺がツマとしてその補助をすると言う事だってできる。
可能性は無限大だ。
一方、俺のいなくなったおでんパーティは「栄養バランスが崩壊し食物繊維が足りなくなった」「大根がいなくなってから目に見えてコンビニおでんの売り上げが落ちた」などと言って、俺に戻ってきて欲しいと泣きついてきたが知ったことではない。
俺はパートナーであるブリ、そして新たに知り合った豚バラ達と一緒に、これからもメインディッシュを続けていくのだ。
登場人物紹介
大根
この物語の主人公。煮てよし、焼いてよし、生食よしのナイスガイ。主役にも引き立て役にもなれる凄いやつ。
ブリ
出世魚。大根と同じく煮てよし、焼いてよし、生食よしのグッドパートナー。
薩摩揚げ
揚げかまぼこの一種。徳川家康が食べ過ぎてお腹壊した鯛のてんぷらは実はこいつ。
こんにゃく
芋の段階では何しても食えなかったのを頑張って食べられるようにした成れの果て。国産のこんにゃく芋の90%以上は群馬県で作られている。
玉子
物価の優等生と言われたのも今は昔。おでんの定番具材であるが最近は賛否両論をよく聞く。