プロローグ(4)
「さて、どうしたものか」
麻紀にもそう言われてしまった以上、何とかするか、という他にない。
───まったく、陽といい麻紀といい、俺を買い被りすぎてないか?
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次の日の昼すぎ。
陽とショッピングモールで待ち合わせ。
もちろん、目的はその中にある楽器屋さんだ。
とりあえずは、バンドをやるにしても楽器をどうにかしないことには始まらない。
麻紀と夕飯を食べた後に陽に連絡を取り、この約束を取り付けた。
二つ返事で陽に了承をもらい、今に至っている。
ちなみに、今日はお互い大学に行く用事はないので適当な恰好。
麻紀に言わせると
「ひーちゃんとデートなんだからもうちょっといい格好で行ったほうがいいんじゃない?」
とのことだったが、しょっちゅう会っている仲なんだからそこまでする必要はないと突っぱねた。
そして俺は数分後。
陽の姿を見て少し後悔することとなる。
「やっほー、康介」
そこに現れた幼馴染みは、手をひらひらさせて俺に挨拶をしてきた。
その格好は、普段通りの格好の俺とは違って、年相応のおしゃれをした普通の可愛らしい女子大学生だった。
いや、幼馴染み視点でなくても普通に可愛らしい。少なくとも、ともすれば中学生っぽいと揶揄されるような格好ではなく、普段はあまり手をかけないメイクもちゃんとしていて年相応の格好をしている。ちょっと気合の入った、とでもいえば良いのだろうか。正直、陽もこんな年相応の女子の格好ができるのか、と油断していた。
そういう陽は、まあ康介だからねーとあまり気にしている様子はないけど。
これが、男女の違いなのかな。とそう思う。
「でーとでーと♪」
と俺の腕を引っ張りながら先を行く上機嫌な陽。
「楽器を買いにきてるんだから」
という俺に、オンナゴコロわかってないよねーといつもより可愛らしい陽が返してくる。その顔は、普段はなかなか見られない笑顔だった。こんなにショッピングモールとかではしゃぐ陽も珍しいといえば珍しい。
「普段、大学とか家とかでしかあまり一緒にいないんだからさ」
ショッピングモールに来てるんだし、色々と楽しもうよ。と陽は言う。
楽器を探すのも、ここにいる自分達が楽しむのも同じくらい本気で楽しむ。
そういうことだろう。
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ショッピングモールでのとある一角。
楽器屋に行く前に、まずは陽が好きだと言っていた洋服屋を一緒に数件巡って、人気の喫茶店でまずは一休み。
陽は、こういうファッションが好きなのかな、といくつかの店を見て感じたところだった。
長い付き合いだけど、陽のファッションとかメイクとかはあまり気に留めたことはなかった。だけど、年頃の女子なだけあって、流行りのメーカーとかアパレルブランドとかは知っているらしかった。
「あー、やっぱり楽しいな!」
コーヒーフラペチーノを飲みながら、陽は一息ついて言った。その顔はにこにこと満足げにしている。
いくつも店を回って、洋服を着て回って、だけど洋服を一着も買っていない。お気に入りの服がなかったのかどうなのか。
「んー。あのお店のもよかったけどいい組み合わせがないのよね」
ああ、そういう。
「服なんて、着られればある程度はいいと思っちゃうけどな」
「男の子って、結構そういう人多いよね。面倒なのもあるんだろうけど、ファストファッションとかはわたし的にはあまり好かないかなー。あれはあれで、優れているのはわかるんだけどね」
「そうなんだ。でも、俺はファッションとかはよくわからないなぁ」
というのは本音。実際、某有名メーカーの着合わせとかいいと思ってしまう俺は、陽には物足りないんだろうな。
「言ってくれればわたしが康介の服選んであげるのに。身長高いし顔も整っている方なんだからもったいないな」
心底不満そうな陽。まぁ、後半部分はお世辞なんだろうけど。一緒に行動していることもままあるから、身なりくらいはちゃんとしていてもらいたいってところなんだろうか。
そう思いつつ、俺は普通のアイスミルクティーをすする。
ちなみに、アイスミルクティーを飲んでいる理由はコーヒーが苦手で苦いものが飲めなかったりする。
大人になれば飲めるものかと思っていたのだけれど。
対する陽は、ブラックでも普通に飲めたりする。普段は中学生顔なのに。
「普段は仕方ないけど、バンドやるときはちゃんとした格好してもらいたいな」
と陽。
俺たちのやろうとしているそのバンドは、ボーカルがジャケット姿でネクタイをしている格好が多い。
整った顔ですらっとした体格に、ジャケット姿はよく似合う。対して、ベースやドラムスは割とラフな格好が多く、そのバンドの立ち位置のちょっとした対比にはなっている。
多分だけど、陽は自身の格好はどうであれ、俺にはその姿をしてもらいたいんだろうなと思っているんだろうな。
「普段は仕方ないってどういう」
「康介にはファッションセンスももうちょっと磨いてほしいかな、と思ってるんだけどな。わたし」
言いかけた言葉に、陽は、割と真面目そうにそう切り返した。
「洋服以外なら、ある程度センスはまともなんだからさ」
誉め言葉なのかどうなのか。
そのまま、陽はコーヒーフラペチーノを飲み干して。
「じゃ、そろそろ楽器屋さん行こっか。お客さん、結構並んできたし」
と上着を持って立ち上がる。
店内を見まわして見れば、だいぶ行列ができていた喫茶店。人気もあり休日なのもあって早めに俺たちはモールに来ていたが、時計を見ればお昼近く。そりゃ、人気のある喫茶店だし行列もできるわけだ。
俺は半分近く残っていたアイスミルクティーを飲み干し、喫茶店を後にした。
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楽器屋さんの店内に入ると、所狭しとギターやベース、その他各種のよく見る楽器類や付属品などが店に並んでいた。PCで使用するミキサー類とかのソフトとかはさすがに知識がないのでわからないけど、高校生の時に立ち寄ったことがあるので楽器のことは多少なら分かるつもりだ。
実際、今持っているギターもここで無理を言って親に買ってもらった経緯もある。
・・・・・・とは言っても、あまり弾いてはいないのだけれど。気に入った曲を、適当に2、3曲くらい弾ければいいところ。本来は好きなアーティストの曲を弾ければと思っていたのだけど、結局は途中でやらなくなってしまっていた。
まぁ、それは練習していけばいいのだけれど────問題は陽だ。
陽は、ボーカルをやるつもりだろう。本人も、多分そう思っている、はず。
ただ、歌を歌いながら楽器を弾こうとしているのか、その辺はわからない。
歌を歌いながら楽器を弾くのは結構当たり前のようにやっている人もいるけど、あれはあれで無茶苦茶難易度高い。だから、ボーカルで楽器を兼業していても、どちらかに偏っていることが多い。歌っているときは楽器を控えめに、だけどギターソロではしっかり弾くみたいな。
「うーん、どうしようかなぁ」
と迷っている様子の陽。
その視線の先にはというと、雑多なマイク類やらスタンドやらが置いてあったりする。
「陽は、どういうスタイルでやるの?」
「んー。この際だから、楽器も弾きたいとも思ってはいるんだけどねー・・・」
わたし、康介みたいに手先が器用じゃないからね。
と口に手を当てて考え込む陽。
「手先がどうの、というよりは慣れとかセンスとかもあるんだろうけどね」
「そうだよね。まぁ、楽器が弾ける女子ボーカリストっていうのも格好いいんだけど、わたし身長高くないからなぁ。見た目的にもどちらかといえば幼く見えるみたいだしね」
確かに。あまり身長が高くない陽にとっては、見た目的にはアンバランスな感じもする。というよりは、陽は歌が普通に上手いんだから、俺としてはボーカル一本でのほうがいい気がする。
ボーカリストが小さく見えるから、ギターもやって歌えるボーカリストとして存在感をアピールして攻めるの自体は悪くはないんだろうけど、最初からそうやって中途半端になるくらいならどちらか一本のほうが効率がいいと思うしね。
「・・・・・康介はどうするつもり?」
「やっぱり、俺が歌うよりは陽が歌ったほうがいいと思ったから、俺としてはギターやりたいかな」
「ギター持ってるし多少でも弾けるもんね。身長もあるし、やっぱりそうなるよね」
やはり、陽も同じような考えのようだ。ちなみに、陽自身はどう思っているかどうかはわからないけど、同じ曲を歌うなら陽のほうが格段に上手いと思っている。点数が単に取れるとか、音を外さないとかそういうのではなくて。
────歌唱力。
とでもいうのだろうか。
ただカラオケレベルで上手い人なんてそれなりにいるけど、なんというか、聴き入ってしまうような上手さとでもいうのだろうか。プロが持っている、そういうやつ。テレビとかライブとかで、観客を一瞬で魅了してしまう、そういう力。
「しかし、マイクとかも色々種類あるよね」
陽は棚に置いてあるマイクを手に取って見つめながら言った。
「そうだね。ギターなんかでも思ったけど、見た目そんなに変わんないのに、何が違うんだろうねって思ったりするな」
「さすがに廉価品とかだとわかりやすいんだろうけど────」
と話している途中。
ピアノコーナーのところで。
────聞き覚えのあるメロディーが流れだした。
それは、俺も陽もよく知る、そして俺たちがやろうとしているバンドの曲のそれだった。
「・・・・」
しれっと弾かれているその楽曲、メロディーラインと歌の部分が乗っているが、聴いている限りは音のずれもなく、また音の強弱もはっきりとしていた。
弾いている主を見やると、自分たちとはそう年齢が変わらないようではあるが、明らかに経験者というのはピアノの弾き方でわかった。
「────・・・あの男の人、あの曲弾いてる」
「・・・ああ」
やはり、聴き入っていた陽の口から出た言葉。
視線は、俺と同じピアノの演奏者。
ちゃんと弾ける、ということはやはりこの曲を知っているってことだよな・・・・・・?
しかし、この曲はショッピングモールの楽器屋さんで、本気で演奏するような曲ではないんだけど。と少し思う。こういうところのでのピアノは、大抵は簡単で弾きやすく、誰でも聴いたことあるようなフレーズを弾くのが一般的だからだ。
まぁ、たまにクラシックの曲を本気で演奏する人もいるにはいるけど。
気づくと、その流暢なピアノの旋律に少し人だかりができていた。
そのピアノの演奏の上手さに思わず足を止めた人、曲を知っているだろう人もいたらしくそれとなく身近な人と喋っている人もいた。
周囲では、曲に合わせて手拍子を合わせている人も。
しかし、その曲を弾いている人は、周囲の人だかりが目に入っていないのか、構わず弾き続ける。
やがて、最後のサビの部分で曲が変調し、終盤に入る。
そこの周囲には人だかりができていて、一様に盛り上がっている。
俺たちも、二人そろってその輪の中に入り込み、ただ聴き入っていた。
そして────
「─────────!!」
最後の音が弾き終わった後、一気に歓声が上がり、拍手が巻き起こった。
そこで、その男の人は初めて周囲の人だかりに気づいた様子で、一瞬戸惑ったように見えたが、少しして、歓声に対して軽く手を振っていた。
「ね、ねぇ康介」
「ああ」
「あの人すごいよ。ピアノパートないのに、歌の部分と他のパートをアレンジだけで弾ききった」
そう。今弾いていたその曲。陽の言う通り、ピアノパートがないにも関わらず、歌の部分はともかくとして他のメインパートをアレンジだけで弾ききっていた。
だけど、俺は知っている。いや、陽も知っているはず。一回だけあのアーティストが、とあるライブでピアノパートを弾いていたのを。
「いや、前に一回だけやってる。ソロバージョンで」
「・・・・・あ!」
そういえば。と俺の言葉で思い出したのか、陽は明らかに驚いた様子だった。
「で、でもあの曲って!」
とある地方都市で行われていたライブで演奏されたその曲は、確か、そのアーティストの一人──────ボーカリストの大切な人のために、ということで演奏された曲。
そしてそのライブは、たまたま俺たち2人は参加していたので知っていた。
「でも、なんであの人、それを弾けるの?」
「さあ。さすがにそれは」
俺も分からない。その関係者なのか、ライブに参加していた人なのか。そこまでは。
でも、一回しか弾いていないであろうその曲をあれだけ弾けるの自体、凄い。ピアノのアレンジ自体は、さすがに完ぺきには覚えてないけど。
そんなやりとりをしてるさなか。
弾いていた男の人は喧騒の残るお客さんをよそに、そのピアノを販売していた楽器屋さんの店員さんに頭を下げに行っていた。
「・・・・・・いや、すみません。何か夢中になっちゃって」
「いや、いいよ。いや、いいよとまでは言わないけど・・・これだけお客さん集めたんだから、いい宣伝にもなるし」
店員さんは軽く笑いながら答えている。
俺たちはその人を追って、途中から二人のやり取りを耳にしていた。
「しかし、新町くん。ピアノの腕前は相変わらずなんだからそっちでも食べていけそうなのにね、もったいない」
どうやら、あのピアノを弾いていた人は新町さんという名前のようだ。店員さんとは顔見知りのようだった。
「いやいや、上には上がいますから。それに、ピアノでのし上がるつもりもないんで」
ここでもやはり謙遜する新町さん。嫌味とかそういうのではなく、本当になる気はなさそうには見える。
「うーん。やはりもったいないなぁ。私なら、それだけの腕があるなら間違いなくその道に進むのに」
確かに。このショッピングモールという場所でああいうニッチな曲(と言ってしまうと自分の好きなアーティストをけなすようでアレだけど)を聴かせられるくらいの腕でああも弾ききってしまう腕があれば、俺もそう考えてしまうだろう。
「・・・・で、この子たちは?」
と店員さん。二人のやり取りが気になって悪いと思いつつ身近で二人のやり取りを聞いていたところ、振られた格好となった。
「あれ、さっき聴いてくれてた人たちの中にいた人たちだよね?」
「ああ、すみません。あの曲に聴き入ってしまってつい」
と陽。やや興奮気味だ。新町さんは気づいていたようだ。
「あ。さっきマイクを選んでた子だね。そこの彼氏とユニットでも組むのかな?」
と店員さん。俺をチラ見する。
彼氏、か。まぁ男だから彼氏って言葉使ったんだろうけど、ちょっとドキッとした。
「いいえ」
そして。一呼吸おいて、陽は続ける。
「・・・わたしと隣にいる彼と、あとメンバーを集めて、バンドを組もうと思っています」
と。その言葉には、多分な含みがあった。
そう、バンド。ユニットではなくて。
「あの曲のピアノバージョン、あなたも知っているんですね」
「君も知っているんだね。いや、君たち2人も、か」
新町さんは俺の言葉に対して、ちょっと驚いた顔をしたのを見逃さなかった。
「ということは・・・・・バンドやりたいって言ったけど、もしかしてあのバンド──────“USG”の曲をやりたいってことで、あってるよね?」
「ええ。そのつもりです」
と、陽。その言葉ははっきりとしている。
新町さんはちょっと考えたそぶりをして。
「ええと・・・・・・都賀さん、まだチケットって余ってます?」
俺たちの話の蚊帳の外になってしまった店員さん─────都賀さんと呼ばれた女性に尋ねる。
「んー、どうだったかな?・・・・ちょっと待っててね。見てくる」
都賀さんは、店の奥にバタバタと足音を立てて急いで戻っていった。
「そうだ。都賀さんが戻ってくる前に、良かったら名前を聞かせてもらっていいかな?」
「そちらが名乗るのが先じゃないですか?」
ああ、そういえば名乗ってなかったっけ?と俺の言葉に新町さんは頭を搔いて。
「僕は新町貴広。近所の大学に籍のある3年だ。そちらは?」
ここらへんには大学は一つしかない。そして近所の大学・・・ということは?
「新町先輩、はじめまして。わたし、後輩にあたる新入生の市川陽と言います」
陽も気づいたようだ。その陽は、挨拶と同時に軽く頭を下げる。
「同じく。後輩の中山康介って言います」
俺も、陽にならって軽く頭を下げる。
「市川さんと中山君か。そうか、二人とも大学の後輩なんだ。これから、もしかしたら顔を合わせる機会が増えるかもしれないから、改めてよろしく」
年齢は近そうだとは思っていたけど、大学で2つ上なのか。
・・・・それなのに、ピアノがあの腕前なのか。そんなに年が変わらないのに。一体、どんな修練を積んできたんだろう。小さいころからピアノを習っていたのだろうか。それに、顔を合わせる機会、とは?
「それで、チケットって・・・」
と言いかけたところで。
「新町君、あったよ」
都賀さんが、ちょうどチケットを何枚か持って俺たちのそばにやってきた。
それを、新町さんに渡す。
「ライブ近いから、もう残ってないかと思ってたんだけど」
「それだけ人気だってことですかね?どうもありがとう、都賀さん」
「いえいえ。新町君の頼みだしね」
「またまた。残しておいたんでしょ?」
「そういうのはいいから。また、ライブあったらチケット持ってきてね。興味ある子に販売しておくから。それと、この日は私もライブ行くから。それと後であの子にも話があるから、お店に顔出すように伝えておいてね」
と言い残して、都賀さんはカウンターに戻っていった。
「・・・・・・で、だ。このチケットなんだけど。せっかく出来た縁なんで、君たちにあげよう」
新町さんから、俺たち2人は半ば強引にチケットを手渡された。
見れば、“T4”とロゴの入ったチケットでライブの日程が書かれてあった。
「新町さん、これって」
「うん。ライブのチケット。本当なら販売用なんだけど、特別にさ」
意図がつかみかねる。
チケットには曲名とか、メンバーとかが書いていない。一切の情報がわからない。
「えっと・・・、チケットを渡されたということは、このライブに来てほしい、ということであってますか?」
と陽。そう考えるのが一般的だろうか。
「うーん。まぁ強制じゃないから、来るのは自由。だけど──────────運が良ければ面白いものが見られるかもね」
面白いもの?何だろう。あのバンドに関係することだろうか。
やはり、新町さんの意図がどこにあるのかが読めない。
「ちなみに、その“T4”ってバンド。ボーカルが女性で、アマチュアではあるけどここら辺では割と有名だったりするんだ」
と、さも知っているかのように言った。チケットをこうして配れる立場だから、多分知っているのだろう。もしかしたら関係者なのかもしれない。
そしてボーカルが女性ということは。
身近でライブを見られるチャンスでもあり、バンドの形のヒントを得ることができるかもしれない。陽もボーカルとしてやっていくにあたって、参考になるかもしれない。
陽も、考えている様子だ。
「それに、もしかしたらだけど。二人にとっては面白いものが見られるかもしれないよ」
その言葉に。
「・・・・・・・康介、ライブの日、予定ある?」
視線をチケットに落としたまま、陽は俺に聞いてきた。その声に、迷いはない様子だ。
ライブの日を見ると、1週間後の土曜の夜。
「予定あるって言っても聞かないだろ」
「うん。じゃ、決定ね」
来週の土曜日の予定は勝手に埋まり。
「じゃあ、二人追加で、と先方には伝えておくよ」
とこちらも満足そうに新町さん。
この、ショッピングモールのでの楽器屋さんで、ピアノ演奏のことがきっかけで新町さんと出会ったことによって──────何かが大きく動き出した。
そして、このことが衝撃的過ぎて、本来の目的を忘れてしまっていたのはショッピングモールを後にしてからだった。