プロローグ(始まりの始まり)
初めての作品です。お付き合いいただけたら幸いです。
「ねぇ康介、わたしとバンドやらない?」
幼馴染の女の子が、唐突に言った。
黒髪でショートの、小柄だけど快活というイメージを持つ少女。
いつも、物事を唐突に言い出す目の前の女の子は自分の幼馴染でもあり、多分、幼稚園生くらいからの長い付き合い。
「────いきなり何を言い出すかと思ったら」
俺は机に突っ伏していた顔をあげ、女の子に目を向ける。
「だって、この前のバンドがすっごく良くってさー」
目の前の少女は満面の笑みで、小柄な体を目いっぱい使って大きく腕を上下に振る。ペンライトを両手で振っている仕草だろうか。俺の態度なんて、気にも留めない。
よほど、休みの時に行ってきたライブがお気に召したようだ。
いつも明るい陽だけど、ここまで興奮してるのも結構珍しい。
「だから、康介もバンドやろ?わたしと一緒にさ」
屈託なく言ったその口調は、笑みを含んでいるものの目は真剣そのもの。勢いの良さに、思わずちょっとたじろいでしまう。
陽は、こうと決めたらいくら言っても聞かない。過去の経験上、それは一番身近にいる自分がよく分かってる。
……頑固というか意固地というか。
「とは言っても、メンバーとかどうすんの?大体、楽器とかの問題とかもあるだろ」
それと、人数の問題とかいろいろあるでしょ。
「ま、何とかなるでしょ」
平然と手をひらひらさせて答える陽。
思わずため息が出る。
その、何とかするが何とかなりそうならいいんだけど。その無茶ぶりにつきあわされるこちらの身にもなってくれないかな。
「授業始めるぞー」
先生が、鳴ったチャイムとともに教室に入ってくる。
「じゃ、またね」
また面倒くさくなりそうだな。
自分の席にそそくさと戻る陽を見ながら、俺はため息をついた。