5-13 リーメ君のダンマス日記 エレノアさんが来た
「皆さんに、よいネル様ライフを!」
その言葉と共に手ふり送られていく兵士たちは彼女にとって、単なる人間以上ではなかった。そして、この午後のひと時はそんな傷付いた人々が来なくなる唯一の時間であるが…。
「私の勘がビンビン言うのですよ。誰かいると。」
診療室の小さい部屋で誰もいない虚空に向かって手を出す。
「警告ですよー。早く出てこないと攻撃しちゃいますよ。」
…。
「光集まり、空からの光、舞い降りる光臨…。」
詠唱込み、パニッシュメントレイの準備をする。詠唱が混ざると火力が上がるので大抵のモンスターなら一撃死する。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
その言葉とともに診療室のベットに座った一人の少年の姿が浮かび上がる。
「おやぁ?あなたは何者ですか?」
「あ、え、いや。下の家のものだ。」
少年はじっと様子を見ながら。私は、診療室の丸い椅子に座る。こちらは見る側の椅子だ。
「あらあら初めまして。何の用ですの?」
「ああ、ちょっと相談したいことがあってね。」
「なんです?」
「いやあさ、エレノアさんの依頼で。」
「様!様をつけなさい!ネル様と並び立つ方をそのような不敬な!」
「あ…いや…エレノア様ね。その依頼の件は聞いてる?」
「え?ちょっとお待ちください、私は聞いてないので、ちょっと確認してきますね…。あ…カラム…ああ…わかった。」
なんかカードに話してるのは、今でも怪しい何かにしか見えない。がこれでないと連絡できないのね、
「…ええ…え…ええ…後でネル様に髪の毛・・・え・・・が・・・。」
何かこう…残念そうな顔で、カードから顔を離すペール。
「うん、ちょっと後で、エレノア様が来るって。」
「え?あの人暇なの?」
「暇というより、危惧ですわね。何かあったのって感じだったそうですわ。」
「何があったのです?」
「あ、エレノア様。」
扉のほうを見るといつ見てもきれいな、母性溢れるドレスの人だった。この人もまた、神出鬼没だった。
「はい、このままでは特定の人間だけが…。」
「ちょっと吸音しておきますのでね…。で?」
「はい、特定の人間だけで試練では問題があると思うのと、もう一つ、ちょっとここの兵士の扱いがつらくて、あの親衛隊でしたっけ?連中に魔石をやりたくないのですよ。兵士さんは
いいと思うんですが…。」
「確かに…上前跳ねて。楽してますもんね。」
「その辺は裁量権にお任せします。私としては渡したい人にあの石が渡れば自由です。但し、行いの責任は私たちは取りません。ギルドが動くはめになったら素直に任せるのです。」
「分かってます。」
「私たちは、気に入らないなら、やればいいと思っるのです。気に入らない人間であれば、結局人間も、人間以外も結局感情で生きるのです。但しそのあとに来るのは兵士たち含め全員立場が悪くなり、王国に処刑される可能性もあるのです。親衛隊を殺し、兵士たちを助けても何もない場合もあるのです。リーメ君も聞いてるでしょうし、覚えておいてください。力あるものは、その責任を負うのです。結果に対する責任を。」
「力の責任。」
「はい、ナオは、そう言ってました。力は常にだれかを傷付ける、ただ、それよりいい結果があるからそれを歓迎するのです。悪ければいずれ自分に帰るのです。だから、考えろと。」
「考える。」
「考えて出した結論を後悔するな、やってから次の手を考えろ、後悔するぐらいならやるな。です。後悔しないまで手を尽くしそして万全を期す。そういう事です。だから、その上であるなら
私たちは止めません。どの結果でも。そうでないならまずは最高の手を考えるべきです。」
「じゃあエレノア様ならどうします?」
鬼ちゃんはずっとわからないという顔だった。ペールはただ、演説を聞いている顔だった。
「そうですね…。もともとこの地は危険があるのでしょ?なら、危険地域でなら、不意打ちされても文句言えませんよね。後は、分かりますわよね。」
「ははは…。」
「さすが、エレノア様。」
こうもあっさり案が出るとは思わなかった。二人ともそういう感じだ。
「一応ここはダンジョンなのですよ。それをお忘れなく。では、私はこれで。」
そう言うとエレノアさんはまた、歩いて帰っていった。ここ一応出入り口、兵士が封鎖してるはずなんですけどね…。
「上は違うね。」
「尊敬するのもわかりますでしょ?」
「ああ、分かった、俺たちはまだまだ、修行が足りないのさ。」
結局そのままダンジョンは維持し、鬼ちゃんが出て親衛隊だけを不意打ちして、兵士はばれない程度に傷をつけて返すことにした。そして、ガルッチ主導でオーガチャイルドダンジョン警備部隊が
形成されることとなった。成長と、警備の両立する直属部隊の育成だった。




