3-13 半年たってエルフの店で
あれから半年がたち、戦争の季節である夏になると今度は10万の大軍で勇者のいるエリンシア王国に対勇者同盟軍は進撃を開始する。もはや国がつぶれるかという覚悟の上だった。だがその結果は空から舞い降りる光の雨と飛び交う斬撃を前に第一回と全く同じ結果にしかならなかった。そしてそれに伴い対勇者同盟軍は降伏を受諾、エリンシアを含めた4国による”対魔王同盟”がここに結成されたのだった。ただ、魔王がいると言ったのは勇者であり、魔王という存在を各王家ともども全く認知していなかった。そしてその頃。
「ありがとうございました。」
ネルは小さい店舗の中で塩を持って行くお客さんにお辞儀をしていた。
「でもまあ、こうなるとはね…。」
プラークは近くの椅子に座ると周囲を見渡す。この店にはエルフが作ったというハーブとか絹の服とか、塩が置いてあった。エルフの里のアンテナショップである。店の名前も”エルフの里”である。
「ちょっとがんばった。」
ネルは胸を張った。
「というか、このハーブだっけ?」
「うん。」
「これも売れ行き良いんだよな。」
「それもエルフの秘術。」
実際はネルの園で作られた香草で、ちょっとした安静効果がある。まあダンジョンの腐葉土、森の祝福、成長と急成長が可能であり、三日で採取可能まで行く。それ以外にも実はあるがそれはその結果を食べたことがあるハーリスおよびダンジョン一同によって制限された。砂糖とか、プリンとかポーションとかそれはもう危ないものがいっぱいである。
「後、エルフの里言ったらさ、ネル、あんた、族長だって?」」
「うん。だから動けた。」
「この小さいのに?」
「私たちは基本年を取らない。だからこれでもおばあちゃん。きっと。」
「そうは見えないがね…。」
呆れるプラークではあるが、確かにネルの名前を出せば優遇してもらえるので、その辺は信頼していた。実際エルフたちが数人荷物運びもしてくれるし、こっちに来て報告とかしている。
「それもエルフの秘術。」
「はいはい。」
そうこうしてるは、一人の女性が入ってくる。
「いらっしゃい。」
「…ここはエルフの店?」
入ってきた女性はなめした皮鎧に薄そうな布のスカートそしてスカーフをしていた。その髪は後ろで束ねられており三つ編みで、メガネをかけていた。
「おうよ。エルフの里だぜ。」
「ポーションとかある?」
「ポーション?」
ネルは不思議そうな顔をしている。
「ないの?」
「ポーション、意味、分からない。」
ちょっと相手の女性は不思議そうな顔をした。
「じゃあ、傷薬はある?」
「そこの草の汁、塗り付けると血が止まりやすい。」
そう言ってネルは少し高く積まれた葉っぱを指さす。流石の女性も疑わしい目で彼女を見つめる。実際これはポーション開発段階で生まれた”強化薬草”であり、実は割れてなければ腕もつながる。
「…エレノアさんってここにいる?」
「エレノア?知らない。」
「・・・。」
「・・・。」
「お勧めはある?」
「主力商品はそこの塩、おいしい塩。」
「塩?」
そう言って、ちょっと木の器に入った塩を指さす、最近ハーブとか売れるようになってちょっとだけ余るようになってきたのと、その大きさで金貨10枚と要求するようになって初めて余るようになったのだ。
「魔塩?」
流石に胡乱な目でネルを見つめる。
「私たちが一生懸命作った塩。」
「そうだぜ、この町の、いや、エルフの名物だぜ。」
「…ダンジョンの?」
「しょっぱい水が出る池がある。そこの水を使って作った。ダンジョンって何?」
「・・・。」
「・・・。」
「いくら?」
「金貨十枚、これでもそれが最後の一個。後の入荷は未定。」
「おすすめの使い方は?」
「それを肉に振って、揉んで焼く。肉が旨い。」
「ん?肉食べるの?エルフって菜食主義だと思ったけど?」
「食べ物がないなら草も食べる。が、獣狩れるなら獣喰う。」
「変わってるのね?」
「私たちはこれが普通。」
「変わってるな?あんた、名前は?」
流石のプラークもちょっと疑わしい目で見ている。
「長谷川。」
そう言うと、金貨を10枚カウンターに置くと、塩を持って彼女は振り返らず立ち去っていった。
「長谷川ってあの勇者の一人かよ…。」
姿を見せなくなってからうめくように言ったプラークの声は苦かった。