11-27 東雲恵の魔界探訪 潜入!月下の庭園
時はさかのぼる事、ナギサが加入して一か月たつ頃。
「あなた方の実力で助けてほしいねん。」
土下座をして頭を下げる金髪の男がそこにいた。顔を隠していたフードは上げられ、
「こいつは…。」
「知っているのか?」
「元ギルドマスターのカラムだ。」
ひもで縛られ、後ろの数名の冒険者風の女性たちも縛られていた。
「ほう?」
「こいつは、ギルドに突然首を切られ、今は一般人だったはず、殺されないのは、今までの功績を鑑みてと言われた…。」
「ああ…あのギルドのハイエルフだ。」
周囲の男たちがざわめく。
「ふ、私たちの威光に恐れたか?」
一番上の椅子に座る薔薇を持った男は溢れる喜びが抑えられない顔をしていた。
「うちはギルドで虐げられてるねん。…姉にはぼこぼこにされて怖いねん。」
そこで後ろの数人が笑いをこらえる。が、カラムの一瞥で、それを止めた。
「・・・そうなのか?」
「ギルドに復讐がしたい…なんや。こいつらはうちの子飼いの勇者たちや。こいつらを手土産に…復讐の機会を作って欲しいねん。」
その言葉は全員が納得していた。背後には3人の女性の姿が。一人は幼く、二人はそれなりに美人だ。カラムも一応はハイエルフなりの美人の女性なので。男性所帯が多いこのダンジョンマンションにおいて
「コア、身体確認はしたか?」
『はい、大丈夫です。彼女は元ギルドマスターのカラムです。確認された記憶とも合致します。』
いないはずの声が響く、この月光の庭園の主である薔薇のヨシカゲのコアの声だ。その周辺にいるのは薔薇のヨシカゲに追従するダンジョンマスターと彼に雇われた勇者と言っても悪行をしないだけの素行の悪い勇者たちと、その従者たちだ、但し数は30とかの多い数となっている。
「…ならば我らの役に立つなら、迎えてやろう。」
薔薇のヨシカゲが下卑た笑みを浮かべる。
「…ありがたき幸せ。」
「で、こいつらの名前は?」
「…あたしは東雲優。」
「…東雲恵よ。」
「田中早音…だ。」
三人がフードを取る。
「君たちのレヘルは確認した。20か…それなりだな…ステータスもそれなり、能力が聞いたことのない加護、ステータス譲渡、剣王か。悪くないな。」
ヨシカゲはタブレットを見つめていた。
「はい…。」
「子飼いという事は?」
「ああ、そうや、ギルドには数人。S級含め数人の対勇者戦力があるんや、でないと勇者を制御しきれないんや。その中でも監視の効きにくいうちに恩義のあるこいつらを連れてきたんや、さすがに上級と言われる勇者は無理やけど、中級なら何とかできるんや。だから…。」
頭を地面にこすりつけるように下げ、カラムは言葉をつづけた。
「ステータス譲渡は?」
「…私の気に入った人間とお互い心を開いている相手に限り私の持っているスキルを渡す者よ。但しこっちのスキルはなくなるし、ほとんどをカラムにあげちゃった。」
恵はすました顔で答える。
「だからカラムはギルドマスターになったのか…。」
周囲がざわつく。
「加護は?」
「私の気に入った人に限りそのひとに私のステータスの一部を分けるの。但し、条件は神様が決めてるみたいなの。」
優はゆっくりとした声で答えた。
「…このステータスの大きさはそういう事か…。」
「剣王は…聞かなくていいな…。ちょうど月光の代わりが欲しかったところだ。これで我らの戦力も万全だ。お前ら…酒宴を開くぞ、歓迎会だ…。」
「…すんまへん、逃げるのと逃亡生活で、酒を飲めるだけの体力もあらへん。この子らも疲れてますねん。できれば個室をあてがって欲しいねん。明日からガンガン働くさかいに。」
カラムは少し顔を上げる。その顔はやつれていて、確かに疲労の色も濃い、
「なら、大木戸。案内してやれ。俺達はとりあえず飯にする。お前らは集合部屋に向かってくれ。」
全員はそう言い立ち上がり、謁見の間を去っていった。




