11-14 教授の章 小料理屋さつき
教授が足を止め、ギルドカードを見つめる。
「どうした。?」
柳田が足を止める。
「指名依頼だ。位置は…向こうの大陸の海岸上の町だな…ラスタンの町だ。そこで、ある商会から船の警護だ。」
「なんかおかしい、依頼の時期は?」
ネルが、こちらのスマホを覗き込む。マナーは教えたほうがいいのか?
「一度会って話がしたいそうで、時期はこちらが設定していいそうだ。」
「別の依頼でしょうな…。」
柳田がコーラを飲みながら答える。
「一か月をめどにつくと伝えておく、探りを入れるぞ。」
「分かった。後、そういえばリューネと南に頼まれたことある。」
ネルがなぜか私の肩に手を置く。
「何だね?」
そう言って取り出したのは、キラリが来ていたような…華やかな魔法少女服だ。
「これで今月の”美少年通信”の写真撮る。勇者特集で、南から教授は”ショタ枠”とかいう謎の物体と聞いた。。だから、私から…。」
美少年通信は南がダンジョンの収益を得るために出している冊子の名前だ。
「ちょっと待ってくれ、ネル君。そこの。」
リーメ君と、鬼ちゃんがニコニコ、教授をじっと見つめている。その笑顔が怖い。君たちこっちに来て、ちょっとネルを止めないか?
「大丈夫、リーメ達は、先月やった。”魔王バトル”特集だった。ただし男の子が少なくて、読者から苦情来た、だから今月は伝説の勇者特集。」
「いや、いや、ちょっと待って!」
あれから一か月、私は、参考までに貰った。”美少年通信”をチェック後にダークボックス経由で奥底にしまい、ラスタンの町に来た。実際来るだけなら実は30分で着く。ハーリスの送迎を使えば。だが、使えば怪しまれるので、わざわざ一週間前にこっちの大陸にネルのダンジョン経由で到着。そこから、一泊して観光後にクラウドドラゴン以降できた。ドワーフの飛龍便を雇い特急できたふりをしてこのラスタンの町についた。小さな港町で…海が黒っぽいせいか…海水浴も流行っていない。そんな夏でも少し肌寒い港町だった。到着の連絡メールを送りつつ、周りを見る…踏む、木の作りが多いが普通の港町だ。
「ふむ、君、できればここの魚の旨い料理店を知っているか?」
「…そこだ。」
近くの人間に聞いてみてあったのは”小料理さつき”という…いや、地球にありそうな店だった。ここまで来て、地方のスナックとか、異世界ぶち壊しに来すぎだろ!
「店はやっているかね?」
いやいや、中は大丈夫だ。中に入ると、テーブルと椅子がある普通の店だ。店の作りがファンタジーではなく日本風なのは我慢する。
「いらっしゃい。」
「酒と食べ物をくれ。できれば魚を。」
私は席に着くと…さっさと頼む。中を見ると小さいカウンターと椅子がある。そして、黒い髪の、軽く縛った女将さんがいる。
「あいよ。」
店員の声がして…。奥から料理の音が聞こえてくる。…ギルドカードが光る、これは地下室関連者専用機能の”会話機能”だ。が、カラム?
「何だ?」
『ネル様から言われて、あんたに警告や。こっちん大陸で確認できた月下の剥奪者は3名だけやった。後の5名は行方不明や。しかも追加で失踪者がで取る。4名や。あと2名は町におるん所をネーリィが確保したんやが、それがどうも、確認で依頼伝票見ると、海岸沿いの町での依頼後にいなくなってるらしいんや。だから気い付けたってや。』
そのまま切れる。
「お客さん。これでいいかい?」
そう言い運ばれてきたのは、焼き魚と軽く焼いたパンだな…普通か…。
「あんた、転生者かい?」
「どうしてそう思った?」
私は酒を木のカップに注ぐ。
「あんたの髪の毛が黒くてね、」
…。この女。
「鑑定は使ったのか?」
「いや、そんな上級な物は持っちゃあいないよ、聞いたことはあるがね。」
「あんたが転移者だろ?」
「…なんでそう思ったんだい?」
「ダンマスなら、鑑定を隠さない。そして、転生者とこっちに人間は言わない。勇者は知っていても、転生者、転移者は理解していない。」
「ダンマスとか言うのは知らないが…。確かに私は気が付いたらここにいた。」
「その前の記憶は?」
「飛行機に乗って田舎に帰るところまでは覚えている。が、転生とか転移とか…あまりぱっと来ないんでねえ…。」
巻き込まれか…。
「なら…それは転移者だ。赤子になっていれば転生だ。」
「ふぅん。それなら私は転移者だね…あんたは?」
「私もだ。そうだ、女将さん、クックック。これをやる。」
そう言うと懐に手を入れ、ダークボックス経由で、黒い液体の瓶を手渡す。
「これは?」
「この大陸のギルドで売ってる”エルフ醤油”だ。」
「醤油!」
カウンター越しにその瓶に飛びつく。
「クックック、持って行くといい。私はまだストックがあるからね。」
「あ、ありがとうね。醤油とか無くて、味が締まらないから…これで刺身が食える。」
少しほろりと涙を流している。そういえばこの可能性があるのか、勇者が転生者で、従者が転移者。まだ、捜索の幅を広げないといけないな…。
「で、女将さん…私はこの町に荒事の依頼できたのだがね。心当たりがあるかね?」
「少し、新しい魚鯖いて、刺身作ってやるから…うん、この辺では聞かないねえ・・・。そんなことがあるなら、あたしゃ逃げるよ。」
女将さんは鮮やかな手つきで、魚をさばくと、刺身をカウンターに出す。そして彼女の分もあるらしく、刺身をつまんでいる。
「懐かしい味だねえ…まあ、そこまで時間は経っちゃあいないんだがね?けどさ。旨いものはうまいんだよ。」
「そいつはこの世界で作られたやつで、現地の努力に感謝するんだな…。」
「やっと見つけた。あんたが”教授”だな」
扉の方を見ると、さわやかそうな青年が…。
「ああ、そうだ。」
「あんた、”教授”って言うんだ、また、たいそうな名前だねえ。」
女将さんが感心している。
「それは友から言われてね、”博士”は確かに大学で博士号を持っているらしいが、私はあだ名なのだよ。ただ気に入っていてね。名乗る時はこれにしてる。本名に良い思い出が無いのだよ。」
「名前の自信がない…か、あたしはさつきっていうんだけど歌手と間違えられるから、いやな頃があったねえ。」
私は刺身に醤油を少しつけ…女将はたっぷりつけるタイプか…。
「いやいや、ちょっと待て!無視しないでくれ!依頼できたというから町中…。」
「刺身が旨いね。前は小料理屋とかを?」
「いやあ、そう言うのは無くてねえ、地元で買った魚とか、夫が釣った魚捌くから、慣れてるんだよ。」
「話聞いてください!」
「聞いているよ、依頼者でいいのかな?後、女将さん、酒は行ける口か?」
「私は苦手でねぇ。」
「そっか残念だな、日本酒も実は、その開発者から預かっているのだが?」
「料理酒で欲しいねえ。それはギルトとかに行けばあるのかい?」
「ここから陸路だと山脈迂回するから、2か月かかるぞ、特急便使って。」
「そいつは遠いねえ…。」
「少しは聞いて欲しいんですけど。」
流石に呆れて備え付けの椅子に座る。
「君は刺身は食べるかね、醤油がある。」
「え?あ!あのエルフ醤油?」
「ああ、海に来るというので数本買っておいたのだよ、君も刺身食べるかね。」
「はい、頂きます。」
もぐもぐ。
「エルフ醤油って有名なんだねえ…。というかエルフって実在してるんだねえ…。」
「エルフがギルドやっていて、ついでに物販でこれが売っているのだよ。で魚を買ってきて宿で捌いて食うつもりが…おっと、これは大方商人に頼めば輸送してもらえるはずだ。酒はまだ出回ってないが。」
そう言うと少し大きめの木の樽に入ったやつをカウンターの上に置く。そこには乱雑な字で”日本酒”と書かれている。
「それはうれしいねえ…。」
「旨い、うまいんですけど、私、無視しないでもらえます?」
「クックック。分かっているよ、用件は…。」
「ついて来てください。船があなたを待っています。」
「なら、女将さん行ってくるよ、また会えたら…少し、ゆっくり酒を楽しみたいものだ。」
「だねえ。」




