10-19 世界の深淵を覗く
「そうそう、母上、頼んだあれは?」
「やっておいたわよ、来ないと思うけど私は。」
コクヨウが目の前に出された肉にかぶりつきながら答える、その向こうでリアとキラリも食事を一緒にとっていた。
「何かしたの?コクヨウ?」
「三日月の連中呼んだのよ。ダンジョンバトルに場所だけ書いておくって、こっちが了承押さなきゃ、戦闘にならないし、簡易メッセージとして送ったの。」
「だって、あの時に思わせぶりなこと言ってしまって…。」
その時浮遊島のドアが思いっきりあいた。そこには几帳面そうな三日月と刀を抱えたナギサの姿があった。
「呼び出して…いやこんなところで生き恥を晒せというのか!」
「いえ。あなたたちに…。あの時の魔王…にあって欲しいと思いました。だから…呼んだのです。」
「それはむごくない?」
「南さん?」
「私はいま彼の気持ちが分かるわ。キラリもそう、教授もそう。あなたは世界の深淵を見てしまったのよ。」
「何だと!」
「流石に酒の席じゃまずいし…こっち来て?あとコクヨウは少ししてタイミング見て来て。あの人連れてね。」
そう言うと南は店の外に歩いていき…それに三日月たちが付いていった。
「お前に俺たちの何が分かる!」
「分かる。同じ目にあったもの。」
南は振り返らず、浮遊島から地上を見下ろす場所に来ていた。
「え?」
「私が第一回魔王討伐に成功した時、王の身勝手で、私は魔王軍の本当の姿を見てしまった。あまりに圧倒的な差を、あのエレノアの本気の戦いを・・・。」
その言葉に三日月たちが押し黙る。
「そして、私はそのと今まで見た世界と違うものを感じ、願いを…このダンマスになることに変えた。」
「俺達はそう言うのはなく、ダンジョンマスターとなっても…俺達は戦いたくてここに来ていた。が…こんな…。」
「洗礼のタイミングがずれただけよ。先生に至っては。ここまであの人は独力でたどり着いたという、魔王の元に一直線に来たとね…。」
「何ぇ?」
「私はそれから、ずっと、トップと言われながらずっと中堅のつもりでいるわ。あなたがどうして亜人同盟を嫌っているか知らないけど。私はあの深淵をあなたたちが思うより前に見ている。」
「じゃあ、真の魔王討伐のために協力!」
月光が身を乗り出すのを南が手を出しとめる。
「何で魔王を倒すの?」
「え?」
「何もしてないものを何で倒すの?むしろみんなのために働いている人をただ悪人に見えるという”推定有罪”だけで殺すの?」
「いや、魔王は悪だろ?」
「ラノベでもよく出なかった?理由なく悪を指定するという事は裏に思惑があるのよ。むしろ魔王が何をしたのか全然わかってないでしょ?」
「ぐ…あ…。」
「私はあの時見たのはもう一つある、魔王軍はみんなの幸せのために働いている。今でもね…そのためのギルド、正確にはあなたたちを接待するためにギルドがあり、魔王がいる。」
「私たちの為?」
「そう、ナオに聞いた話なんだけど、ここに来る勇者は全員”俺ツエー”したい魂なんだそうよ。で、あなたたちが満足して、”いなくなる”を選択させるまでダンジョンマスターは勇者を相手し続けないといけない。」
「そんなことが?」
「そうよ。その為の魔王であり、魔王システムなのよ。本来は。だからシャラもコクヨウも、リンク君も今日寝れば、神様からあなた方が出会ったあの選択を受けるはずよ。願いをかなえる。」
「それはそんな…。」
「実際どれくらいで戻るのか全然わからないけど、いつか、その恨みを抱いた勇者たちが戻ってくる。と思っている。だからこそ強くあらねばならない。そして満足させないといけない。だからこそのギルド、そして、安全な…ダンジョンとか冒険を提供する世界を作った。と聞いてる。」
「あんたは…。」
「私はイケメンが好きで今でも…そのためにダンマスをしているのよ。まだ見ぬイケメンとか大好きよ。」
「聖職者が汚れてやがる、」
月光が呆れたように草原に座る、眼下には魔界を見下ろしていた。
「あなたはあなたの生でいい。味方になれとも言わないわ。ただ、あなたと同じ深淵を見たものが他にもいるのよ。」
「キラリとか?」
「そうよ。魔王を討伐した多くの勇者はその深淵を見る、そう神様の言葉を借りるなら…。」
「借りるなら?」
「ダンマスも、勇者も、モンスターも等しく住人よ。同じように意思をもち、生きてるのよ。魔王も当然ね…。」
「そうなのか…。」
ナギサも月光もそれを考えたことはなかった。
「南様、お連れしました。」
そう言い現れたのは…あの時城の中で見た魔王…黒騎士だった。
「お前は!」
慌てて月光が立ち上がる。
「この方が、魔王ですね…あの時の担当の。」




