3-6 スラム街のルール
偽ネル(エレノア)視点です。
次の日の朝、プラークは私を呼び出すと適当に路地をぶらつき始めた。どうも、ここはスラム街のようだな…。ナオの知識の一部はダンジョンモンスターになる際に導入される。おかげでヨミとコスメの話とかできる、できれば再現したいため、現在は花の汁とかを調査中だ。が、なんとなく信用できないな…。
「この辺でいいか…。そこのねーちゃん。」
「なんだい?」
声を掛けたのは中年のおばさんだった。
「この辺に空いてる家ないか?」
「2軒先なら空いてる。確か流行り病で、全滅した家がある。」
「そこでいいや。あとさ、」
「ああ、分かってる。金貨2枚。」
「それは本人呼んでくれない?」
「騙されないか…。後で呼んでおくよ。」
プラークは手元の銀貨一枚を叔母さんに投げつけた。おばさんは慣れた手つきでキャッチすると速足で去っていった。
「それじゃ、行こうか二軒先だからあれか…。」
そう言うと、木組みの小さい家があった。小屋と言った方が正しいだろうおんぼろ小屋。魔王城も真っ青だ。…あの魔王城玉ともに見える家というのは奇跡的だ。ここに人が住んでいるのか。これはネルを呼んで、草木を生やすべきだ、匂いだけでも死にそう…私には鼻はないが超感覚だから、凄い匂いには敏感なのだ。皮膚につく粒子そのものが痛い…不衛生だからマスターを呼ぶのは問題があるな…ただし呼ばないと問題が起こる。呼ぶ前に掃除しないと。プラークはさっさと家に入る。
「ま、これなら雨露しのげるっしょ。煮炊き場はないが外でやればいいでしょ。これで金貨2枚なら安いって。」
スラム街だからね。ただ…?
「意味が分からない。あの金貨二枚の要求は何?」
「あれはあのおばさん、張り切ってたからな。すぐ来るぜ。」
そう言うとともに…誰かいかついおじさんが数名…やってくるな…。プラークも気が付いているようだ。
「おいお前ら!誰に断ってここにすんでやがる!」
はげたおっさんと数人の下っ端だろうか…3秒で始末できるな…。
「いやあ、私たち迷ってきてしまったんですよ。」
プラークはわかっていたように腰を低くして男たちにすり寄る。
「そんなの言い訳にならん!」
「できればこれで、優しくしてほしいんですよ。」
と言うとプラークは手を差し出す。その手の先には金貨が数枚握られていた。それを見たはげたおっさんは口元をいかつく笑う。
「そうか、優しくしてほしいか。なんかあったら言ってくれよ、手助けするからな。」
そう言うと、チンピラたちは手を握地受け取ると、ほくほく顔で、外に出て行った。
「これは?」
流石に茶番だと思ったが何も言わなかった。
「心付けって奴だ。握らせておけば災難は来ないぞ。金にはこういう使い道もある。」
「そうか、この土地は私のもの?」
「基本的にはな。但し役人とか、あいつらの上が来たら金は渡しておけよ。」
「私の物、了解した。」
これで役割の二つ目は終わった。ダンジョン領域の法則は”誰の領地でもないまたは自分のダンジョン関係者の取得している土地をダンジョン領域にする事ができる”というのがルールである。
そのうち”自分の土地をを取得する”の項目は”領地を保証する文章がある又は一定数以上が、ダンジョン関係者の土地だと認識する。”で達成ができる。現在のエアヴァンゲルは誰もいないが”誰の土地でもない”ので取得できた。がここで取得するには”誰かに自分の土地だと証言させればよい”となる。そのためにわざと聞いておいたのだ。さっきの男たちとプラークたちの認識でここはダンジョン領域にすることが可能となったのだ。ついでに一度ダンジョン領域にしてしまえばあとは誰も証明しなくても”ダンジョン領域”変更されない。一つは塩を売り、対人間資金を稼ぐこと、相手にいくら取らせようがある程度あればいい。もう一つはそれで土地及び”登録する必要がある貴重な物”を回収することだ。まあ、この目的自体はこっちに来る間にみんなで相談し、コアに伝えてもらったのだ。
「俺は宿に帰る、ここは臭いからな。しばらく休んだ後…。俺はエルフの塩堀場に戻る。」
「なら、旅立つ前に来て。私から紹介状を書く。それで塩を分けてもらえる筈。」
「分かった。頼むぜ、お嬢ちゃん。」
「お嬢ちゃん、何?」
「きれいって事だ。」
「ありがと。」
そう言うと、プラークは去っていった。本当に家財もなく、ここで人が生活していたならよっぽど貧しかったのだろう。隙間風が怖い。
「これは…またひどい所だねえ…。。」
声がした方を向くが誰もいない。
「…ヨミ。」
そう言われて初めて、徐々に色が濃くなり、黒いドレスに身を包んだ妖女ともいう妖艶な女性がいた。
「連絡員は送ったし、すぐに完了だよ。」
「分かった、ここは臭い。」
「私がいたところよりよっぽど臭いね…まあ、もう匂いは感じないんがね…。」
「そうなんだ。」
「ただ、あまりいい顔してない。ここはエアヴァンゲルのスラムより酷いね。」
「そうなんだ。」
「ん、ひどい、ここ。」
その声に振り返るとそこには私と同じ姿の少女がいた。
「後で、この辺に緑置いて、臭いの取り除いて。私だときつい。おっと、口調戻すのです。」
そう言うと姿をいつもの熟女に戻す。
「後で、生け垣作っておく。交代で私がこっちにいる。エレノア1お疲れ。」
「どうもいたしまして。」
「寂しかった?」
「寂しいというより肌恋しいです。いつもナオ様に触れていたので、それがなくて泣きそうでした。」
「なんという役得。」
「確かにねえ…ただ、情報は集めておくけどさ。後マスターは向こうで処理終わり次第こっちに来るって、元ゴーストの改良完了だってさ。」
「分かった。よく分からないけどパワーアップ?」
「そうみたい。一応うちは、この辺一帯の基本情報集めるし、エレノアは向こうに戻ってってさ。」
「了解。引継ぎは本来と統合したらコア経由で。」
「了解。」
こうして新たなエルフ市民権作戦が発動したのだった。




