10-3 ぽっと出の勇者というごく稀の存在だ。
「というわけでお願いします、稽古つけてください!」
二人はその日のうちにNEO雑貨店を訪れ、即拝み倒したのである。
「いやあ、すがすがしいほどの土下座だね…。」
でも理解できないわけではない。現在南の場所には、戦闘できる子がいない。基本はダンジョンバトルでもシャラが出て行けばいいがモンスターとしての戦力はいない。ついでに長峰君たち大陸統一機構のメンバーは晴れて独立、今はダンジョン3つを経営し、リーメ君はやっと魔石鉱山としての仕事を長峰君たちに明け渡し、普通の生産系ダンマスに戻ったのだ。ただ、サブダンジョンを10個抱える大型ダンジョンであり、さらにダンジョンバトルもしてるため、実際かなり儲けている。大ダンジョン主である。リーメ君だ勇者を大方大量に見かけているから、誰かピックしてくるだろう。となると。
「頼みたいことがある、それを受けてくれるなら、それと一緒に受ける。」
「なんなんですか?」
「実はケイお姉ちゃんが出るのは、あと教授も神様が今回は禁止だそうなんで、誰か一人、勇者とそのチームを連れてきて欲しい。僕の関係者にふさわしい子を。その子たちと七海、いや鈴香ちゃんか、使い魔機能を使って育てればいいい。ついでにいない場合は僕の方でケイお姉ちゃんに頼んで、そっちをしてもらう。」
「結構きついですね。」
全員が半眼でお互いを見つめるほど、これは予想外の展開だった。
「南ちゃん?」
「追加で、七海さんを改めて、地下室の関係者とするなら了承します。魔王軍として改めて、一度関係者にしてください。本来はその予定の古参マスターなのですから。」
「いいならいいけど…いいの?」
「元々、リューネさんに救われた自分はショボいマスターです、初心者講習は参加してますが、まだまだ未熟です。出来れば鍛えてください。」
「南さんが言ったかどうかわからないけど、はっきり言って、鈴香さんはトップになれるだけの才能はある、が、戦闘に関してはセンスも欲しい。だから覚悟して欲しい。後勇者の選定は頼んだ。ただし僕からも面接するからね。」
「はい!」
その言葉に鈴香と南は立ち上がり、すぐにお辞儀して出て行ってしまった。
「いいんですか?」
ハーリスが身の背の奥から出てきた。今は魔王バトルの話を聞いて耐久性と、後プライべーつエリアの区分けしなおしを頼んである、が、こっちも当然監視している。予定としてはNAO雑貨店の各地域を魔王城経由でつなぐ予定た。それに伴い、お姉ちゃんの部屋とヨミの部屋、エレノアの部屋、ハーリスの部屋、僕の部屋を増設してあるが…部屋が思いっきり余る計算だ。
「うーん、実際僕が動くよりこっちのほうが楽と言えば楽、元々七海ちゃんの所には元々支援を入れてもいい。商売してもらえれば、その分楽になる。勇者に関してもこっちが面接するけど向こうが困り果てると思うよ。だって、自分と同じになる子が生まれる可能性があるんだよ。めったな人間を選ばないはず。むしろ期間計算すると立ち消えの可能性のほうが大きい。」
「でもどうするんです?」勇者ってそんな沸いて出るものじゃないんですよ。」
外に出て、通りを歩きながら鈴香は南と苦い顔を見合わせていた。樹の許せる仲間と思えるのが不思議だが、彼女に表裏が無くそのストレートさを評価していた。
「実は心当たりあるのよ。鈴香ちゃん。楽園ショップにほら…。せっかく出すなら、優秀な店員が欲しいじゃない?」
「あの子ですか?何も知らないですし、生産部見せたこともないんだけど。」
勇者すべてが戦闘したいわけではない。これは現実である。不参加勇者は28名であり実際クラウドドラゴン戦で出た勇者の数は12名、そして死亡8名である。じゃあ、この28名の内訳は?新大陸にいて、不参加を決めた戦闘可能勇者が18名であり、後の10名は…戦闘さえ嫌い、店や村生活などののんびり異世界人ライフを送っているのだ。他に0歳から3歳の異世界転生勇者を彼女は確認していた。当然ナオも補足はしてあるが、基本ここは放置して置く予定だ。本来この大陸では戦争は起きない…はずである。エクトネーゼ王含め、全員が内情を理解しているからだ。そして、争いの部分を満たす”ダンジョン”も各地に上級向けを含め存在しているので、ほとんど魔界で言うランク5までで収まっている。ランク6はほぼ画像でしか見た事がないであろう。という事になっている、そして、各王国に騎士団長として雇われる勇者が14名と多く、こちらは個人契約なので、本人同意なら許可となっている。が、ここはナオ公認勇者にはさせれない。本当に今の世界のパワーバランスを崩す恐れがあるからだ。そう、戦闘を嫌い、破壊を嫌う人間でないと逆にこんなオーバースペック渡せないのだ。これは、戦闘可能の14名のうち学校に通っている8名の勇者(うち2名はクラウドドラゴン戦に参加)も…実は考えたが、性格に難がある勇者が多く、難しいと判断していた。後の4人の勇者の家2人は実は楽園で働いているのである。一人は、山間部を回る行商として冒険と兼業し、あと一人はこの本店にいるのである。
「あれ、どう見ても勇者に見えないですし、地味で何考えてるかわからいから…。あの子を出すくらいなら、行商の子を考えますよ。」
「でも選択肢としてあれしかないじゃん。それか、行商の子を引き戻す?」
「行商の子はいい子なので…できれば戦闘しないでいて欲しいです。」
「でもさ、よくよく考えると、キラリより勇者に見えない勇者いる?」
「確かに…。」
キラリは確かに光の勇者であるが、”男の娘”であり、魔法少女ばりの衣装を着ている。あれを『救国の勇者です。』と他の大陸に売り込むことの難しさを自分は知っている、だから第二回に行きたいといっていた向こうの王様を許可したのだ。でないとすごさを理解してもらえないからだ。ついでにその奇抜さが故に従者もほぼ今までつかないのだ…。ついでにおかげさまで魔法少女スタイルの勇者がなぜかいない…。シャラが肉体派なので勇者ではあるのだが、あっちはあっちで、特攻服を好むのだ。あれも勇者には見えないな…。私の勇者珍品しかいねえ。やばい、先生が普通に見えてきた。
「呼ぶだけ呼んで、魔王討伐するか聞いてみる。」
「私ですか?戦うとか?」
「そうよね、そっちのお願いなのよ。」
南と鈴香、そして七海とナオの4者が面談しているのは、いつもは楽園の会計室にいるこの子だった。
「………戦闘は苦手で…。」
そう、この奥手の喋らない子が勇者なのだ。本来勇者はいずれも俺ツエーしたい人間が選ばれるはずなのだが、なぜか…この子は戦闘を嫌ったのだ。ついでにステータスは
名前:由羅川 美月
職業:勇者LV24
HP:2274
MP:98
STR:92
VIT:123
INT:672
MID:483
AGI:57
MAG:2875
スキル:爆発LV1、光魔法LV1、隠れるLV1、商売LV4、交渉LV7、家事LV4、生活魔法LV6
称号:異世界からの来訪者、目立たない、奥手少女、狂気の片鱗
所持金:12万GP
装備:楽園ショップの制服、虹色のバックル、楽園の文房具セット
爆発LV1(特異系)
戦闘以外で接触したものを爆発させる。攻撃力(極小) 必要DP 25万DP
隠れるLV1(特異系)
短時間のみ自分の周囲の音量を軽減する。、 必要DP45000DP
となっている。成長すれば強いのだろうが…。ただ、従者はおらず…というより、選択しようともしなかった。この店に来て一年確かに堅実に働いてはいたが。そこまでだった。
「分かっているけど、貴方にとってもいい転機だと思うし…。私たちも支援するから、魔王討伐…をお願いする。」
「魔王…ですか?」
「しかも複数回となる。これは確定してる。」
「複数?」
「うん。どうする?」
「私程度では勝てないですし…。」
美月の言うのもわかるが…。
「レベルは見られるし、いや、もっとひどい事を言う、レベルは下げてもらう。その上で特訓してもらう、勝てるように…店長があなたを守る。」
「………えっと店長って、普通の人ですよね?」
「うん。だけど今回は私をあなたの従者として引き立て役として、私たちが行く。」
「大丈夫なんですか?店は?」
「それは2週間ほど休暇を私が取る。その間だけでいい。あなたも。」
「………そこまで言うなら、行かせてください。」
「僕から一言いう、君…。」
見た事もない少年がこっちを睨む。
「本当は戦闘大好きじゃないのか?ただ、思い通り動かないから、嫌いなだけで?」
「え?」
それは南も、七海も意外だった。
「そして、君に問う。君は人類の敵になる覚悟はあるか?勇者でもあり、力の為にキミは今の生活を捨てる覚悟はあるか?あるのなら、僕は力を貸そう。」
「人類の敵?」
「ああ、そうだ。深淵ともいえよう、ただし、その君の本当の願いを満たす。狂気の戦場であることは認めよう。」
「ふふふふふふふ・・・。」
「え?」
「こういうのなんですよ!こういうの!ただのぽっと出が勇者じゃない!こう、誘われるダークパゥワァ!こういうのを待っていたんです!」
「・・・えぇ!」
あまりとさっきと違う様子に南も、七海も驚いて、美月を見つめる。
「そう、私の眠った才能とかいろいろなんか感やあって、目覚めちゃうのが好きなんでしょぉ!」
「いや、才能はないよ。キラリほどでもないし。」
「え?」
ナオのあっさりとした声に全員が凍り付く。
「才能がある?ふざけるな。才能は自分で作るものだ。渇望してたどり着くんだよ。自分が歩いた道こそが才能だ。何も望まないでじっとしてたやつに何があるものか。君には溜まった望みがある。だからこそ行ける道がある。」
「…うぐ…。」
「何もしないなら、何もない。僕はそう言う奴をいくらでも知っている、才能を殺した連中を。殺さないといけなかった連中を。だからこそ問う、君に人類の敵となる覚悟はあるか?」
「師よ。私に教えを授けてください。」
その場で美月は片膝をつく。
「私には理解できない世界よ。」
南が呆れる。
「私ももう少しほんわか路線でいいかな?」
七海も美月の呆れた本性を見た気がした。
「君たちも付いてくるんだからね?」
「分かってます。」
「とりあえず、これを渡す、これが君を育てる条件になる。」
そう言うと、いくつかのスキルオーブをナオが取り出す。
「他力本願のスキルオーブだ。これを君につけてもらう。これは君の狂気で人を殺しかけた時、止める人を作るための物だ。」
「他力本願ですか、また際物を…。」
南が思いっきり嫌そうな顔で、そのスキルオーブを見つめた。
「何です?そのスキル?」
実際この楽園でも高級品としてとか、後店員教育でオーブを渡す場合がある。が、スキル名は触ったときにしか、分からないし、鑑定は取得可能でないと見えない。
「自分の勇者での成長補正を消す代わりに従者にその補正を与えるスキル。成長は現在確認されていない。自分は全く役に立たない代わりに従者が強くなる分人が欲しいというスキルよ。」
「これを使い、七海さんを育ててもらう。君に。パーティ編成に入れば七海さんに戦闘経験値が離れていても入るからね。その代わりに。」
「「私たちが力を貸すわ。」」
南と七海が声を合わせる。
「魔王ってそんなに重要なんですか?なんか凄い事なのは理解しましたけど。」
「違う。僕たちが力を貸すことが重要なんだ。これに伴い、七海ちゃん、後美月ちゃん、この書類にサインして欲しい。やると決まったら最後までやる。大方しばらくの間…。」
「何です?」
二人は出されたペンで書類にサインをしながらナオの様子を見ている。、
「育つ分量で言うと美月ちゃんの方が上回る、これでも。だから、これで育ち切った後半になるまで勇者が有利となる。そしてもう一つ。美月ちゃんには今頼みたいことがある。」
「何です?」
「まず、美月ちゃんは七海さんを従者にする。そしてあと3名。従者を探してきて欲しい。魔王バトルにおいて、魔王である七海ちゃんは勇者と一緒に戦闘に参加できない。魔物でいいならこちらから考えるけど最低でも魔王となる七海ちゃんは。今回成長を一緒にするだけとなる。」
「店長が魔王?で、従者3人?」
色々聞いて混乱してきたようだ。




