2-8 あまりに斜め下の展開で、変に窮地に陥ったみたい
バレンタイン終わりましたね…私ですか…気にしないでください。
その夜、ナオの思わない所で、ゲート村の村人たちは悩んでいた。焦点はこの「力の粉」と呼ばれた塩の事である。このあまりにうますぎる塩は魔性であった。舐めるだけで夢中にさせる塩。それがこの一袋分ある。
「ナオのところ行って、聞いてみるだか?」
「あの子、村の外れにいるから、分からないべ。」
「かといってこれ…。」
そう、これはどんなに取り繕ってもこれは塩であり、水分に弱い。そう…長く持たないのだ。かといって金貨一枚を食いつくす…なんて贅沢できるわけない。あまりに高い買い物に全員が悩んでしまったのだ。
「領主様に献上して、今年の税なくしてもらうとか?」
「今度どうするだべ、出したら最後またよこせ言われたら。」
次いつ来るかわからない旅人のことを信じるわけにいかない。それが困難さに拍車をかける。それがさらに頭を悩ませたのだ。この事態が急変するのは次の日の朝の事だった。
「向こうの街でなんか白い粉探してるだ。なんか褒美出すって。」
そう、エアヴァンゲルでの騒動が伝わってきたのだ。現在ナオが通っているエアヴァンゲルは謎の粉でいっぱいになっていた。そして、それと思しき粉もここにある…。
「どうするだ?」
「それなら領主様のところ持っていって、渡してくるだ。」
「んだ。」
そう言うと村長と数名は早速エアヴァンゲルに粉を持って行った。
「で、こちらがその白い塩なるものだと思いますだ。」
そう言うと袋を一つ差し出す。領主が横柄に頷くと、持ってこさせ、一口舐めてみる。
「確かに、これはあの時の塩だ。これはどうした?」
「はい。これは村に旅人が来た時にお礼として置いていったものです。」
「そうか、その旅人の居場所は?」
「いえ、しばらくしたら来ると言い、去っていきました。」
「愚か者が!なんで逃がした!」
撃こうした領主は腰の剣を抜いた。
「い、いえ、また来ると言ったので?」
「そんなことはどうでもいい。また来るとは限らないではないか?それを逃がすなぞ愚かとしか言いようがない。ちい、少し遅かったか…。あの幸せをたっぷり舐めれるチャンスだというのに。」
思いっきり領主が狂っていた。村長からしても見た事がない険しい顔になっていたのだ。その様子にただただ怖いと感じるしか村長にはなかった。
「ただしその旅人とやらを逃がした罪は重い。本来は厳罰である。ただしこの塩を献上した貢献を考え、これを不問とする。帰れ!」
「は?」
「こんな少ないのでは舐めて味わうにも足りんわ。本来なら打ち首である。だが、私は寛容である。その罪を許そう。」
「え?」
「出て行け!」
そう言うと、何一つ反論できること謎なく…村長は追い出された。ほどなくして、町中にその謎の旅人の指名手配が行われた。なぜか生死問わずである。こうして謎の人間が持ってきた粉という事になり、塩捜索騒動は急速に収束していった。
「なんだこれ…。」
流石のナオも、三日三晩検討会議をした全員も、この結果をだれも予測しなかったという極めて異例の斜め下展開にダンジョンメンバーの頭はさらに痛くなった。レイス達から報告を受けたナオは
泣きたくなった。
「こんなことあるのかよ…。」
「ここまで来ると異常。」
「なのです…。」
流石のエレノアもこれには苦笑いしかできなかった。なんと言っても、今エルフたちに粉を持ってこさせれば捕えられた上に死にかねない。好意で物事やってるのになぜか敵意で帰ってくるレベルの
「さすがのあたしも、これは予想しなかった。というか独占欲強すぎだろ。」
レイスの姉御もこれは驚いたという顔だった。まさか塩を定期的に渡したいのにそれに危険を伴うとか考えたこともなかった。そのためもう、エルフたちをこっちに来させるわけにはいかなくなった
と共に、
「ここが危険になった。」
「なんで?」
「憂さ晴らしはどんな言いがかりでも飛んでくる。村長があんな目にあったなら当然…。」
「こっちを恨んでくる。か…。」
「じゃあ、やっちまえばいいじゃねえか。」
「それをやるにはここは、エアヴァンゲルから近すぎる。」
ここはエアヴァンゲルから歩いて一時間の村ゲート村の郊外である。エアヴァンゲルとも近く、ゲートの村で戦闘になったら当然…エアヴァンゲルの衛兵も来る。ただ、すぐではないだろうとも思った。
「だとするとどうするよ?」
「脱出する。但し物資は買いこむ。」
こうとにかく言ってられない。今日とはいかないまでも数日中にゲート村の住人は襲ってくる。タイムリミットは今日しかない。
「ネル、エレノア。付いてきて。一緒に買い物しよう。そしてそのまま魔王城に一度帰るよ。」
「分かりました。」




