2-5 ただ領主に塩を送っただけになった話、
「すいません、領主に会いたいんですけど。」
門番は不思議な、そして胡乱な目つきで僕を見る。僕は背中に大きな袋を背負い
「なんだぁ?」
「領主様に献上したいものがありまして。」
「ならここで受け取ってやる。帰れ。」
「領主様に会えないと、すごく困るんです。」
「そんなの知るか。荷物だけ置いていけ。」
「困るんですよね…。こちらを…。」
そう言うと僕は今までパン焼き場で稼いだお金を差し出す。貨幣は地方では役に立たないがこういう都会では役に立つのだ、今は。これは自分の実体験ではなるが、相手が偉そうなほど”賄賂”は
効果ある、自分が子供の頃にいくらでも見た光景だ。
「こちらで通していただけないですかね…。」
その様子にまんざらでもない顔をしている。
「僕も偉い人に頼まれたので、引けないんですよ。」
「分かった、そこまで言うなら通してやる。付いてこい。」
衛兵に先導されていく。領主の館は大きく、そして、倉庫も大きい。人も多いが…なんかみんな笑ってる人が多いな…。
「すいません。」
ある扉の前で衛兵が立ち止まると急に声を…こっち向きじゃないな。
「なんだ?」
「来客です。」
「通してもらえ。」
「はい、」
そう言うと衛兵はドアを開け…どっかに行ってしまった。
「どうした?少年。」
「はい領主様にお伝えしたいことが。まずはこちらをお受け取り下さい。」
そう言うと背負い袋から少し小さな袋を取り出す。
「それは?」
「塩でございます。」
「見せてもらってよろしいか?」
「はい。」
領主らしい人と、数名のおじさんが袋に寄ってくる。重かったがこれでも塩田で作った塩5㎏である。というのも荷車で持ってくると奪われるかもしれないので、今の段階ではこれ以上持ち出せない。
「これは…これが塩なのか?」
よく分からない反応をしている。
「はい。塩です。」
「こんな白いのが?」
「はい。舐めてみてください。塩です。」
「じゃあちょっと。」
そう言うと領主らしいおじさんは塩をなめる。なんか警戒感無いな…。舐めた瞬間顔が赤みがかる。
「この白い塩…凄い。」
「領主様、我らも。」
そう言うと家臣の人たちだろうか…みんなで塩をなめ始めた。そして口々に褒める。…それはもう食レポ…でもないか…。
「凄いですな、」
「ああ、凄い。凄いぞ、」
「凄い、凄い、凄い!これは凄い。」
「なんという凄い!」
なんというか、言語も発達してないらしい、凄い以外の単語が出てなくて、凄いがゲシュタルト崩壊してるのだ。
「よろしいでしょうか。」
「あ、ああ、ああ、君かすまないな、この塩を堪能したいので帰ってくれないか?」
…。
「持ってきたの私ですけど。」
「すまない、この凄い塩を凄い堪能したいのだ。」
「では、終わるまでお待ちいたします。」
「いや、帰ってくれ。仕方ない!衛兵!ここの男をつまみ出せ!」
そう言うと、兵士たちがやってくる。仕方なく連れ出された。なんだろう、何しに来たんだろう、僕。
「で、帰ってきちゃったんだ。」
「うん。」
結局僕はあれだけ頑張って塩を持っていったにもかかわらず、塩を渡しただけで領主の家を追い出されたのだ。交渉に使えるとは思うのだが、こうなると思わなかった。
「おいしいよ、確かにあの塩、おいしい。」
そうなのだ。あの海の塩は純粋に生物のミネラル分が入り、岩塩で作ったスープよりおいしいのだ。だが、ああ夢中になって人を追い出すまで…とは思えなかった。
「で、どうするの?」
「一応計画は進めるか…。本当は塩をエルフの国で作ってる事にして、ダンジョンの隠れ蓑にする予定だった。当然人は寄ってくるので、そこは歓迎して。」
「歓迎するんだ。」
「ダンジョンに入ってもらってもいい。但し、海な…。」
そこはちゃんと対策済み。まあ、人が来るようになったらエルフの国で迎撃予定だ。そのための備えも…今作ってる。時間稼ぎも可能なので、偵察部隊と、コアの監視で大部隊は察知できる。
後は防衛用大型兵器トレントさん投入でいい。が、実はエルフの国(村)建設にはDPが足りないので一週間ほど待たないといけない。
「ナオはどうする?」
「僕は仕方ない、パン焼き所でパン焼きしている。次にもう一回領主の家に入るのに賄賂が欲しい。」
そう言うと、服装を整え
「これ着ていく。アラクネさん作った。」
ネルが持ってきたのはそう言うと簡単なシャツだった。
「丈が足りなくて、これしか編めない。言ってた。」
登録して…そこで再取得。
アラクネ謹製のさらすべシャツ 22000DP
「こっちのほうが楽だよ。」
なんかすごいDP価値が出ている。どうもこの世界の衣類はごわごわがメインで、そこまで発展してないらしい。このままだろ染色もダメではなかろうか…。ついでのシャツも白い…この上に
エレノアが変身した皮の服を着る。これでないと目立ってしまう。が、そうだ!ネルの分も作ってもらおう。まあ、後でシャツはDPで出しておこう。
「後で、糸の束だけもらえる?」
「いいよ、頼んでおく。」
「じゃあ行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。」
エレノアの行ってらっしゃいが優しい。これは前の世界ではなかったことだな…おっと。
「ネルを農園に送っておく。」
「はい。」




