7-夏SP19 パルミダーク王の語り
「なあ、エレザード。俺は間違えていたのか?」
「いえ。ただ、あれは…。」
元パルミダーク王であり、元辺境公のパルミダークが悩むののもわかる。息子もまたショックだったからだ。目の前には水着を着て遊ぶ男女の姿がある。あれが世界最高戦力”勇者”だと
気が付くには…判断材料が足りな過ぎた。
「俺達が呼ばなきゃ、きっとあいつら、ここにいないんじゃよな。」
「予算も多大に使いました。だからこそ併合の道を選んだんですから…けど、それを使わず、勇者に頼らず、街の発展に寄与すれば…ああなっていたのは我々でしたよね…。」
初日に海を堪能したパルミダーク王と、現辺境公であるエレザート・パルミダークは自分たちが支援し、懇意にしていた勇者とネルを連れ、エクトネーゼ王と別れ、この魔界のもう一つ
の都市、”王都”に観光に向かった。当然行く先ではモンスターが襲い、その自然に厳しさに驚きを持った。が、それ以上にインパクトがあったのは”ランク5集落”の”都市”だ。城壁に囲まれ
その中では数多くの店と酒と、そして旨いものがシオバニラに負けず、劣らず存在していた。そして、危険地帯を避けるため、城壁に囲まれた限定的な場所での農法ながら効率化が図られ、農業
も栄えていた。その巨大都市っぷりと…自分の領都と比べ…涙が出てきた。もし、勇者に金を使わず、発展の実を努力していれば、こうなっていたのは自分だと思えたからだ。
「でもよ、必要じゃろ?」
「確かに、立派な城壁もここまで来ると、いろいろ考えさせられます。」
子供たちも遊び、通っていく勇者も、みんな前途ある若者だ。モートリアの”勇者を強引に呼び続け、侵略を計る”に対抗して考えたのがネルたち”ハイエルフ”に頼り、その力で抑え込む
という戦法だった。モートリアは借金でそれを賄ったがパルミダーク周辺は海しかないというほど、実際そこまで裕福な土地ではない。旧エアヴァンゲル領の肥沃な大地から作物を特産品と交換で
買っていたのだ。だからこそ、その土地を持つ”エルシュウッド”と併合したのだ。そして、その際に今まで魔石を買っていた借金は取り消され、予算は前よりも多くそして、一定量の食料も
融通されるようになった。予算とは別にだ。
「でも…。一応領土は存在し、そして、自治権も認められています。父上。そこまで悲観なさるのは…。」
「分かっている。分かっている。が、悔しいんだよ。あいつらに悪気はない。」
実際パルミダークで読んだ勇者はキラリ含め、リンシュメルトに移住が求められ、ネルの後押しもあり、それを認めた。というのも、現エリンシア領を持つ”南”は元勇者であり、その力も絶大で
またその荘厳な城に統一された都市は荘厳の一言だった。これがダンジョンマスターの力だとも言われた。そう。ダンジョンマスターだ。ナオ含むダンジョンマスターで、亜人同盟にいる者は基本
地上に領地さえあればそこをDPと呼ばれるもので、建築物も作る事が可能だ。これはダンジョン内でも一緒で。技術さえ開発されればその技術のアイテムをDPで量産可能だ。が、神はちゃんと
そこに規制も入れていた。その話をされた時、神に感謝したことを覚えている。
「でも、あんな発展もできるなら、我々は今、その最中にいるんですよ。」
この魔界は、アイテムの持ち出しはできないが、それを映したスケッチは可能だ。なので、道具を覚えておいてスケッチして持ち出し、あとで自分の領地で作る事や、知識の導入は可能だ。
その為、数日王都内の各店や農地を視察した。そしてインスタンスダンジョンも勇者を連れ、入った。その厳しさも味わった、
「そう言えば、あいつは?」
「妻ですか?今エムント王に連れられ、浮遊島に竜姫に連れられ、空の旅で向かっております。」
「あいつもお転婆だな。」
「でも勇者に言っていたじゃないですか。この魔界、個人で来るには非常に高いんですよ。」
「まあな、王族用のギルドカードで確認した。」
この亜人同盟に入る際にネルからもらったのは王侯貴族用ギルドカードだ。中には専用版の”王侯貴族SNS"と”勇者SNS"の閲覧も可能だ。が、貴族カードでは勇者SNSに書き込みができない。
そこは知るだけという事で、調整されていた。逆に”足が付かない”という事でパルミダーク王たちには好評だった。がそのショップの中の”ダンジョン運営本部ショップ”と書かれた内部には
”浮遊島6時間チケット”、”魔界一日チケット”の存在があり、販売は”人族相手のみ”と書かれていた。聞いた話だと、一応ダンマスもほぼ同じ値段で買えるが、これを普通に買うに数に限界
もある上に、これ一個でダンジョンがつぶれる程度に高い金額が要求される。なので、国家を運営するレベルでやっと帰るものだという、また亜人同盟がほぼすべてのランキングトップであるため、
このチケットをトップの褒章で受け取ることができるので、手に入ると聞いた時は、組んだ相手を間違えてないと思った。
「でもまあ、俺も長い年月で、こんな裸に近い格好して、熱い海で、じっとガキたちの肌を見つめるって誰が思ったよ?」
「私もこれは同意です。ネルに”パルミダークリゾート”の開発計画聞かされ、一応承認しましたが、問題はここでも立地だと。で魔界とやらでこうして、土に座ってる。」
パルミダーク領は意外と奥にあり、山に囲まれているため、そして、エルシュウッドが人口で言うとそこまで大きくない事。その為、大都市でもある”エクトネーゼ”側にのみ道路整備しないと
まず人が来ない事。そして、そこからリゾート地点まで船で行かないといけない事、またその位置が”漁”と重ならない事。そうなると相当時間がかかるのだ。目的の観光地にたどり着くまで。
「でもまあ…あいつらはリンシュメルトにいるんだろ?俺とか一応リンシュメルトに大使館建設という話で向こうに別邸を持つことができるらしいからよ。そっちには街道は簡単にできる。」
「分かってます、が問題はエクトネーゼ側ですよね。」
パルミダークから見て西に良く通常の街道を舗装した形の”エルシュウッド街道”とは違い”魔の森”は、魔王城がある領域でそこにはいまだ復活した魔王が存在し…という話ではあったが、
最近発覚した契約書にサインして、その存在が”神”に作られた勇者救済施設だと知った。還りたかったら、魔王を倒せ。さもなくばこの地に骨をうずめろ。という意味らしい。その為そこでは
勇者に倒される為の魔王がいるという。但しそこまで道路整備していいのかというと、国として勇者に帰って欲しくない側であるため、その”エクトネーゼ街道”の建設はお互い申し合わせて
やめる事にした。と言っても細いエルシュウッド側からの道路は存在する。なので往来は不可能ではない。
「でもあれだな。」
「なんです?」
「お前、子供作る気になったか?孫が見たいんだがよ?」
「妻がはしゃぎすぎて、まず、いないですよね、ここに。」
「まあな、海もこう綺麗なのがないから、はしゃいでそのまま寝たからな。で次は王都に行こう、ダンジョン行こう。俺はお前たちに子供作って欲しくて参加したんだがよ?」
「それは妻に言ってください。でも私もこうして庶民の場所にいるほうがいいとか…貴族っぽくないですね。」
「それはあれだ、他の貴族どもに言ってやってくれ。」
エルシュウッドもリンシュメルトも、またエクトネーゼも、貴族制導入に際し、近隣の領主を取り込み”国家”となり、その領主たちを”貴族”として迎え給料を払っている。それもギルド商会
からの税金代わりの”支援金”で行っている。
「他の貴族をここに連れてくるんですか?」
「…やりたくねえな、増長するのが目に見るより明らかだ。」
「ですよね。」
はしゃいでいるうちにピーチパラソルの下で疲労困憊の顔で寝ている自分の知る勇者たちの姿を見て苦笑いしていた。




