7-夏SP17 掘り屋と見回り少女
「で、あんた…いつまでここにいるんだ?」
「ん?姿見持って行くって話したら…ここしか置けなくて。」
一応、このシオバニラ更衣室は男女兼用の”個室試着室型更衣室”だ。が、その壁に立てかけ、キラリはポーズの練習をしている。
「イツキ―。早く休み取らないと、泳げないよ。」
「そうだニャ。こっちはビールの販売がそろそろ一段落するにゃ。」
この海の家の外側の売店の管理をドルカスから押し付けられ、更衣室の管理をしているのは、イツキたちであった。が、その更衣室の通路に陣取っているのが、この男の娘のキラリだった。
「そこでいつまでやってるんだ?そろそろ帰りの客が来るぞ。で、そこでその格好でいられると男が複雑な顔するんだ。せめてよそ行って来い。またはそいつをうち預かりでいいから、預けといてくれ。」
「ちょっと今日視線が少なかったから、工夫がいるかなって思って。」
「ほら、こっち来い、こっちの壁でいいだろ?姿見の鑑なんて。」
「そうなんですけどね。あ、丁寧にお願いします。」
キラリにとって、夏の海はそれこそ”本番”である。綺麗な水着姿で、男女問わず見てもらえる、そんなご褒美と、一年練習したあざと愛いポーズの練習はそれこそ集大成であった。並ぶようにイツキが持ち込まれた鏡を抱えて…山岳同盟建設の”俺の海”の海の家の壁に立て掛ける。
「かわいい。」
「似合ってるにゃ。」
だが、もうキラリ慣れたためか、そこまでの視線はない。というのもここにきているのはドワーフ含め多くは自分の”嫁”モンスター持ちのダンマスとかチーレム構築後の勇者とかそう言う女性
がいる事が多いので、完全な独身は少なく、そう言う意味においては子供に見えるキラリは…そこまでの魅力はない。ついでに今見えるビーチの男女比は7:3で女性が多い。
「ありがとう、だけど、もう少し頑張らないと…。」
「第一どこ頑張るんだよ?」
「うーん。もう少し面積?」
「はみ出るだろ?」
「そう?」
「むしろ上とか増やしとけ。それ。」
指さしたのはミーアに頼んでもう一着現地で作ってもらった”きわどい男の娘用パレオ付きビキニ水着”という者だ。可愛い花柄模様があるが、大胆さもある”攻める”水着だ。
「え?」
「第一可愛いじゃねえだろ、痴女だぞ、それ。」
「…。」
じっと自分の水着をキラリは見つめる。前もって言っておくとキラリは男だ。
「それはデリカシーなさすぎ、イツキ。」
「そうニャ、もう少しマイルドに・・・”そのかわいらしい胸がこぼれそうで…それはもうかわいらしいですわ”とか言うニャ、」
「それ、取れそうって事だよね?」
「すいませーん。ビール5つ。」
「あいよ、銀貨25な、」
「はい。」
イツキが、水槽から冷やし缶ビールを取り出し、突然の来客に手渡す。ごみは全部ここがダンジョン扱いなので、捨ておいても。むしろDP収益となる。その為捨てておいても即障害にならない限り問題はない。勇者のお使いだろうか…。少女たちがビールを持って走り去っていった。その間キラリには視線の一つもなかった。
「うぐ…。」
「気にするなよ、むしろ泳いでこい。」
「え?泳ぐとこれ取れちゃうよ?」
「それなんか違わない?泳ぐためでしょ?」
「そうニャ、ポロリもあるよ、みんな期待してるニャ。」
「違うでしょ、これはみんなに見てもらうためにあるんだよ?」
なんとなくお互いの平行線というか、価値観の相違をお互い感じ取ってしまった。
「これ以上、踏み込むとお互い不毛になるぞ。そういやああれか、一応ラメ系に使え様なやつ、探して欲しいって依頼があって、今各地回ってるんだわ。楽園の奴からの依頼で。」
「え?光るんですか、この水着。」
「わかんねえ、今捜索してる。鉱物のサンプルデータが欲しいとかで、ブレイブ大陸の方をニャーコに掘ってもらってる。」
イツキの商売は本来”掘り屋”という者で、鉱山を掘ったりする土木系のダンマスだ。領域内なら当然ダンマスは能力で編集が可能で、様々な事ができるが、領域外だと何もできない。そこで出てくるのが掘り屋である。ダンジョン領域内に出れる掘る性質があるモンスターを眷属召喚でダグルアント(堀る専用アリ)を召喚して掘らせて工事して地質調査、鉱物調査を行うのだ。これで、鉱物を発見し加工するのがドワーフたち鍛冶師達の仕事となる。領域は頼まれたダンマスと提携して借りる事で初期投資の領域を確保し、地質調査から、トンネル工事まで行う。場合によっては坑道建設もおこなう。そんな穴掘りのスペシャリストがこの”掘り屋・イツキ”である。
「でも塩系と鉱石系が多くて、輝石系が少ないにゃ、宝石の地層まではまだ行かないにゃ。なので、もう少しかかる見込みニャ。」
「宝石付きって奴ですか?」
「どうもよ、いくつかの研究で宝石に似た原理で、”積年圧縮魔素”という石ができるんじゃないか、またはあるんじゃないかって話の依頼も多いんだが…。」
魔力を持った魔物が死ぬと当然魔石が残る。がこれだけだとそこまで大きな価値にならない。そして付与魔法ではこの加工技術というのが出てくる。その為、付与魔法の研究を行いたい、エクトネーゼでの買取が始まっていた。その中で出たのがこの”圧縮魔素”と呼ばれるものだ、宝石の多くも”積年圧縮鉱石”から生まれる。なら、同じ石の特性がある魔石にもあるんじゃないのか?という事である。ついでに宝石はごく少数が世界からとれていたが、第一回勇者召喚及び第2回勇者召喚の際にブレイブ大陸にある王家の収集した宝石の95%が消滅した。その為宝石品の確保は…。魔石に次ぐ
重要高額商品として位置づけられていた。ただ、それ以降は全て魔石にさし変わったので、魔石の消費で呼べるようになっていったが。その裏で鉱山開発に至る人材は多くなく、鉱山開発には掘り屋とか他大陸の人員がどうしても欲しいのが現状だった。
「あってもいいですけど、ダンマスが作った方が速くありません?」
「それがよ、出すと画一的になるんで、加工含め、技術もないし、って事で、どうもうまくいかないらしいんだわ。」
初期に登録された数に応じて種類が増える特性があるダンマスのDP召喚だが、元々の絶対数が足りないと。どうしても同じものでしかない。しかも原石を発見できないと宝石は見つからない。
DPで鉱山偽装するにしても”宝石鉱脈”を見つけないと鉱山さえ出来ないのだ。
「で、探してるんだけどさ、見つかったらあんたの水着とかもきれいになるだろ?」
「宝石できらきらするのより、ガラスでもよくありません?」
「そこは趣味のおやっさんが調べてるんだが、どうも必要な奴がないらしくてな、海中探すまで視野に入ってるらしいんだけど。どうも訳が分からん。」
ガラスは砂漠とか、火山の傍とか、高熱体を探せば出るかもしれないがそれを透明化するとなると、さらに…材料が欲しい、
「宝飾加工ラインまで行く純度にならんそうで。で思い出召喚からガラス製品探し出してそれを加工してるのが現状だ。」
思い出召喚にたまたまドルカスの”瓶コーラ”と”瓶ラムネ”があったため、その瓶を砕いて使用している。
「って事は…。」
「宝石以上に高いうえに秘匿性まで欲しいんだわ。あの辺。」
「うん、それは来年に期待します。まあ、ちょっと巡回行ってきます。」
「あいよ、後これ。」
イツキは栓抜きを手にして蓋を開けると、瓶コーラを突き出す。
「持ってけ、警備巡回には一本サービスだ。熱いからな、倒れるなよ?」
「ありがとうございます。」
「こうやって素直だと本当に女の子よね。」
「あれがレーザー出して、大軍薙ぎ払う上位勇者とか信じられないにゃ。」
コーラ瓶片手に歩くキラリは、ちょっと背伸びした少女にしか見えなかった。




