29-142 N&D夏・ミミック 意外とパーティの裏で事が起こる。
しばらく野菜を台所で切り、材料をサルに載せ…ダンジョンの河原に向かうとリッキー君たちがいた。そこに例のフィギュアもあった。
「というかこうなったんだけどなんかわからん?」
リッキー君と研究員さんにはシルキーが憑依しているが、私達にはないので、言っている事の半分は分からんが…話してるのは分かる。
「でも騒がしくていいですねぇ…。」
「そう?」
「ここは静かすぎて…墓守のつもりでここにいますからねぇ…。」
高林弟夫妻の奥さんが座る。
「墓守?」
「はい、上に神社があって、そこの掃除とかをしつつ暮らしてまして。その前までは兄弟である…輸送会社の社長夫人だったんですよ。」
「そうなんです?」
「ええ。あの頃は忙しいだけで、その頃に相場社長とも会ってますが…その時に・・・疲れてまして息子に会社を譲ってこっちに来たんです。資金が足りないというと、土地の一部を買って…支援してくださいまして。」
「墓守…ですか?」
「この村は平和な村でした。ですが市町村の統廃合の際に…地区に格下げされ…村は消滅しました。それが20年前ですかね。それで、この村には夫が幼いころに暮らした…小さいながらも幸せな村でしたが…周囲から隔絶された暮らしは若い人には合わず…村からどんどん人が離れていきました。」
「…。」
「そして、旦那の一族の墓も…兄夫婦の傍の家にあります。それで…まあ…私達も…ここに暮らそうと思いまして。」
「都会とかでもいいんじゃあ?」
「うーん。なんというか…なんとなくですよ、なんとなく、ここにいないといけない気がして…それでここで暮らしてまして、旦那も仕事が忙しすぎて、心を病んでいたので、ここでのゆったりした日々が…好きだそうです。今でもです。」
「暇、じゃないですかね?」
「暇より…ぼーっとできる時間の方が良いというか…そういう…ゆったりした生活の方が良いと…思ってしまうと止められませんでした。何でしょう、体が求めたというか…もうそこに…感情もないですね。それが、座りがいいという方が良いでしょうね。その時に始めて…生きてるって気がしましてね。」
「墓守のつもり…ですよね?」
「なんかかわいそうじゃないですか、誰もいない村と社が、でもそんなの他の地方に行けばたくさんあるのもわかってるんですよ。でも責めて…せめて旦那が居たいというなら添い遂げるのが…一緒に生きるって事じゃないですか?」
「深いですね。」
「そうですね。半分は感覚ですよ。なんとなくですよ。でもそのなんとなくが気持ちい時ってあると思いますよ。」
「そういうもんですかねぇ。」
「そういう…まだ若いからわからないかもしれませんが…時に止まって考えるとか、そういうのも必要ですよ。」
「…勉強になります。」
私はきっと半分も理解できていないと思うけど。けど、この奥さんが幸せに生きてるって事だけは…分かったつもりだ。




