29-105 N&D1・山奥ダンジョン奮闘記 フクロウのセールスマン
で、私の方にはある打診が来た。それは次の日の朝の事だ。
「方向と方角がある物が分かればダンジョンの位置を変更できる。どうだ、やってみないか?」
という物だった。で、ここからもっと微妙な話を聞いた。それが…ダンジョンの作り方はいろいろある。エルマさんの方法は一番コストが安い”現実型”と呼ばれるもので、実際に掘って作るダンジョンだ。んで、ダンジョンは穴さえ掘ることができれば拡張できる。…どうも色々パターンがあって、異世界物で有名な”草原”があるタイプだと、それが使えない代わり、必要な土地はドアの部分だけという無茶苦茶土地コストが低い物らしい。で、どこからどこまでがダンジョンなのかという哲学的問題が、拡張時点で起きる。…んでこれは”ダンジョンが決めて、維持コストを払った範囲全部”だ。なんだけどどうも二つの欠点があるらしい。一つはダンジョンを認証させ、ダンジョンのギミックを使うためにはダンジョンに”ここがダンジョンだよ”と認識させないといけないらしい。当然規則もあり、そしてそれに合う範囲ならOK。で、例のパイプ法についてオウルさんから聞いたらしい。ダンジョンが認識できて”空気や魔素が交換できる”状態なら通路の大きさは自由になる。1cmとかのほっそいのでもOKだがその1㎝が途切れれば当然”コアルーム”から遠い方はダンジョン認証から離れてしまう。が、利点も多い。そう…1㎝×1㎝の隙間があればその長さを拡張する事でダンジョンを別の場所に作れるという。そこでどうにかしてこの場所以外に本体を呼んで、そこを公開させれば…自衛隊が来てもボスを倒すだけが目的なら、これで回避できるという。そしてそのダンジョンの場所をここから一時間かかる村にしてしまえばはっきり言ってここは超安全となる。という事だ。オウルさんもこの方法で元々向島ダンジョンを再建予定だったらしい。
「ふーん。ガチきついと思うよ。」
「何でだ?」
「だって、穴掘るって結構方向狂うよ。しかも…岩盤の位置が分からないから、途中で泊まる可能性も高いんだよ。それも含め時美さんに相談したほうがいいよ。でももしかして…。」
「ああ、コストの関係でゴブリンのいる4Fは封鎖したい。って事だ。それに前の聞き取りで、味が微妙だというウサギ肉の放出もかなり奮発したんだが、だめだった。そして人数も増えないなら、ウサギ肉はちょっとコストがかかるんだ。それに銀貨、金貨の開発の件ができればそっちに一本化予定なうえにゴブリンまで来るおじいちゃんとかいないだろ?」
そうなんだ。老人4人組は時々というか、二日に一回は来てはここでハンティングを楽しむが、ウサギ肉は苦手なようだった。どうもあんまりうまくないらしく、人気が無い。初のドロップって事で私も使いたいと努力したけど使い道が思いつかず、ウサギ肉はドロップしない方がいいと思っている。
「ボスもガチでいなくなるの?」
「そのつもりだ。あれはちょっとコストが高くてな。増収が見込めるなら考えるが今の人数だと6つ出すと赤字になる。」
「あ、うん。止めれないわ。それは。」
「ただ、西川さんのレベルの件もあるからオウルさんと相談してモンスター購入の話もしている。が、値段で折り合いがつかないんだ。」
「そうなんだ。」
オウルさんって、ダンジョンマスター的には建物やモンスターを売る業者さんみたいな人で基本この人からダンジョンを買って設置するんだそうだ。
「入りますよー。寒いからなー。」
大沢さんたちがお昼休憩で入ってくると、ダンジョンの話をかいつまんで話した。
「それでいいと思うけど、時美さんは偉い人だからな。…容認はすると思うが、ここだと拡張性ないのか?」
「もっと人が…せめて入場者1000人いかないと拡張を簡単に買う事が出来ないんだ。君たちのために尽くすとしても元手無しではダメなのがダンジョンなんだ。」
苦々しい顔をするが、
「これ、お隣さんから貰って来た野菜の煮物とフキノトウの漬物ですよ。」
「感謝する。」
すっかり村の一因という感じだが、それはリッキー君も大沢さんも一緒だ。ただし時美さんへの連絡含めどうも時美さんの立場的に動けないのかな?
「でもな。きついんだぜ。国に隠しながらのダンジョンだからな。」
「わかってる。がすまない、こっちも死活問題なんだ。」
「でも近場のダンジョンでしょ。欲しいと思いますよ、こんな山奥よりはいい生活できますよ。ここだと…たとえダンジョン発見の報告があっても、来る人少なそうですしね。」
「だからだな。でもまあ…何とかならんかな。」
「ホッホッホ。儂もいっぱいくれんかのぉ。焦らん方がええ。」
奥からオウルさんも歩いて来ていた。せっかくなので…と思ったらオウルさんはいつの間にか器を用意して、マイ橋まで持っていた。
「ゴースト系は外に出ただけで消滅するかのぉ。出せんのもある。だからの。焦らん方がええ。」
「ここだと贅沢できませんし。どうします?」
「わしもMPの回復が終わり次第、地図の作成と後18か所のダンジョンを回りたいがのぉ。ただ…発見は難しいのぉ。」
「そうですか。」
「向こうから連絡があって、行ける環境なら別じゃがのぉ。ダンジョンを隠したままだと…いずれ破産しうる。そこをどうするかじゃのぉ。」
「そう言えばポーションとか回復魔法とか手がないんですか?」
その言葉にエルマさんははっとした顔をしたが…オウルさんは首を振った。
「ダンジョン外に出ると効果が霧散してただの水になる。今日の朝に実験してのぉ。で、霧散した後は戻しても普通の水じゃった。このダンジョンから出さないなら…効果はあるのは確認したがのぉ。」
「あるんですか!」
「あれは高いんだよ。しかも…」
「過回復の障害まである。健康体が飲めば毒になるんじゃ。」
「あ、これ見つからない奴だ、ガチで。」
これダンジョンに夢なさすぎじゃない?




