29-89 N&D1・山奥ダンジョン奮闘記 モンスターがいるほうがずっとまし
それから一時間歩くけど…はっきり言ってマップだともう、3周は回った。阻止Þ、私と時美さんはある地点までつくと、手を挙げ、休憩する事にした。
「これ、確かに凶悪ですな。ダンジョンが何もしない。何もしない事態がトラップとは考えませんでした。たとえ食事があっても…何やってもいずれ気が狂うでしょうね。」
女性陣二人はもはや抱き合い泣いていた。声が聞こえてくる。
「これは大方こっちが全員気絶するか寝るまで待つのだろうな。…はっきり言ってアニメみたいにモンスターが襲って来てくれた方が100倍嬉しいとか考えたこともないな。」
「私も大阪、福岡の両方を調べたがこんなのは初めてだ。」
座っている全員の絶望は半端なかった。
「でしょうね、さて…私もできる手を尽くしたいと思いますが…皆さんにはまず、一筆貰いたい。」
時美さんが唐突にメモ帳とペンを取り出した。
「何です?急に?」
「全員、ここで起きたことに守秘義務を確認したいんです。政府にも…です。」
「なんかあるのか?」
「このままで死ぬかダンジョンから出られないか…2択でしょうね。死ぬよりはましですが、私も外に出たら死ぬという状況になりたくないので。最悪でも…民事で頂けるものは頂きたい。そう言うわけです。」
言っている意味は分かる。たとえここで違法な事ををして脱出して、それが外にばれたからと言って…念書を書かせる行為は”違法行為”には意味をなさない。例えば強盗とかをさせる念書は法的拘束力はない。
が、約束を破ったことを訴え、被害を請求する”民事訴訟”にはできる。という意味での行為だ。そして、全員頷くと念書を書き始める。
「これでいいのかね。何か切り札を、自衛隊に隠してもって来たのか?あのダンジョン庁が?」
「ダンジョン庁ではないですが。」
時美さんはカバンから箱を取り出すと、その5番目のスイッチを押した。
「*******************************、*********************。」
そこから聞こえる耳障りな音に時美さん以外が耳をふさぐ。
『*************、*********、***************。(確認したいことがある、ままっすぐ進んで、しばらく先に人を置く。)』
天井から急に声がした。わたしはこっそりスマホの翻訳機能で解析していた。
「は?」
そして、時美さんと私は立ち上がって…通路の先に向かう。慌てて休憩に座った研究員たちが立ち上がると…いやこれは想像していなかったぞ。
「****、******。」
そこには半透明の体を持つメイドが立っていた。メイドと言っていい。そう言う外見だ。エルマさん含め中世ファンタジーだと思っていたが、急に貴族チックだぞ。ただ、構わないという感じで時美さんは懐から手紙を渡す。それを受け取ると…真剣に読み始める。
「どういう事だ?時美さん。場合によっては。」
ダンジョン学の教授だと思うオッサンが声を抑えつつも時美さんを睨んでいた。
「今生き残るかどうかの瀬戸際ですよ、こっちをあいつらはいつでも殺すことができる。この状態で生きるためには今こうしてこれにすがるしかないんです。」
そして、シルキーはこっちを見て、手を広げ、待機するようにポーズだけを取るとそのまま…通路の先に消えていった。あの人が
「どういう事だ?これは?」
「ダンジョン庁の秘密兵器と言ってもいいんです、これは自衛隊相手でも公開してはいけない…モノなんですこれは。」
そう言って改めて箱を取り出す。
「これは?」
「言語ボックスと私たちが呼んでいるもので、これには5つの言葉が発音されるだけの箱です。」
「は?」
そこから、思いっきり時美さんが誤魔化し混ぜつつ説明した。
「という事はこれが、ダンジョン側が使う言語が発音されると思われる箱か。それで反応待ちか。」
「言語学の解析ができればいろいろ分かりますね。」
いやあ、もうやってるんだな。これが。




