29-86 N&D1・山奥ダンジョン奮闘記 向島へ
検証終了後、私と時美さんは久々の相場ケミカルに向かい研究員の…
「新人社員の近江と申します。」
「一応相場ケミカルの今回の責任者で美香原という物だ。よろしく。」
渋いオッサンの、実は結構なじみ深い”コーヒーおじさん”と後見た事無い女児社員だ。この会社に女史は私含め4人しかいないので、肩身が狭かった。だから。
「私が西川だから、よろしく、ほんと、会社で近江さんは貴重な人材だから、頑張ろうね。」
両手で握手をしても文句は言わないはずだ。そして、私達はまず会社に入ると事情を説明された。かわいそうだが…今回の件を全部知っているのは私と時美さんだけだ。二人はダンジョンの調査の際に”信用できる人間であり、且つ物質科学の知識を持つ人間”としての人材というだけだ。二人はカバン一杯に試験薬と調査危惧、測定用パソコンを持って行くつもりだ。
「でもダンジョン調査ですか。凄いですね。私達でいいんですか?ラボの人間とか」
「いや、これ、厄案件じゃねえのか?向島ってあれだろ、唯一残ったダンジョンだろ?」
「私にはちょっとわからないですけどね。」
ぼろは出すまい。
「ああ、だからだよ、向島ダンジョンでは自衛隊は攻略に失敗している。だから研究者の多くは入りたがらなかったんだ。私も自宅待機で””亡くしていい人材”だから駒で使われると思ってる。」
時美さんの身もふたもない発言に、いきなり場はお通夜みたいになった。
「そんなところに行くんですか?」
「一応ダンジョンを調べたい大学のラボの連中も数名参加する。向こうの官僚含め、私以外地方官僚の下っ端一人こないよ。」
「何でです?」
「例のダンジョンの政治案件で、ダンジョンに官僚が関係すると、首を切られるか殺されると思っている職員が多くて誰もダンジョン調査の責任者にならなかった。そう言う事だ。」
今回は私達4人はワゴンに載せられ…社の車で移動している。
「んで、警備会社もどうも防衛省でどこの派閥がとるのかとかその辺が固まってなくて、しかも下手すれば死亡だろ?行方不明が一回出て以来誰も派遣したがらなかった、特に上がだ。」
ちょっとこれを聞くと、私達に死ねと言っている内容だと分かる。
「じゃあ、私達は死ぬんですか?」
「最低でも隊員行方不明の謎が解けない限り、二次遭難を恐れて救援も来ないぞ。」
それはひどすぎるな…本当に。そして、最寄りの新幹線駅から電車で現場まで来ると、そこからは迎えの車が来てそのまま現場まで送られた。向島ダンジョンは川の傍にありそれでいて道路のすぐ近くという立地だった。
そこに…これダンジョンと言われても気が付かない造詣の入り口で、どう見ても東京のある地下道を模したものだ。そこにいたのは天幕と簡易バリケードに包まれたダンジョンで、
「ふむ…あなた方が…ふむ…。」
「あなたは?」
「元ダンジョン庁長官で、現在は内閣官房室参与の柳田だ。よろしく。」
柳田長官がいた。実は訓示の際に見た事がある。意外ときっちりポマードを付けたオールバックて、見た目からしてカチカチの官僚形で防衛省のそれなりのお偉いさんだった人だ。が防衛省は意外にも陸海空で仲があまり
良くない。その派閥争いでダンジョンに関しても仲が悪いのだ。特に独占したい陸と少しでも利権に絡みたい海が今回やり合ってる形だ。
「…新川君。君の連れてきた調査印可。危険地域だからな。後こっちは東京大学ダンジョン調査チームのメンバー3名だ。」
「よろしくお願いします。」
こういう時に大学の調査員が来るのは普通だが、思ったよりビックネームだな。
「じゃあ頼むよ。今回は、ダンジョン庁復活に弾みが付けれるか、大事だからね。」
「は、はい!」
柳田さんはそう言うと、呆れた顔をしつつ私達の元を去っていった。今回の監督官なんだろう。
(ちょっと待て、何だあの二人の職業は!?見た事無いぞ、どうする?)
そう、ヤナギダは呟いたとか、呟いていなかったとか…。]]




