29-72 N&D1・山奥ダンジョン奮闘記 水が美味い
それからしばらくして食事を作り終えた頃、時美さんが帰ってきた。
「…共有に来た。高林兄弟夫妻はダンジョンを一度潜ってみてから、土地の売買の話をする。」
「どういうことです?」
「…どうも、高林兄は資産家でそれなりの金を持っていてこの村の空き地の土地を全部買い取ったらしい。かなり安く。こんな遠い上にほぼ人通りのない山間部の土地だから少しでも金を持って出したいからって
農作物のお金で買ったらしい。ついでに土地交渉も済ませて来て向こうの山とこっちの山と二つ分の土地をこっちのケミカルが買って周囲の動物がどうなってるか確認したいんだと。」
一気にしゃべると
「これは?」
「ああ、みそ汁と米です。あと野菜炒め。」
「貰うわ。」
そう言うと、さっと食卓に座り、軽く手を合わせた後、掻き込むように食べていた。
「…旨い。」
「ここは水が良いからですね。」
「…そうか、やっぱりここだと開拓は好まないな。」
「どういう事です?」
「高林夫妻からこの辺の開拓は最低限度にしてほしいと言われてね。できれば人に知らせない方がいい。どうもこの閑静なのが好きで住んでるから。」
「分かる気がします。」
「そなの?西川ちゃん。」
私の分のご飯とみそ汁をよそうと自分も食卓に座る。
「ここにきて、このきれいな空で…よく寝れるんですよ。夜が暗くて。」
「ああ。」
ちょうど空は夕暮れで、徐々に暗くなってきていた。
「音も無くて、そして暗くて。都会、私の所は電灯で明るくて、それだけで練れない時がありまして。」
「繊細だな。」
「と思います。ガチで寝れなくて、虫の音も少なくて…夜、只布団で寝ているだけで色々瞑想しちゃうほどでして。」
「似合わねぇな。」
「…いいね。」
時美さんがつい漏らしたようにボソッと言った。それになんか引っかかりを覚えながらもしゃべった。
「だからこっちに来て3年。地味にいい生活してますよ。」
「俺も、確かに寝れるのはいいな。眠り浅いって感じる時あるからな。」
「…そうよね。」
なんか、時美さんの声が地味に漏らすようだった。
「いいなぁ。」
「いつか引退しても大丈夫ですよ。きっと、」
「まあね。でも今は働かないと、ここも変にぐちゃぐちゃになっちゃう。」




