29-10 N&D1・山奥ダンジョン奮闘記 それでも敵は敵
スライムは顔はついているものの、こっちが真後ろ歩いていても、気が付くようするは何かった。跳ね方もその体の揺れもなんか、可愛いマスコットみたいだった。
「いや本気で、これ上げて…あ、不味いわ。というかこっちに来てからダチいないんだよね。」
山奥転勤3年にもなると、今まで付き合っていた連中ともメールやSNSでの返信もあるが、そこまでが限界ですっかり付き合いもなくなった。時々ダチの結婚メールに返信して、自分が家で地団太踏むだけだ。
「殴りたくないわー。」
そう思いながら追走すると見える先では行き止まりになっていた。その時スライムが、壁を使ってバウンドしてこっちに向きを変えた。…あ。
「マジちょっと待ってガチで。」
こっちを見たスライムは露骨に敵を見る表情に変わった。たとえかわいい姿だろうがモンスターはモンスターだった。
「スライムちゃん、落ち着いて。ガチで。」
ただ、それでも考えに甘えはあったんだと思う。がそれを無視して私にジャンプからの体当たりをした。そしてそれはちょうど私の股間を直撃した。柔らかかいものの、股間に当たった一撃は膝をつかせるに十分だったが。その衝撃は相手も受けていた。
「キァァァァァァァぁぁぁあああ!」
ついあらん限りの大声を上げてしまった。殴られたことのない事務員だから。混乱してた。手に持ったスコップを一心不乱にガンガンたたきつけ思いっきり暴れた。暴れた。覚えてないほど暴れた。気が付いた時にはスライムの死体は無かった。
『西川芳香はレベルアップしました。レベル2となり、スキル”粘り腰”を得ました。職業”相撲取り”を手に入れました。』
「あ?何?ガチで何?」
『干渉レベル4を発動。通信機器を発見しました。レペティアルソーシャルインジケーターを発動。ソーシャルネットワークアクセスに基づき、アプリをインストールしました。ステータスはそちらからご覧ください。』
なんかよく分からんけど、レベルが上がったっぽい。がなんか、跳ねる音が聞こえてくる、あの凶悪スライムまだ来るんか。とっとと逃げないととガチで怖い。
一気に走って外に出ると、暑い夏の熱気が体を包むが、それを無視して入り口で倒れた。
「あーマジで怖かった。名にあの可愛い物体!急に来るとか思わんかった。ガチで怖かったわ。」
初めてのダンジョンは怖かった。ガチで怖かった。
「でもガチでレベルアップか、でもレベル2ぐらいだと何にも感じないんだって。ま、帰るか。明日は4時に取引先来るから。」
まあ近くの鉄板に鉄の棒で簡単に補強した蓋をして隠すと、そのまま出てきた。ここに社長の住んでいた2階の宿舎もあるけど、今は行きたくない。何もなさそう。そのまま電動自転車に乗って帰ることにした。
いやこんなところで車使ってたらあっという間にガソリン無くなって、町に買い出し行けないよ。家には太陽光バッテリーもつけてある。道が遮断されるだけじゃなくて電線キレたら最後ここだと3か月は直されなさそうだからね。
「でも帰ろ。」
普通にそのまま帰りました。




