6-39 会議の間食はティータイムで
教授は僕と一緒に椅子に座り、そしてこの狭い兵士詰め所で…。
「ここで優雅のお茶をするとは訓練で送り出した彼らに申し訳ないと思わないのかね?」
「領域内に入れば閉じ込める。が、僕が抜ければこの壁はなくなる、だから動けないんだ。だから、せっかくだから、”神の牛乳入りクッキー”でも食べて、付き合ってよ。」
「ふん、あまりに狡猾…やはり見立てに間違いはなかったな。」
単純に僕が仕掛けた作戦は”囮”だった。簡単な釣り針でも数人割るに十分。絶対的自信があればこそ。それは奢りとなる。まあ、ここまで短絡的に事を起こすと思わなかったが
「南君には暇つぶしのレベリングとしてか…。」
「うん、どうせ夕方まで、行ってもらう予定だった。タイミングもほぼ今しかない、ただ、ここで外した時の為に2枚目用意してた。」
そう、階段の途中に魔界チケットを使ったのだ。そして、今、南とナッツたちは僕が魔界に作った。レベル8エリア”天空の浮遊島”に行ってもらってる。これ、隔離エリアらしく
空はレベル6まで、天井が上がり、その分大地が減るという現象が起きる。これは空に関係するすべてのエリアで適応される。そして7,8に限り…チェックしてみたらちょこっとだけ天空に島があったのだ。そこで確信した。ここにボスである”やつ”がいる。設計したとおりに・・。
「そうなのか?用心な事だ。」
そいては位置を変更、7と8を隣接させ、一つの大きな”浮遊島”にしたのだ。ついでに魔界は”中間地”のルールで8がある時7の森+空、山+空、集落+空、川+空が発生する。そのパネルを隣接、一つの浮遊島を完成させた。小さいけどね。これは移動する性質があり空を流れる。あとは彼らに、生態調査を依頼しておいた。どうも、教授に任せ、ちらっと見たら、森と山と村があり川がある、小さな浮遊島があった。ついでにあとで、集落だけ外して再編集すれば、魔界内に隠れ家ができる。そして確認後僕は、入り口を守るべく、教授とお茶会してるわけだ、つまみはハーリスから送られてくる”王たち”の音声付き映像だ。まあ、自分も確かにエルフに”人間の味方を”とは言ったが、この手に出るとは思わなかった。おかげさまで、本来はレベル8モンスターの眷属化に向かうはずが、ここで夕方まで待機しないといけない。但し、ドアは壁で埋め立て、この詰め所は理論上誰も入れない。窓はあるから、外側からなら入れるが、それに気が付くにどこまでかかるんだろう。
「魔界で動きが。リューネ、ケイ、エレノア、コクヨウがナッツ様の所に向かっております、このスピードだと到着は向こうで4日目。」
「少し引き付けて、スライドさせて、そこから回収するよ。」
「了解しました。」
僕だって、お姉ちゃんたちと戦いたいわけではない。そこで。このチケットを使って”魔界探索”組と”地上戦闘組”を分ける算段をつけたのだ。そして、魔界は当然レベル8が絡む。なら当然最大戦力で行く。とみていた。なので、その戦力を”削ぐ”のを目的としていたのだ。ただ、戦争の具合から言って、戦闘はしないといけないだろう。だから、数時間で、南は帰るように指示していある。せめて一時間前に帰らないと向こうが暇したら、何が起こるかわからない。そして、魔界にはジオフロントならではのルールがある。パネルの配置変換は敵がいない限り可能なうえに…。気が付かれない。これは前に入ってもらった時にこっそり確認してある。これを使い、レベル8のエリアを編集で逃走させる。
「思ったより釣れたな…。」
「本当に、ナオを敵に回すって事が怖くなったよ。あたいは気が付いてよかった。」
ついでとおまけでヨミにもここに来てもらっている、狭いが…。
「これ位なら普通だよ。まだ、みんなには平和的に帰って欲しいしね…。」
「まあ、仕掛けは単純。だからこそ引っ掛かりやすい。手が少なく見えるからな…。用兵の基礎だな。」
「そうなのか?」
「あまり詳しくないようだね。地球における人間の歴史はすなわち”騙しあい”の歴史よ。3000年、いやもっと長い年月戦争しあい、騙し合い続けた。その中でも生きていくというのはそれだけでも過酷で、それでいて、才能を要する。戦略、戦術。その多くはその騙し合いの上に立つ。」
そう言うと、カップのコーヒーを一口飲む。本当にこの人は優雅にコーヒーを飲む。これを見る感じ”教授”である。
「服も、そうだね…女性の服はいかに”優秀な男を得る”という目的で、地球の服は雄に繁殖を迫るのだよ。狡猾にね。」
「そういう物なのかい・・・。」
「こう優雅に話していると、壁向こうで必死に探してる連中が可愛そうだが…。」
「ついでに、ここで戦闘可能人数を削るつもりです。本当はキラリには来て欲しくなかったけど。」
「まあな、私も心苦しい。がふと思った。この調子なら今日中に終わらないか?そこで、浮遊島観光のついでにバーベキューはいかがかね。そこの写真をコアにとってもらい、チケットの宣伝をすると射幸心をあおれないかね?」
流石に、この辺はこの人はやはりS級なのだろう、この状態になってさえ精神的な揺らぎが少ない。
「いいですね。浮遊のバーベキューですか。ただ、別荘作るには都市のパネル放置しないといけないので、住民に会話しないといけないんですけどね…。」
「現在、王とギルマスが、焦ってますね…、南がいないと。で、砦中探してますね…。」
「じゃあ、南ちゃん戻して来てくれない?」
「ハーリス5に行かせます。」
「了解。」
そう言うと、耳元のアクセサリーからぼさぼさ頭のハーリスが出てきて、そのまま階段を下りていく。そこがチケットの効果による階段が存在している、ついでにこれ、物を移動させるオブジェクト移動で自分のダンジョンならどこでも移動できる。で、これ、チケットごとに一枚”出入り口”を設置するため。これを使ったテレポートも可能だ。まあ、裏技として取っておいた奴である。
「あたいはどうする?」
「もう少し護衛頼むかな。大方、来なかったメンバー。すなわち”ミーア”が来る。」
実は僕がほぼダンジョンマスターレベル10であるがそれ以外はネルの9以下が最大で二つ目のドアは使えない。となるとリーメとネルという”ダンマス”は動けない。配置換えは配下モンスターしか使えない。しかも”時間変更”されてる区間には”同じ”空間に入らないと指示できないので事実上ダンジョンに行く以外の選択肢はないダンジョン領域での制限は意外と多いのだ。となると使えるのは、七海…の部下だが、来ても大方勇者以下しかいないとみてる。七海自身はもっと来ない。となると、残った幹部は”ミーア”しかいない。実は戦闘力も高く、強いはずなのだが、戦うのをとことん嫌う、後で二人とも強化しよう、マジで。
「いや、ミーアは来ないと思う。この状態だと全幹部が動けなくなった。本来はコクヨウがリーメと、ネルを運ぶつもりで置いてあったと思う。最近わき目も降らない感じで開発してるからな…。
あいつなりに、責任は感じてるのだろうよ。」
「確かに、ありうる。」
とすると、増員なしか…あったとして、近くのエルシュウッドから飛んで来る勇者だが情報なしで動けまい…いや動けたとしても、封鎖する。
「でも、私が思うにカラムの奴、あのステータスみて喧嘩売るほど馬鹿じゃないはずなんだけどな?」
ヨミが複雑そうに王たちを見つめる、彼らは今、城門に向かっている、そこには当然トレント兵を送り込んである。
「その辺はよく分からない。というか、なんでその判断になった?」
そうなんだよな、訓練もしてあるから、強いやつには逃げろくらい入ったと思うし、僕の知識もある程度入ってるはずだ。
「クックック、もう少し学びたまえ、あれは南君狙いだけではないのだよ。」
「ん?」
「あれは結構いい手なんだぞ、ただし、胸糞悪いがね。」
教授は煙草を吹かす。少年だよね?
「なんで?」
「あれは南君をやるのはやれれば御の字、本当の狙いは勇者だ。大方ステータスを見て勇者が束になっても勝てないと思ったのだろう、が、かといって、今勇者をこの数放置すれば”暴動”で
自分が死にかねない。南君相手に”ごり押し”もできないなら…飲むしかない。この城壁相手だ。門閉めて立ってるだけで相手が終わる。なら…いらない勇者をここで処分してもらい、それを利用して国民世論を操る。って所かな…。逃げれるのならね。」
確かに払いきれないなら、ここで処分すれば”なかったこと”にできる、それ込みの手か、なおさら勇者を殺すわけにいかない。が言っては悪いが、これはまずい、どうする…。
「すまない、あたいに任せてもらえないか?あまりこういう仕事は嫌いでハーリスに頼んでいたんだ。それに今では少しは強くなってると思う。」
ヨミの顔は真剣だ。…そういえば、ヨミにはこういう仕事はさせてこなかった。
「行って来てくれ、できれば南ちゃんに襲うかどうかで判別、生存者はこっちに来るか聞くでいいかな?」
「分かった。」
そう言うとヨミは”南”の姿になった。そして、そのまま壁を抜けていった。
「ふと思ったのだが…もしかして…あの変形って奴は…。」
ヨミを見送ってはいたが、その眼は…唖然とした感じだ。
「そう、相手のステータスも真似る。どんな相手にステータスがあろうが元々は関係ない。相手より経験で勝る魔王軍のほうが強い。そして、あれは経験も記憶も真似る。しかも足せる。」
「それはまあ、元々君が安心してここにいるわけだ。大駒がうじゃうじゃいるのだ。相手がどれだけ強かろうが関係ないっていう手がね。むしろ強い勇者でもいてくれた方がよいという、まだまだ君の手には驚かされるな…。」
但し変形では”称号”関連のスキルとステータス補正は使えない。
「これも本来は、ダンマスに欲しい能力ですよ。そして、ここから先は大方、きついですよ…。」
これは、僕の罪でもある…。




