27-6 あえて普通の勇者の学校編 ある物語の終焉
東の公爵家のトップであるキンジャール・アドミラーレは慌てていた。最悪自分に討伐が来る可能性が出てきたのだ。勇者を取り込み王家に独立する。それも計画に入っていた。がその切り札を殺そうとした?ギルド経由で息子であるミゲルにメールを置くとこう返ってきた。
『父上、ホワルカナンから正式な抗議として、貴族への敬意を払うようにしてください。このリンシュメルトの衛兵は敬意がなく、我が命令に逆らう物ばかりです。』
『ミゲル、貴様勇者を殺そうとしたのは本当か?現在本国は騒乱の危機にある。』
『不明です。勇者とやらはだれか知りませんが、出頭命令を出して、命令すればいいのです。』
このメールの返答を受けたキンジャールは頭を抱えた。こいつ、何もわかっていないのだ。
『私が頼み込んで、ミゲルの為に勇者を学園に行かせたんだぞ!?それを何で改めて命令するのだ?』
ミゲルを他王家と親しくさせる事で、独立した時に援助を受けれる相手を増やす”遠交近攻”と、勇者確保による権威つけの為にミゲルを学園に送ったはずだ。その説明もしたはずだ。
『あんな学園、無礼な少年が私を貴族と知らずこちらを見てきたので、恥知らずです。なので恥知らずである学校に行かせるくらいなら、勇者とやらを命令し、私たちの物にすればいいのです。』
流石に、キンジャールの頭痛が加速し、常備薬のポーションをあおった。他の公爵家の手前、それはできないのだ。が
『少し待て、その無礼な少年とは何だ?何があった?』
『おお、父よ、父からも命令してください。私が登校している最中に私の方を見た無礼な子供です。そんな子供は貴族に敬意が足りません。だから見せしめに殺そうと思います。』
…見せしめに歩いている子供を見つけて殺そうとしたのか、我が息子は。がちょっと待て。その子もしかして、勇者リンベルトでは?最悪だ。証拠どころか完全に一致してる。
『民を無碍に殺すなと教わらなかったのか?単に見ただけで殺すなぞ、貴族の風上にも置けんぞ。』
『あそこは他国です、連中は民ではありません。だから殺していいのです。むしろ殺して権威を示さねばアドミラーレ家は侮られるでしょう、今衛兵に囚われ全員牢獄にいます。できれば保釈だけでも。』
そこだけ気が付いて、人を殺そうとするな。
『その子供が、わが国が見つけた勇者の可能性がある。その為私に今国家反逆罪の疑いがかかっている。我が国の指名した勇者を殺そうとした不届き者としてな。』
『あんな子供に頼る国が脆弱なのです。その子の名前は知りませんが、子供一人に恐れる国ならむしろ反逆したほうがいいのでは?そんな子供よりお父様、まずは私の釈放を。』
流石に、目頭が熱くなり、情けなくて涙が出てきた。勇者は…その子供はいつでもお前を殺せたんだ。それくらいの力があるんだ。それも気が付いていないのか?もはや庇えないと判断するしか無かった。
「すまない、リベリーエ城(東の公爵の居城)にいる妃に連絡せよ、ミゲルは廃嫡する。しなければ家の断絶の可能性があると。いや、一家断絶もあるとして動けと連絡せよ。」
「はっ。」
「後ギラアナ侯爵を除き、本国に帰って戦の準備をせよ。最悪は攻められると思え。我ら東国騎士の意地を見せよ。」「
「どういう事ですか!」
「我が息子ミゲルは、通りがかりに勇者を見つけ、名も聞かぬまま殺そうとしたらしい。知らぬからだと言えばそうだが、我が国の勇者の顔を我が国の貴族が知らんとか言い訳にもならん。そうなると、かばいきれん。しかももう牢獄に捕えられている。すまないなギラアナ侯。お主の娘にも迷惑をかける。」
少し太った感じの目付きの鋭いちょび髭のおじさんでもあるギラアナ侯が深く首を垂れる。キンジャールにとってギラアナ侯は戦友であり、右腕でもある。だからこそ、その娘を自分の息子と結婚させる話に迄こぎつけた。
「ここで王妃も打ち取るのはだめでございますか?」
それしか逆転の目がないのも事実だ。だが…。
「…打ち取ったところで戦況は変わらぬ。いや、手腕的にはあの女狐を生かして人族のために働かせたい。扉の向こうの他国から増援を呼ぶ力…あれは確かににっくき大森林攻略に欲しい。ギラアナ侯も違えてはならない。大切なのは人の勝利だ。今討ったところで、利するはあの山猿のみよ。」
「分かりましてございます。出過ぎたマネを。」
「…いましばらくはこれで動けないのは確定だ。が、ミゲルの奴、あそこまで愚かか。」
そう、図らずとも…ホワルカナン国分裂の危機がこうして終わりを迎えることになったのだ。




