26-110 普通のダンマス お忍びの交渉
『ようこそいらっしゃいました。』
「…こんなところでいいのか?」
豆腐ハウスに入ったのは狩りに出た公爵と、お付きの者一名である。場所も例の豆腐ハウスである。周囲が林の為、騎馬やゴーレムは入れない。大軍の行使が不可能な位置を指定した。そこにスコーブが…二人を連れて行った。ただ、俺が出るわけにはいかない、そこで、コアのマギアに頼んで、こちらの声を館内放送で届けてもらい、交渉を行う。
『ええ、ここもダンジョンの一角です。わが名は、ダンジョンの主”マギア”。ただあなた方の名前は分かりません。ここは…名乗りを上げるのが正解でしょう。』
「どこから声が…。」
「落ち着いて。きっとどこかに隠れています。」
公爵が手で、従者を鎮めるが、その顔に焦りがあった。そりゃあ、館内放送機能なんで、文明で言えば相当進んだ機能だ。
「…我が名はオルレッセン・へヴェール伯爵。こちらは…。」
その言葉に従者は首を横に振る。
「…従者だ。私がこの度交渉に来た。ダンジョンの主よ、できれば姿を見せて交渉を行って欲しい。」
『ふむ、私はあなたが私に会いたいと聞きました。私とあなたには信頼関係はありません。私を殺してダンジョンを消したい…という可能性が高いと思います。なので、』
「そう言うつもりはない。お互い平等なテーブルに立って交渉したい。」
『ならば、交渉は無かった事にしましょう。信頼関係が無いのに前に出れば私はあなたに殺される可能性が否定できません。それにひと時の平等であるために命を懸けるなら、私は不平等を選びましょう。』
ステイ、ステイだよマギア。ここで交渉切ったら不味いって。
「…すまない。交渉を続けよう、機嫌を損ねるつもりはない。私としてはダンジョンとやらの主が…我が国にいるのなら、ぜひとも多少なりとも協力して欲しい。と思って。交渉したい。」
『…多少とは?』
「できれば、ダンジョンの全権限の委譲。及び、収益の全提供を求める。死にたくないのだろう?」
急に侯爵の交渉の間を縫うように従者が声をあげる。従者がどや顔ムーブで言うが…。死ぬのか、あの程度で?
『それは私に死ねと?』
慌てて、公爵が従者を睨む。だから…いやいいか、ちょっとあいつらを。
「そう言うつもりはない。だが、ゴブリンという最大の手先を滅ぼしたのだ。…君たちの命を私たちが…。」
俺は何となく派兵した理由が分かった。こちらがいる…と思ったのだろうが、ただ普通に負けた状態で交渉しても意味がない。だから勝ちを拾った状態で交渉して譲歩を引き出す積りだろう。スコーブも顔が苦い。
「おっと、オルのダンナ。そいつは違う。俺が知っている限り、ゴブリンは一番の下っ端だ。外に出てみるといい。あいつらの部下のうち、二人がいるぞ。」
窓から見えるのは…緑色の節のついた2本の柱のようだった。慌てて公爵たちが外に出ると、そこにいたのは鉄の鎧を着た巨体のオーガ2体だ。
「うが。」
「マスターに聞いた愚か者とはお前か?」
その巨体に公爵が剣に手をかける。
「抜かん方がええ。第一、そんなちんけな刃物、傷はつけれても、相手は死にはせん。」
「俺も最初、あいつを見つけた時に考えたさ。制圧をな。だけど部下が強すぎる。それで共存の道に変えたんだ。こんな奴が暴れれば、あっちも死ぬかもしれんが俺達は全滅だ。だろ?」
「オル卿、話が違うぞ。」
「王よ、すまない。私もここまでとは。」
「改めて聞こう、…公爵よ、協力してくれるよな。」
どうも王様がいるらしい。これは好都合だ。だが、要求と言い。よっぽど愚か…だと思った。大方、ある程度はあのネルさんから聞いていたのだろう。そのための時間稼ぎと相手を全滅させることで、”威を示した”つもりだったんだろう、こちらとしては早くお帰り願うために雑魚だけ用意して、しかも死なないように調整までしてあった。が相手はそれに気が付かなかったわけだ。
「う…。」
状況は、すまないが、こちらにとことん有利だ。軍隊が入りにくい森であること。そして、そこにいるのが幹部のオーガ2体だって事。まあ、あの最悪な事をする王様だもの。ここで死んでもらっても何の損害もない。混乱の隙に王宮を握ってもいい。
『いう事を聞くなら、大まかな取り決めを行い…普通に返しましょう。そうでないなら…。』
これが、交渉で勝ちを拾った瞬間でもあった。




