26-70 普通のダンマス 魔王の爪痕
ダンジョン内では、叫び声がするほど、ミルツが慌てていた。
「何だよあれ!マギア、鑑定は?」
『無理です。こっちの視界の位置まで把握されています。どちらが来てもこのダンジョンは終わりです!』
「でもネル様…ネル…あ…ネル様!」
確かギルドのトップの名前にして”旧魔王軍トップ”それがエルフの族長”ネル”だった。という事はあれが魔王…だろうか。どちらにしろ、あれは最悪だ。しかもダンジョンを理解していた。
『でも…誘ってましたね。』
…画面を見ると、毒を抜かれたようにあのスコンブ野郎は帰っていった。
「あれが…魔王。」
というより、ラスボスが徒歩で普通に来るな!前兆もイベントもないだろ!…考えないと、これはまずい。侵略はされないだろうが、戦力補強は欲しい。
『…DP収益が、250万突破しました。現在322万DPです。』
「は?」
『どうもあの魔王…殿は相当魔力が高いらしく二人だけで、DPが大量に入りました。』
歩いてちょっと会話しただけでこれだけはいるのかよ。なんだその魔力。駄目だ。あれと戦ってはいけない。歩いてくれるだけでこれとか、大方250万がはした金の世界だろうよ。ダンマスの世界においてDPは絶対指標だ。施設やダンマス強化、モンスター強化。そのすべてがDPによる。その世界で歩くだけで250万DPとかいう化け物は…。どのくらいDPを貯め、そして、DPを使っているのは計算もできない、文字通りの蟻と象の差だ。それ以上でさえ思う。こんな物を見ると、何かしていないと心がくじけそうだ。思うだけで。
「戦力増強は必須だな。何かあるか?」
『現在のDPですと、専属契約か、一蓮托生のどちらかの解除が可能です。』
「え?」
『またはファクターレベルの購入も可能です。』
…突然すぎて頭がくらっと来た。え?いいの?これ。
「少し考えさせてほしい。」
これだけDPがあれば、ダンジョンは相当大きくできる。DPも稼げる。但し…これからどうなるかわからない。外に出る?こんなスラムに行くのか?まだ少しこの中で籠っていてもいい。ただ、ダンジョンは現在でも相当な防御力を誇る。ただ、安心できない。今回は確かに侵入者を撃退できたが。今後を考えると不安だ。収益を上げるにはあのダンジョンではとても不安だ。何しろ、入りにくい。そして入りにくいダンジョンは徐々に相手の難易度が上がる。って事は…あのネルとか言う魔王が来ないとは限らない。そして、来たらこっちは全滅だろう。という事は、ダンジョンをもっと開放しないとまずい。…ダンジョンが生存戦略を練ると、ダンジョンが人間にフレンドリーにならないといけないとか、なんとなく何であんな人間を誘い込むダンジョンか…分かった気がする。が、改装できる範囲に水場が無い。どうする?
「戻ったわよ。あれ何!?」
慌てて、いや、俺と一緒で顔が青いな、アミール、
「おかえり。」
「だからあれは!」
「魔王だ。大方な。」
「は?」
「魔王だ。しかも最強ダンマスの一角だ。」
「え?へ?」
「最悪お前死んでたぞ。マジで。」
「マジで?」
「おおマジ。そう言えば暇つぶしのこれ。ほら。見てみるか。俺も訳が分からん。だから見て、考えるか、」
そして、普通に資料としてクラウドドラゴンの戦闘の上演会を見た。徐々にアミールの顔が青くなっていく。画像のエルフそのままだったからだ。しかも街を覆うほどの蔦。あんなものに勝てと?
「大丈夫か?」
「え、あ、いや、大丈夫じゃない、何あれ。」
「俺が聞きたい。そして大方。今の状況は最悪一歩手前だ。あいつがこの辺にいる限り、最悪はあれが突っ込んで来てダンジョン終了もありうると思ってる。」
「じゃあ、あれに従えと?」
「どっちにしても戦力足りん。相手がどう出るか会話ができん。それにあいつが入っただけで。金貨25枚だぞ、ダンジョン。」
「へ?」
「それくらい奴はえぐいんだよ!」
「どうするのよ。マジで。」
分かれば苦労はしない。
「それを今考えてる。それにダンジョンに侵入者が来てもう、3人の死傷者が出てる。引き返せないんだよ!」
俺が思わず怒鳴るが…良かったそこまでアミールは気にしていないようだ。
「頭痛くなってきた。ちょっと寝るわ。」
「分かった。私達、短い人生だったわね。」
「それは言うなよ、生きるんだよ。これからも。」




