第11話 星空と涙
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「まだ泣いちゃダメですって。ひなさん」
二人で手を繋ぎ、駅から家までの道を歩いている。それが、消えてしまいそうなほど弱い彼女を、この世界に繋ぎ止めておく、最善の手段だった。
「だって……だって……」
僕は何とか耐えていたが、涙もろい彼女の顔はもうぐちゃぐちゃだった。改札を抜ける時に既に泣いていたので、周りの人の視線を盛大に集めてしまった。
しかし、その気恥ずかしさに、なんとなく嬉しいような感情も混じっていた。
*
ようやく家に着いた。塾から帰って放り投げた鞄に躓きながら、電気を点ける。
「よいしょっ」
数時間しか経っていないのに、ものすごく久しぶりに帰った感覚に囚われた。
彼女も、僕の隣に座りこんだ。
しばらくの間は、二人とも無言だった。
突如として、「ふっ」という笑い声が聞こえた。それが僕の口から出たのか、ひなさんからなのか、お互いに知らないままだった。
「なんだか笑えてきちゃった。なんなんだろね、私たち」
「僕もです。こんな状況でも、楽しいと思ってしまう自分に、恐怖を感じてるくらいです」
本当に、僕たちとは何なのだろう。アパートのベランダから見える星空に、より一層、僕らのちっぽけさを強調された気がした。
けれど、僕にはそれで良かった。それで十分だった。もう何も欲しくはないし、もう何も手放したくない。ただ、今という、短い永遠が続いてくれば、僕は満足だった。
肩に、人の体温を感じる。いつの間にか、彼女は僕に寄りかかって、眠っていた。
いつもは一人で、フローリングに座って眺めていた夜景が、何倍も美しく見えた。
それから、一世一代の奇跡を放さないようにと、僕も体重を右側にかけた。




