アタリ
数年前、イトコが経験した話。
夜中にパソコンでネットを見ていた彼はいきなり激しい頭痛に襲われ、やむをえず救急車を呼んだ。
彼は一人暮らしだった。
頭痛が酷くてしゃべることもままならなかったが、部屋に来た救急隊員がだれかと会話するように「XX病院がかかりつけ? わかりました。連絡してみます」と言うのを聞いた。
ストレッチャーで救急車に運ばれると、隊員が「XX病院、受け入れ可能なので向かいます」と言った。その病院の名前は知っていたが、彼はかかったことがない。しかもXX病院に行ってはいけないような気がしていたそうだ。
病院の近くになったところで「あれ? 故障?」「カーナビが消えちゃったよ」と救急隊員が慌てはじめた。
病院に到着してサイレンが鳴りやむと、辺りは静まりかえった。
「なんで暗いんだ」「停電か?」という隊員の声がする。
どうしても気になって、彼は必死に頭痛をこらえ、薄目を開けてみたそうだ。
夜間救急窓口の灯りがない。病院自体も非常電源に切り替わっているかのように薄暗かった。
「見てくるからちょっと下ろすの待って」
隊員の一人が病院のなかに走っていった。が、なかなか戻ってこない。
「受け入れできないんなら次を探さないと」残った隊員がぶつぶつ言う声が聞こえた。
やがて駆け戻ってきた隊員が「おかしいよ、だれもいない」と言ったとたん、『ドン!』と爆発音のような大きな音が響いた。頭にもズン! と重力がかかり、イトコは悲鳴をあげたそうだ。
「なに、あれ?」「今の……」「見た?」「うそだろ」隊員同士の会話はそこまでしか聞けなかった。何事もなかったかのように病院から看護師たちが出てくると、ストレッチャーを下ろしてイトコは処置室に運ばれた。
検査をしても異常はなかった。頭痛も嘘のように消えていた。しかし病院に泊まることになった彼は、懸命に目を開けつづけ、朝まで眠らなかったという。枕元にずっといやな気配がただよっていて、うつらうつらすると、おでこのあたりに吐息のような生ぬるい空気を感じたからだ。
翌日、家に戻るとパソコン画面が立ち上がったままだった。URLが出ていて、そこにカーソルが乗っている。エンターキーには、べったりと指紋がついていた。もちろん彼のものではない。電源ボタンを長押ししてもパソコンをシャットダウンできなかった。仕方なくディスプレイだけ閉じたそうだ。
友人Aにその話をしたら、〈お寺に知り合いがいる〉Bを紹介されて、四日後にBの家に行き、三人でノートパソコンを開いた。
なにも映っていない黒い画面を見た瞬間、
「……引き当てちゃったね。なにもしないほうがいい。お寺で供養してもらうよ」
Bがそう言ったので、イトコは詳しいことも聞かずに「お願いします」とパソコンを渡したという。
※追記:2019.9.2イトコが亡くなりました。