1.兄は主人公
現在高校一年の夏休み直前。そして、今日はとあるVRMMOの発売日。兄もやるらしいので、帰りに予約しておいた一式を一緒に取ってくる約束になっている。
校門前で待つが、なかなか来ない上に真夏の炎天下、汗がダラダラと流れ落ちる。制服が肌に張り付き鬱陶しい。
「柊ー!」
キラキラと何か(汗だと思うが。思いたい)を振りまいて走り寄ってきたのは俺の兄だ。
「俺、早くやりたいんだけど」
「わかってるよ、俺もやりたい」
兄は俺とは違って活発だが、かなりのゲーマーだ。俺も体を動かすのは好きだが、あまりやらない。家での筋トレくらいならするが、外で運動はしない。外に出るのが面倒なんだ。……が、ゲームの中となれば別だ。外に出て動き回りたい。思い切り体を動かして開放感でいっぱいになりたい。
俺の目が輝いてでもいたのか、兄がニヤニヤとこちらを見ている。
「気持ち悪い」
「兄ちゃんに対して酷くない?!」
あー、はいはい。と、適当な返事を返しておけば唇をむっと尖らせる。……男がやっても可愛くないんだ、やめろ。
「種族とか、職業とか、決めたか?」
「当たり前だろ、兄さんは?」
基本の情報が全てホームページに載せられてからもう一ヶ月は経ったんだ。当然、どう行動するかは決めてある。
「俺も決めてあるよ」
「なにやるんだ?βと同じで騎士職?」
「す べ て ラ ン ダ ム !!」
「頭おかしいのか、いや、変態なのか」
せっかくβテストに当選し騎士職やって経験値つんだのに。
「騎士職楽しくなかったわけ?」
「いんや、楽しかったけど、ランダムって、ロマンだよな」
まあ、兄はクジ運いいから、あまり変な結果にはならないだろう。
「まあ、一度だけならやり直せるみたいだから、頑張れ」
「最初の一発ですっげーの引いてやるから、楽しみにしておくがいい!!」
ハーッハッハッハ!!と、いつの間にか着いていた店の前で高笑いをし始めたので拳骨を落として店内に入る。
▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣
「今日の八時からだよな?」
「そうだけど、キャラメイクは先に出来るんだろ?」
「おっしゃ!今から作ってくるぜ!」
騒がしい兄である。また金髪碧眼の眩しいキャラなのだろうか……?まあ、俺もちょっと痛いかもしれないので、そこは下手に突っ込めない所だ。
とりあえず夕飯の用意をし始めよう。キャラメイクはそれからでも充分間に合う。
トントン、という包丁の音が心地好い。今日は帰りに買ってきた鶏肉でササミフライだ。付け合せはポテトサラダである。俺は肉が好きなので大抵夜は肉料理が出てくる。作るのは俺だからな。兄も肉が好きなので特に文句は言わない。因みに朝は肉は出さず、夕飯にもたまには魚を出すので肉ばかりという訳では無い。
「ーーーーーーーー!!」
兄の叫び声が聞こえる。近所迷惑だから勘弁して欲しいのだが。しかもこれは歓喜の叫びだ。また良いのを引いたんだろう、どんなイロモノプレイをするのやら、頭が痛くなるが、そのイロモノの相手をするのは俺じゃなくやつのパーティーメンバーなので、俺にそれほど被害はない。しかしあくまで、それほどだ。
「しゅーうーーーっ!種族からスキルまで、すっげー良いの引きまくったっっ!ガイドのAIさんに思わず抱きついちまったぜ!超美人!!きっとあの人の加護だな!!」
「うるせー離れろ料理中だ」
兄はアレだ、いわゆる主人公体質。まあ、俺もその血が流れてるせいか、主人公の仲間的な感じで修正を受けている。ゲームが始まれば表面に出てくるだろう。それに、もう慣れたし気にはしない、むしろ俺はこうで良かったとも思っている。これには兄に感謝せねばならないだろう。言わないけども。
「ほら、出来たから飯を食え。その間に話を聞いてやる」
兄によると、種族は天使、職業は聖騎士、スキルは、自動HP回復(小)、片手剣スキルⅠに大盾スキルⅡ、光魔法、薬学Ⅰだそう。……ありえないだろ?流石主人公補正、としか言いようがない。確かβの時はランダムが選べず悲しんでいた。こいつの主人公具合を知ってはいたが、これ程までとは……。ゲームバランス崩壊しないのかね?自動HP回復と光魔法は種族スキルだそう。まあ、レア種族だからな……しかし、自動HP回復がぶっちぎりで良いな。俺も欲しいのだが。スタンスは騎士のまま変わらず、イロモノですらなく、ただただチート性能のキャラとして仲間の元に帰るわけか。ランダムにした途端大幅な補正が効くとは……運命とはげに恐ろしきものである。
「羽根、生えるみたいだけど、飛べそう?」
「まだわかんないけど、多分いける(確信)」
だろうね。知ってたよ。