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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
4章 派手に暴れ回っても、影の薄さは治らない
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悪しき木の根に気をつけよう!

「冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略~」

発売まであと4日!!

 晴輝は頭痛を堪えるようにこめかみを指で押さえながら、火蓮のローブのポケットに目を落とした。


「まぁまぁまぁ! レア様が以前よりも美しくに輝いていますわ!」


 ポケットから顔を出したチェプが、レアを見上げて目を輝かせる。

 一体どこからそんなに綺麗な声を出しているのか。チェプのソプラノがダンジョンに美しく響き渡る。


 チェプの声を聞いて、レアがガクリと葉を落とした。

 まるで音程ハズレの歌を聴いたかのような反応だ。


 ため息を吐き出しながら、晴輝はボードの画面をスワイプさせる。

 すると、


「やっぱりあったか……」


 チェプ(0) 性別:女


 通常、スキルボードに出現する条件は、相手が晴輝と同じ種族や、晴輝の味方であることだ。

 魔物の能力は、スキルボードでは覗けない。


 チェプの能力がボードに現れているということは、つまり、晴輝の味方になってしまったということ。


 実に、厄介な……。

 晴輝は頭を抱えたくなった。


 晴輝の経験上、テイムが成功すると魔物のツリーがボードに現れる。

 まさかチェプを無意識のうちにテイムしてしまったのか?


 晴輝はチェプの、切り身やイクラが欲しいとは思った。

 だが、ただそれだけでテイムは成功しない。


 晴輝と同じように、相手からも求められねばテイムは成功しないのだ。


 チェプが晴輝を求めたか?

 その可能性は、晴輝にはまるで感じられない。


 レアを崇拝する仕草は見せているが、チェプは晴輝を求めているわけではない。

 逆に晴輝はチェプに、ケダモノのような目で見られ続けている。


 手で触れようものなら「いやぁぁ」と悲鳴を上げるのだ。

 そんなに嫌がるなら、さっさとどこかへ消えてしまえば良いのに……。


 ではチェプは、エスタと同じようにレアを介して繋がったのか?

 それも微妙な線のように、晴輝には感じられる。


 先日。カムイ岩からスタート地点に戻るとき、晴輝は何故かチェプを「このままにはしておけない」と感じた。


 その感覚は、レアやエスタと繋がりを得た時に近いものだった。

 つまりカムイ岩に居た時点で、既に晴輝はチェプをテイムしていた可能性があるのだ。


 なんたる……。

 考えれば考えるほど、暗澹たるものが晴輝の胸の中に広がってくる。


 気を取り直して、晴輝はチェプのツリーに目を走らせる。



 チェプ(0) 性別:女

 スキルポイント:1

 評価:呪魚

 守護:英雄神人<サマイクル>


-生命力<->

 ├スタミナ0

 └自然回復1


-筋力<->

 └筋力0


-巫力<->

 ├巫力1

 ├巫術適正1

 └巫力操作1


-敏捷力<->

 ├瞬発力0

 └器用さ0


-技術<->

 └武具習熟

  ├ヒレ1

  └魚鱗1


-直感<->

 └探知0


-特殊

 ├姫1

 ├守護 MAX

 └精霊 Non



「……んん!?」


 やはり、色々おかしかった。


 晴輝は中層に赴いて、『加護』を手に入れていた。

 だがチェプは『守護』。初めて見るスキルだ。


 加護と同じように、ツリー上部に神の名前が出現していることから、加護と守護は似たスキルなのだろうことは判る。


 では、その違いはなにか?


 加護の説明は『神々の力の一部を行使出来る能力』。

 対して守護の説明は『神々の護りを得る能力』だった。


(加護は攻撃系で、守護は防御系か?)


 説明から、加護が守護の上位スキルとなりそうだ。


(とすると、中層に出たとき加護ではなく守護を引き当てた可能性もあるのか……)


 晴輝が上位スキルの加護を引き当てられたのは僥倖だった。

 これまで晴輝は紙一重の戦場をくぐり抜けてきた。

 もし加護ではなく守護を得ていたら、晴輝はどこかのタイミングで落命していたかもしれない。


 さておき、中層もない旭川の地に現れたチェプが、神々の守護を得て、しかもその守護スキルがカンストしているのかが疑問である。


 チェプに守護を与えた(残念な)神はサマイクル。

 丁度、神居古潭で悪神を倒したアイヌの神である。


 彼は『全国隅々見渡せど、私ほどの天才は居ない』と宣うほどの自信家だった。

 荒々しく残忍で、愚か者と呼ばれた神ではあるが、功績はオキクルミに引けを取らない。


 神居古潭で悪神を倒すときの攻撃で生まれたのが、カムイ岩。まさに荒神である。

(このことからサマイクルは、英雄としての資質はあるが、力が有り余りすぎてついついやり過ぎてしまう。ナルシストでおっちょこちょいの神だ……と晴輝は考えている)


 神居古潭に現れた悪神を倒してくれたサマイクルへと、感謝の気持ちとして捧げられるのが神居古潭で採れた、その季節で1番目の鮭。

 ――つまり、チェプのことだ。


 チェプがサマイクルの守護を得たのは、この神話をなぞった行動を取ったからか。

 案外加護や守護のレベルは、神に近づけば自然に上昇するのかもしれない。


 どういう行動がその“神に近づく”ことなのかは神、あるいは神話によっても大きく違うはずだ。

 とある神話では“神に近づく”は“死”の隠喩なので、神様に近づく場合は細心の注意が必要である。


「……っと」


 大好きな神様のことでつい思索に耽ってしまった。

 晴輝は頭を切り替えて、ツリーを目でなぞる。


 次に晴輝が気になったのは、巫力だ。

 スキル構成から、火蓮と似た能力だということは判る。


 巫術は一般的には超自然的存在と交信する“職業”を指すが、超自然的現象に基づく“思想”を指す場合もある。


 攻撃タイプなのか、バフなのかデバフなのか。

 言葉だけでは判断出来ない。


 後々、チェプを実戦投入するときに確かめてみよう。


 しかしチェプがすんなり、晴輝の言うことを聞くだろうか?

 実践に投入しようとしたら、「いやぁぁ」と悲鳴を上げながら、火蓮のポケットに入りプルプル震える様子が、晴輝には容易に想像出来た。


 武器習熟のヒレと魚鱗は、種族特性として割り切れる。

(一体どうやってヒレで攻撃するのか? という疑問はぶん投げた)


 最も大きな突っ込みどころは『姫』だ。

 もはや、スキルボードごと『姫』という言葉を冒涜しているように思えてくる。


 世界中の、あらゆる『姫』と名付けられた人やものに謝ってもらいたい。

 イライラしながら、晴輝は『姫』をタップする。


 姫1『落命を逃れる運命をたぐり寄せる能力』


「……なるほど」


 スキル説明で晴輝は、(理解したくはなかったが)理解した。


 黒い魚人が空から舞い降りたとき。

 チェプは確実に魚人の足に踏み潰されていた。

 踏み潰されて、岩の中に埋め込まれた。


 それでも彼女が生きていたのは、この姫のスキルがあったからだろう。

 厄介な奴が厄介なスキルを得たものである。

 犯人はサマイクルだろうか?


 このスキルを与えた奴には厳重に抗議したいものだ。

『一体こいつのどこが姫なんだ!?』と。


『姫』は1度の戦闘で落命を1度だけ避けられる能力か。あるいはあらゆる落命を避ける能力か。


 後者の能力だと、チェプは『絶対に死なない・殺せない魚』になるので、どうか前者であって欲しいと晴輝は切に願うばかりだ。


 最後に、特殊のツリーの一番下にある『精霊』。

 タップをしても説明が出てこない。

 それにスキルレベルが『Non』も謎だ。


 中層から出現する亜人にも拘わらず、全体的にスキルレベルが低い。

(ということは『精霊』は、チェプのスキルレベル全体の低さが有利になるものか?)


 気になるが、ポイントを振って解放するタイプのスキルではないので、晴輝にはこれ以上スキルを確かめようがない。


 しばらくこのままで様子を見る他なさそうだ。



 旭川ダンジョン『神居古潭』は10階が最深部である。

 魔物の脅威も通常程度で、鍛え抜かれた冒険家にとってはさして攻略難易度の高いダンジョンではない。


 しかし、このダンジョンで活動したことのない冒険家にとっては、通常のダンジョンよりも難易度が高く感じられるだろう。

 その原因は、マップだ。


「全然ダメだな」

「……ですね」


 4階に到達した晴輝らは、しばらく探索を続けたにも拘わらず5階に進めずに居た。


 3階までは通常のダンジョンと変わらぬ内面であるが、4階からは木の根が冒険家の行く手を阻むようになる。


 天井からは大量の木の根が伸びて壁を覆い尽くしている。

 道はまっすぐ通じているのに、木の根が邪魔をして通れない道がいくつもある。

 その道を避けて進むが、また別の道で木の根に邪魔をされる。


 邪魔な根を切り裂いて進むことは出来る。

 だが根を切った途端に、他の根がまるで意思を宿したかのように動き出して一斉に道を塞いでしまう。


 そのため、根はなるべく切らない方が良い、というのがこのダンジョンの攻略法となっている。


 木の根は時々刻々と変化する。

 それまで道を塞いでいた根がひとりでに動き出して、新たな道を出現させたり、あるいは冒険家の目の前で動き出して通行止めを行ったりもする。


 木の根の動きは、完全にランダムだ。

 運が良ければ1日で10階に到達出来るらしいが、今のところ火蓮の運は本領を発揮していない。


 よほど木の根の運が高いのか。

 あるいは……と晴輝は顎に手を当てる。


 火蓮の運は、いわば目に見えない要素を引き当てる力だ。

 そんな力が常時あらゆる方向に左右しては、神にも手が届く。

 なんらかの制限があると考えるのが妥当である。


 引き当てるまでの距離・時間によって、もたらされる結果が変化する。

 あるいは、『ある事象に運スキルが作用しているあいだは、別の事象に対し働きかけが出来なくなる』か……。

 このくらいの制約があっても不思議じゃない。


 であれば、一体火蓮の運スキルは現在、何に作用しているのか?

 どうやったら木の根を運の力で避けられるようになるか?

 ……などと思考するが、晴輝に判ることはない。考えるだけ無駄というものだ。


 木の根を前にして、晴輝は藁にもすがる思いだった。

 不確かな力に頼りたくなるほどに。


 ――さて、他に木の根をどうにかする方法はないものか?

 考えると、晴輝の脳裡に一つのキーワードが浮かび上がった。


『巫力』

 それが超自然的存在と交信する力ならば、木の根を追いやることも出来るかもしれない。


「なあチェプ。この木の根をチェプの能力でどうにか出来ないか?」

「能力ですの?」

「ああ。チェプは巫術を使えるんだろ?」

「フジュツ……。それはなんですの?」


 チェプが首を傾げた。

 その表情に、隠し事の気配は感じられない。


 彼女は本当に巫術を理解していないのか。

 あるいは彼女は巫術を別の名称で呼んでいるか。


「チェプは火蓮の攻撃を何度も見ただろ?」

「ええ。奇っ怪ですが、大きな力ですわね」

「こんな力に似たことを、チェプは出来ないか? たとえば木の根を除けるとか」


 晴輝が祈るように尋ねる。

 その問いをチェプは、


「出来ませんわよ」


 あっさり否定した。


「わたくしは非力ですの。せいぜい祈ることしか出来ませんのよ?」


 つまり、ただ飯ぐらいだと。

 なるほどなるほど。


 ……駄魚め。

 晴輝は内心舌打ちをした。


「はっ!? いまなにかとても失礼な雰囲気を感じましたわ!」

「気のせいだ。さ、先を急ごうか」


 才能はあるが使いこなせないのか、巫術を別の名称で認識しているのか。

 あるいは晴輝を誤魔化すほどの演技力があるのか……。

 結局、巫術に関しての情報は一切得られなかった。


 チェプの能力で木の根を避けられれば一番よかったのだが、出来ないものは仕方が無い。

 晴輝は気を取り直して、ダンジョンの探索を再開した。

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