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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
4章 派手に暴れ回っても、影の薄さは治らない
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旭川に湯治に行こう!

評価ポイント6万&ブックマーク2万達成いたしました!

これも皆様のおかげでございます。

誠にありがとうございます!!

「……はあ。まずは詳細を教えてくれ」


「参加条件は中級冒険家。依頼を引き受けた冒険家全員が参加する殲滅戦形式の依頼よ。内容はダンジョン周辺にいる魔物約30体の殲滅。参加による報酬はなし。交通費は自腹ね。

 魔物1体討伐につき3万円が支給されるわ。『なろう』の依頼クリアポイントは貢献度に合わせての支給よ。沢山討伐すれば、沢山ポイントが貰えるわね。

 魔物から剥ぎ取った素材の処理は自由よ。ああ、当日は一菱買取店が出張所を出す予定だから、そこで販売してね♪」


「……その依頼、参加する奴いるのか?」


 朱音の説明では、デメリットばかりだ。

 メリットといえば素材とは別に1体倒す度に3万円の収入が加算される程度である。


 とはいえ、ワーウルフ1体の素材を販売して1万円程。

 ワーウルフより圧倒的に弱い魔物を倒すだけで3万円も貰えるのは、かなりのものだ。

 そこに素材代が加算されるので、普通に魔物を討伐出来るなら収入のパフォーマンスは高い。


 しかし依頼を引き受けた冒険家が全員参加なら、(参加人数次第だが)1人に1体も当たらないかもしれない。

 1匹も倒せないなら、確実に赤字だ。


 さらに『なろう』でランキングに載るためのポイントも、討伐数に合せて支給ときた。

 うま味の少ない依頼としか、晴輝には思えなかった。


「参加しないの?」

「当然だろ? 確かに旭川には行くが、その程度の依頼なら参加せずにダンジョンに潜った方がよっぽど稼げる」


 特に現在、晴輝はワーウルフを1体倒すだけで1万円以上稼げる。

 無理に依頼をこなすよりも、体調を万全に整え、確実に収支の見込める車庫のダンジョンで活動した方が金銭面でも、戦闘経験の面でもお得である。


 おまけに『なろう』のポイントだって、適当に見繕った素材納品依頼を複数同時にこなしたほうが稼げる。

 残念ながら現在『車庫のダンジョン』に出現する魔物の素材納品クエストは、『なろう』の依頼掲示板に上がっていないのだが……。


(一体何故、北海道地方の一菱に限って、ワーウルフの素材納品依頼が無いんだろう? 不思議だ……)


「もっと依頼料は高く出来なかったのか?」

「無理よ。お金は自治体が出すんだから」

「なるほど」


 自治体が依頼主ならば、多くのお金を出せないのも仕方がない。


 自治体のお金は税金だ。

 年度初めに定められた予算を、大きく超えるお金は素早く動かせない。


 時間をかければ大金を動かせる。

 だが事は一刻を争う。

 補正予算の編成・議会承認を悠長に待ってる暇はない。


 スタンピードは自然災害のようなものだが、必ず起こるとは限らないもののため、大規模に編成するのは難しい。


 予算は無限にあるわけじゃない。

 限られた中で編成を行わなければいけないのだ。

 使わない可能性があるのなら、確実に必要とされる場所に予算を回したというのが議会や行政の心情である。


 とはいえ、魔物への対処は早急に行わなければいけない。

 魔物が外に出たと知りながら人的被害を受けるまで放置したとあっては、無能との誹りは免れない。


 最低限の金額で、出来るだけ……。

 これが今回の、報酬が低額である理由だった。


「社会貢献だと思って参加してみない?」

「しかしなあ……」


 晴輝は難色を示す。

 すると朱音が、わざとらしくため息を吐き出した。


「この依頼の指揮を執るのはチーム・エアリアルなんだけどね」

「ほぉ?」

「今回依頼を受けるだけじゃお金が発生しないのは、カゲミツが決めたことなのよ」


 エアリアル――特にカゲミツには、晴輝は大きな借りがある。

 彼は車庫のダンジョンの稀少種討伐を手伝ってくれたのだ。

(カゲミツは『ちかほ』のモンパレ壊滅と稀少種討伐の借りを返しただけだと口にしていたが)


 彼が主催で殲滅戦を行うなら、晴輝は参加するのもやぶさかではないが……。


「そうそう。討伐数が1番から3番目までの冒険家とチームには、あとでカゲミツのブログに名前が掲載されるらしいわよ」


 嫌らしい笑みを浮かべた朱音の言葉に、晴輝の耳がピクリと動いた。


「討伐数1位になったら、集まった冒険家の中で実力が一番ってことだし。企業に対して、これ以上ないアピールよねぇ。それにぃ、とっても目立つ――」

「行くぞ火蓮。……全力だ。全力で1位を目指すんだ!!」


          *


 ダンジョンを離れ湯治を行い、さらにうま味の少ない依頼を引き受けた晴輝だったが、一切落胆はしていなかった。

 むしろかつて無いほど気合に満ちあふれていた。


 なぜならば、この殲滅戦で1位になれば目立つかもしれないから。


 一定の実力が順位として表れ、かつアクセス数の多いカゲミツのブログで表彰される。

 希に見る存在感アップのチャンスである。

 これに晴輝が滾らぬはずがなかった。


 遠征の準備を終えて、晴輝は車を発進させる。

 助手席に火蓮。レアとエスタは後部座席に座っていた。


 しばらくレアと火蓮が助手席を巡って視線で熾烈な死闘を繰り広げていたようだが、レアはエスタの面倒を見る約束になっている。

 渋々、レアは火蓮に助手席を明け渡し、葉をショボンとさせながら後部座席に乗り込んだのだった。


「火蓮。念のために言うが、旭川では一切魔法を使うなよ?」

「はい。……あっ、でも――」

「コッソリもだめだ」


 誰もいないところでコッソリ魔法を使うつもりだったのだろう。

 先回りして釘を刺すと、火蓮が悲しげな表情を浮かべた。


 誰も見ている人がいないなら、魔法を使っても問題ない。だがそれは誰も見ていない『かもしれない』だけで、逆に誰かが見ている『かもしれない』のだ。


 どれほど確認をしても、見落とす可能性は消し去れない。

 印刷会社に勤めていた晴輝は、それをよくよく理解している。


 校正部の第一校正、第二校正、営業、制作、顧客、製版。何重ものチェックを行い印刷した後に、誤植がひょっこり姿を現すことが何度あったことか……。


 人間の判断力は絶対じゃない。

 後々になって『何故実行したんだ?』と首を捻っても、理屈が思い浮かばない行動を起こすこともある。

 あやふやな状況下での魔法の使用は危険である。


「それだと、私は使い物になりませんね……」

「いや、案外そうでもないと思うぞ?」


 気落ちする火蓮の言を晴輝は否定した。


 火蓮は現在車庫のダンジョン15階で活動している。普段は魔法で戦っているが、身体能力は15階相当――決して低いわけではない。

 それに、


(火蓮に試して欲しいことがあったし、丁度良い)


 もしそれが上手く行くならば、火蓮が使い物にならないなんてことは決してないはずである。



 第一次スタンピード前であれば、K町から旭川までの移動距離は約百キロメートル。道民基準では、すぐそこの街である。


 旭川は北海道において第二の都市。中核市だった。

 しかし少子高齢会にて傾き、第一次スタンピードがダメ押しとなって、一気に人口が減少した。

 現在は過去の繁栄の残滓が感じられるだけとなっている。


 それでも市に住まう人々は、K町とは比べものにならないほど多い。

 ダンジョンから持ち帰られた食材を小売する商店や、惣菜店、家具屋などがあちらこちらに点在している。


 悪路の移動に4時間を費やし、晴輝は目的地である宿を発見。

 ダンジョンから湧き出した温泉が引かれた宿『カムイの湯』。


 火蓮が部屋を押さえているあいだに、晴輝は泣きながら荷物を運び込む。

(張り切ってカウンターに立ったが、誰も気づいてくれなかった)


 部屋は男性陣と女性陣で別々だ。

 レアもエスタも人数には入らないので、シングルルーム。


 内装はまるでビジネスホテルだが、目的は観光や癒やしではなく湯治なのでなにも問題はない。


 部屋に荷物を運び込んだ晴輝は、早速浴衣とタオルを抱えて温泉に向かった。


 温泉に入るのは久しぶりだった。

 晴輝はワクワクが止まらない。


 K町にもかつては温泉はあった。

 だが第一次スタンピード後、温泉をくみ上げる装置の維持が困難となり、現在K町の温泉施設は閉鎖されている。


 維持出来ずに閉鎖される温泉施設は全国に多々ある。

 ただここカムイの湯は、ダンジョンから湧き出る源泉を引いているだけであるため、現在も現役温泉施設として営業が続けられている。


 天然の岩風呂に、源泉掛け流し。

 透明なお湯に、小さな湯ノ花が浮かんでいる。


 露天風呂の壁に立派な一枚板が提げられている。そこには『打ち身、関節痛、筋肉痛、腰痛、疲労回復、運動機能障害、美肌』と、効能が書かれていた。


 どこまで効果があるのやら。

 平時の晴輝であれば、羅列された効能を胡散臭く思っただろう。少なくともいままで晴輝は効果・効能の表示板を、気にしたことさえなかった。


 だが現在、晴輝は『運動機能障害』という文言にクギヅケだった。


「温泉で病気を治せるなんて、さすが(カムイ)の湯。素晴らしい!」


 くるっと回転する手の平の、なんと都合の良いことか。

 今の晴輝ならば、洗剤さえも飲み干せるだろう。

 溺れる者は藁をも掴むものなのだ。


 現在、露天風呂には晴輝一人。独占貸切りだった。

 実に贅沢である。

 晴輝はうっとりしながら温泉に肩まで浸かる。


「っ――――あ"あ"あ"」


 喉の奥から、至福の声が漏れる。

 丁度良い温度の湯が、体の芯まで染み渡る。


 晴輝は瞼を閉じて、温泉が流れ込むチャパチャパという音を聞きながら、心地良いお湯に身を委ねた。


 しばらくすると、なにかが体を巡る気配を感じた。

 それはまるで、真冬に凍えた体を温めたときのような、拡張した血管を血液がゆったり流れるような感覚だった。


「吸収し切れず凝り固まったエネルギィが温泉の熱で溶け、循環を始めている……のかな?」


 晴輝は湧き出し口から温泉を掬い、口に運ぶ。

 僅かな酸味があり、後味がすっきりするお湯だ。それが晴輝の体の中に入り、胃を内部から温める。


 再び体の変化に意識を集中させるが、これ以上の変化は感じられなかった。

 お湯を飲んでも、回復が早まる気配がない。


 もし回復が早まりそうなら、温泉をガブガブ飲むつもりだったが……。

 飲む意味はあまりなさそうだ。


 晴輝は岩に背中を預けて肩まで浸かる。

 その晴輝の目の前を、スイーッと風呂桶が横切った。


「…………」


 風呂桶の中には紅い塊――エスタがいた。

 エスタは風呂桶の中から足だけを出して、器用にお湯を漕いで移動する。


「……おい」


 ガシッと晴輝が風呂桶を掴むと、中にいるエスタがピクンと反応。

 晴輝を見て『テヘッ』という仕草を見せた。


「一体なにをしてるんだ」


 というか、どうやってここへ来た?

 晴輝の視線に慌てたエスタが、モキュモキュと足を使って言い訳をする。


「俺が心配で付いてきた? ……はあ。他の人にバレたらどうするんだ」


 いくらテイムをしていたとしても、エスタは魔物だ。一般人の目に入れば大騒ぎである。

 下手をすればエスタが討伐されかねない。

 特にここはホームのK町ではなく、顔馴染みがまったくいない旭川だ。最悪の事態に陥る可能性だってある。


「今後、勝手に行動しないように」


 晴輝が叱ると、エスタがシュンとして小さくなった。

 少し可愛そうであるが、情けは無用だ。


 ここで情けをかけてエスタを失えば、それこそ後悔してもしきれない。


 おそらくエスタは、晴輝が暴走しないようにと送り込まれた刺客である。

 火蓮もレアも女性だから、男湯には入れない。そこで、エスタに白羽の矢が立てられたのだろう。


 自分の好きなように入れないなんて……。

 晴輝は思わずため息を漏らす。


 とはいえ、エスタに……火蓮やレアにその身が不自由になるほど心配されても、一切悪い気はしなかった。

 傍に誰もいなければ、心配されることもないのだから。


 誰かが心配することで、鬱陶しいと感じられても、

 たとえ自由な時間が奪われようとも、

 その感情さえ、現代では得がたく、だからこそ尊いものなのだ。

Q,どうしてワーウルフの素材納品依頼が無いの?

A,どこかの変態仮面がバカみたいに納品しまくったせいです。

  ※ただし、通常の買取は行ってます。


Q,空気は前にカゲミツのブログに載ったのに、無反応だったことを忘れたの? バカなの?

A,夢や希望は、最後まで捨ててはいけません!

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