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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
4章 派手に暴れ回っても、影の薄さは治らない
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プロローグ 成長の具合をチェックしよう!

ここから4章がスタートです。

 何故、何故、何故……。

『彼ら』は懊悩していた。


 一体何故奴は、あれほどの力がありながら、さらに強い力を求めないのか? と。


『彼ら』の目的は一つ。

 その目的に向かってあらゆる手段を尽くしてきた。

 何千年も、何万年もかけて……。


 1度目は介入しすぎて人類が潰れてしまった。

 2度目は介入しなさすぎて、人類を見捨ててしまった。


 今回で、3度目だ。

 3度目でようやっと、道筋が見えてきた。

 これは、彼らにとって初めて巡ってきたチャンスだった。


 英雄はいる。

 人類の、袋小路を突破し得る英雄は。


 だが、彼らが奏でるユーカラは、遅々として進まなかった。


 何故か?

 それは彼らが生み出した舞台に上がった役者が、それぞれ個としてしか動いていないからだ。


(原因はなんだ?)

(わからない)

(観察しすぎたか?)

(そうかもしれない)


 地下に伸びたバベルの頂点は、英雄の登場を待ちわびている。

 その英雄は、依然として入り口を行き来している。


 ならばと『彼ら』は手を下した。

 これで世界に対して、2度目の介入だった。


(何が必要だ?)

(試練)

(さらなる力を求めさせるのだ)


 だがやり過ぎは良くない。

 やりすぎては再び潰してしまいかねないのだ。


 故に彼らは慎重に種を選んだ。

 現在の英雄に、ぴったりの種を。


 舞台に上がった英雄が、1日でも早くバベルの頂点に到達するように。

 彼らはその時を、今か今かと待ちわびている。


 ユーカラの調べを聞きながら……。


          *



 マサツグからの荷物を受け取った翌日。

 晴輝はいつもと同じように車庫のダンジョンの前で火蓮と合流し、ゲートへと向かった。


「そろそろボスにチャレンジしようかと思ってる」


 15階まで降りるゲートの中で、晴輝はそう切り出した。


 晴輝は鹿の稀少種と無数のワーウルフを相手にして(カゲミツの力添えがあったとはいえ)大けがもせず生き延びた。


 さらに鹿の稀少種を倒したとき、晴輝は意識が刈り取られるほどのレベルアップ酔いに罹った。

 激しいレベルアップ酔いに罹った後は必ず、身体能力が飛躍的に向上している。

 15階――それも個体としてはかなり強い、ワーウルフボスへの挑戦は、決して無謀ではないはずだ。


「ボスはワーウルフの強いタイプでしょうか?」

「たぶんね」


 1週間ほどのレベリングで、晴輝も火蓮もワーウルフの実力をいやというほど理解している。

 好戦的で、挑戦的で、挑発的で、超越的なワーウルフの実力を。


 ほんの少し油断すれば、戦況はあっさりひっくり返されてしまうほど、戦闘センスが非常に高い。

 ワーウルフはダンジョンで出会った中で最も油断ならない魔物である。


 そのボスとこれから戦おうと言われ不安を覚えているのか。火蓮が表情を曇らせた。


「前回の戦いでレベルアップしたし大丈夫だとは思うが。まあ、道中で何度かワーウルフと戦うし、そこで挑戦するかしないか見極めてもいいな」

「そうですね」


 命を失っては意味がない。

 人生はどれほど確証はあっても、確実じゃない。

 先を急ぐよりも、命が最優先だ。


 15階に降り立った晴輝は、武具を確認し、一度スキルボードを取り出した。

 おそらく前回の戦いで、スキルポイントが加算されているはずだ。


 ポイント加算と、上昇したスキルがないかの確認を行うためにボードを取り出した晴輝だったが、


「――あれっ?」


 ボードに表示された、見慣れぬ文字を見て動きが止まった。


 いままでは、各個人のスキルツリーが画面の上から下までみっちり表示されていた。

 だが現在、スキルツリーが上から3分の2のところで途切れている。


 その下には、見慣れぬ文字が出現していた。


≪条件達成によりデモ・グラフの等級上昇(アップデート)が可能となりました≫

≪等級の上昇を行います――上昇(アップデート)完了≫

≪一部機能が解放されました≫

≪これよりログ機能の使用が可能となります≫


「おお! まさかの隠し機能解放!!」


 いままで使用してきたスキルボードに、隠し機能があるとは思わなかった。

 晴輝は歓喜に目を輝かせる。


 まず、スキルボードの正式名称は『デモ・グラフ』。

 デモ・グラフには『等級』があり、条件を達成することで上昇する。


『等級』が上昇すると機能が解放されるのか。

 今回解放されたのは『ログ機能』だった。


「……なるほど」


 ログに書かれた内容を読んで、晴輝は呟いた。

 今まで謎の魔道具だったスキルボードが、ログにより解明された。


 ただし、ほんの少しだ。

 ログ機能が解放されたトリガは、おそらく稀少種の討伐だろう。

 それ以外に、晴輝はスキルボードに変化をもたらすような特別な行動は行っていない。


(稀少種を倒すと、ボードの機能が解放される……ってわけじゃないだろうし)


 もしそうなら第二次スタンピードの時や、『ちかほ』でカゲミツと共に戦った時に、既に解放されている。


 であればログにある条件とは、稀少種を数匹倒すことか?

 あるいは稀少種は関係なくて、肉体が一定のレベルに達することか?


「……わからないな」


 晴輝は首を振った。

 情報が不足しすぎている。


 現在、稀少種討伐から一日以上経過している。

 にも拘わらず、ログは解放された時点から変化がない。


 スープカレーを食べたりマサツグからの荷物を開封したりした、その間のログがないということは、日常生活ではログが反応しないのだろう。


 スキルボードに影響を及ぼす行動がログに表示されるのか。


「空星さん、どうしました?」


 スキルボードを見て固まっている晴輝が不審だったのだろう。

 討伐の準備を終えた火蓮が眉根を寄せた。


「いや、ちょっとボードに変化があったんだ」

「変化?」

「ああ。ログ機能が新しく解放されたんだが、ちょっとよくわからなくてな」


 ログ機能がどういうものか理解するためには検証しなければいけない。


 検証。

 スキルボードを始めて手にしたときの高揚感が、晴輝の胸に湧き上がる。


 ログがどれくらい使えるかは不明だ。

 ただログが表示されるだけだから、さほど使えない可能性はある。


 等級上昇のトリガが稀少種討伐のみなのか、それとも他にあるのか。

 ロックされた機能は他にあるのか、ログ機能だけなのか。

 スキルボードについて判らないことはまだまだ沢山残っている。


 しかし、判らないは、面白い。

 知的好奇心を刺激され、興奮する。


 晴輝は未だ誰もが知らないことを、自分が一番先に手探りで発見する。この状況に胸を高鳴らせるのだった。



 晴輝はスキルボードを消して短剣に手を伸ばす。


「ひとまず、ワーウルフと戦いながら、レベルアップ後の体に慣れていこう」

「はいっ!」


 晴輝は探知範囲を広げ、ワーウルフを探索する。

 するとすぐに、1匹のワーウルフが晴輝の探知に引っかかった。


 レアに無言で指示を出す。

 1匹のワーウルフめがけて、レアが威嚇射撃。


 ドッ、と音を立ててジャガイモ石が飛ぶ。

 石は地面に着弾。

 ワーウルフには当たらなかった。


 だが、それで良い。


 晴輝は素早く短剣を抜き、前に出る。

 レアの威嚇射撃に気づいたワーウルフが、笑うように鼻に皺を寄せた。


 ワーウルフが晴輝らに向かって走り出した。


 素早い移動。

 ワーウルフの接近に併せ、

 晴輝は前に短剣を突き出す。


 あっという間に、晴輝がワーウルフの間合いに入った。

 ワーウルフが腕を上げ、振り下ろす。


 そのワーウルフの全身を、


 ――ッタァァァン!!


 雷撃が舐めた。

 バリバリと音を立てて、雷撃がワーウルフの体を蹂躙する。

 全身の毛が、雷撃により一気に逆立った。


 ワーウルフが雷撃により硬直した。

 足が止まり、疾走の勢いそのままにワーウルフが頭から倒れ込む。


 そこに、


「――ッ!?」


 晴輝が合わせた。


 相手の接近速度、体重を利用して、

 自らの攻撃力を最大に引き上げる。


 並の武器では刃が立たないワーウルフの体を、晴輝の短剣はいとも容易く切り裂いた。

 しかし、浅い。


「――ッ!?」


 確実に合わせたはずだった攻撃角度は、晴輝の意図せぬものだった。

 それは動画を見て、時雨と戦って模倣してきた動きからは、大きくかけ離れていた。


 短剣で脇腹を切られたワーウルフは、頭から地面に突っ込む前にスタンから回復。

 地面を転がりながら、デッドゾーンから逃げ伸びた。


 ――ドドドドッ!!


 転がり逃げるワーウルフにレアが追撃。

 ジャガイモ石を背中に受けて、ワーウルフの動きが鈍る。


 そこに再び雷撃が飛んだ。


 そこからはレアと火蓮がサンドバッグを続けた。

 哀れワーウルフは、地面から立ち上がることが出来ないまま絶命した。


「レベルアップって、すごいですね……」


 火蓮が目を丸くしながら杖と、絶命したワーウルフを見比べている。

 彼女はいままで意識を刈り取られるほどのレベルアップを経験したことがない。

 鹿の稀少種討伐のときも、彼女は意識を失わなかった。


 にもかかわらず、今回はしっかり違いを意識出来ているようだ。

 それほどまでに鹿の稀少種は、基礎経験値が高かったのだ。


 レアも大きくレベルアップしている。その成長が、投擲の音に表れていた。

 違いは音だけではない。

 レアの投擲は車庫のダンジョン15階までで最も強いワーウルフの防御を貫通し、大きくダメージを与えていた。

 威力が大幅に向上している。


 無論それらの変化は肉体レベルの上昇だけでなく、スキルレベルの上昇も関係しているが。


 彼女たちと同じように晴輝も身体能力が大幅に向上している。

 以前に比べてスキルレベルも高い。

 高いのだが……。


「…………」


 一体、なんだったんだ?

 晴輝は自らの手を見下ろして、眉根を寄せた。


 ワーウルフを攻撃したとき晴輝の全身に、神経を引き抜かれるような激痛が走った。


 激痛は晴輝の集中力を蹂躙し、確実に成功する攻撃を失敗に導いた。

 攻撃したあとは、まるで幻だったかのように激痛が消えた。


 手を握って開いて。体を軽く動かす。

 しかし先ほど感じた痛みは、体のどこにも残ってはいない。


 痛みは以前、晴輝が座り仕事で腰を壊した時に感じた、座骨神経痛に近かった。

 腰の筋肉が凝り固まり、固まった筋肉が神経を圧迫することで、まるで通電でもしたかのように腰から太ももにかけての神経がビリリと痛むのだ。


 かつて晴輝を悩ませた座骨神経痛は、現在完治している。

 神経痛の類いではないだろう。


 では、火蓮の雷撃に誤って触れたのか?

 そう考えて、晴輝は頭を振る。


 もし雷撃に触れていたら、体のどこかにダメージが残っているはずだ。

 しかしダメージはない。あれは、雷撃による痛みではない。


 レベルアップして変化した体に、頭が付いていってないのか。

 きっとどこかに無理が出たのだろう。

 そう自らを納得させ、ワーウルフを解体。

 晴輝は次の獲物を探す。


 再びレアの投擲でワーウルフをおびき寄せ、戦闘が始まる。


 今度は慎重に。

 晴輝は全身を意識し、無理が出ないようにセーブする。


 ワーウルフの攻撃をいなし、腕を軽く切りつける。

 かなり手加減したため、ワーウルフには僅かな傷しか付けられなかった。


(体に痛みは、ないな)


 慎重に体を動かしたからか、晴輝は従来通りの動きで攻撃を行えた。


 体の無事を確認した晴輝は、四肢に力を入れてワーウルフに接近した。

 次は全力で――。


 そう思った矢先、


「――っく!!」


 ビリッ、と再び激しい痛みが晴輝の体を蹂躙した。

 痛みに硬直した晴輝の首に、ワーウルフのツメが迫る。


「――う」


 避けようとするが、痛みが邪魔で動けない。

 そうしているあいだにも、晴輝にワーウルフのツメが迫る。


 ツメが晴輝の首に食い込む。

 その前に、

 エスタが飛んだ。


 エスタはシュンシュン回転しながら、ワーウルフのツメを弾き飛ばす。


 接触した勢いを利用して、エスタが晴輝の腹部に舞い戻る。

 同時に晴輝はバックステップ。


 ――ッタァァァン!!

 ――ドドドドッ!!


 晴輝の行動に合わせて、火蓮とレアが一斉に、ワーウルフに攻撃を浴びせる。

 2名の猛攻撃を受けてズタボロになったワーウルフが、悲しげな鳴き声を上げながら絶命した。


「空星さん、どうしたんですか?」


 背後から見ていて異変に気がついたのだろう。

 戦闘が終わったあと、火蓮が慌てたように小走りで晴輝に近づいてきた。


 上手く動けないことが悔しくて、晴輝は俯きながら首を振る。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……」

「動きが変でしたけど、調子が悪いんですか?」

「……判らない」


 晴輝が怪我をしたと考えたのか。

 火蓮が不安そうな面持ちで杖を胸に抱いている。


 背後ではレアが、軽く肩を叩く。

『あんまり無理するんじゃないわよ』と、晴輝を気遣うような優しい叩き方だ。


「軽く体を動かす分にはなんともないんだが、全力で動こうとすると、ビリっと痛む」

「病気? お医者さんを探さないと!?」


 青ざめた火蓮が5センチほど跳ねた。


 ペンペンペンペン!

 肩を叩いていたレアの力が、一気に強まった。


「いや、普通に過ごす分には痛みはないんだ。医者に診てもらっても、説明しようがない」


 現代では、病院に掛かるのも一苦労である。

 風邪くらいなら町医者でなんとかなるが、それ以外だと大都市に出なければいけなくなるのだ。


 それに大都市に行ったところで、スタンピード前と同じ設備が整っているわけでもない。


 東京の病院であれば、以前と同じ水準の検査が受けられるかもしれない。

 それでも、ギリギリだ。


 東京とは違い、札幌は所詮地方都市。

 満足な検査が受けられるはずもない。


 おまけに晴輝の場合、症状が不明瞭にすぎる。

 痛みの根源がどこかわからないし、軽く動かすだけでは痛みが発生しない。


 辛うじて判っているのは、全力で動くと痛みが現れることと、痛みが電気のようであることくらい。

 それ以上の異変を、晴輝は体から感じることが出来ないでいる。


『なんとなく体が痛い』だけで病状が判るほど、医療は完璧じゃない。

 予約を取って受診して、検査、診断と時間をかけても、結局なにもわからないという未来が晴輝には容易に想像出来た。


 それならば、晴輝の症状を改善、あるいは緩和する冒険家御用達のお薬に頼った方が早く、効果も期待出来る。

 同時に、副作用の心配もあるのだが……。



 ワーウルフ2体と戦ったあと、晴輝は大事を取って(火蓮とレアに大事を取らされ)、ダンジョンを出た。


 様々な冒険家を見てきた朱音なら、晴輝の症状になにか心当たりがあるかもしれない。

 そう期待しつつ、晴輝は朱音の店に足を運んだ。


 日差しの暑さにトロトロ溶けていた朱音に、晴輝は自らの症状を告げる。


「この症状を軽くする薬はあるか? 出来れば、改善薬が欲しいんだが……。最悪鎮痛剤でも構わない」


 薬を取り寄せて欲しいと告げた晴輝の言葉に、だらしなくカウンターに寄りかかっていた朱音が、顔色を変えて体を起こした。


 プレハブの温度とは裏腹に、朱音の表情は冷たく、どこか深刻だった。


「……アンタ、冒険家を引退する気はある?」

○新着情報○

『冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略~』7月発売(予定)


なんと、早くも楽天ブックスに予約ページが出現しておりました。

(楽天は早いですね……ビックリしました)

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