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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない
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エピローグ 中でも強いもの

 車庫のダンジョンに現れた稀少種を討伐してから半月ほど経った頃、晴輝と火蓮宛に小包が届いた。


 小包は一菱武具販売店経由で届いた。

 送り主の名はマサツグ。


「「――は!?」」


 その送り主の名を見て、晴輝と火蓮は同時に驚きの声を上げた。


 勇者マサツグ。

 日本を震撼させた第二次スタンピードにより、長期間奪われ続けた新宿駅を解放した男だ。


 ランカーで固められたチームでスタンピードのボスを撃破。

 その中心人物たるマサツグは、益々日本の星として輝きを増していっている。


「マサツグさんから俺たちに荷物が?」

「それをアタシに聞かないでよ」


 荷物は一菱の輸送ルートを用いて送られてきたが、朱音は送り主がマサツグだとは知らなかったようだ。

 彼女は興味津々というふうに晴輝の荷物に目を輝かせている。


 日本で最強と謳われる勇者マサツグから、直々に荷物が届いた。

 それも、ほとんど名が知られていない晴輝と火蓮に宛ててだ。


 一体なんの冗談かと、晴輝は眉根を寄せる。

 しかし荷物の輸送に一菱を用いている以上、冗談ではないはずだ。


 日本最強であり、日本の将来を背負う男。

 その肩書きを持つマサツグでなければ、大企業一菱を運送屋代わりに使えるはずがない。


 となると、ますます中身が気になってくる。


「まず火蓮から開けてみてくれ」

「え、私からですか?」


 晴輝も荷物の中身が気になっているが、火蓮ほどではない。

 彼女は先ほどから目を爛々と輝かせながら荷物を持って掲げたり、傾けたりしている。

 まるで大好きなアイドルから手紙を貰ったファンのような反応である。


 そこまで火蓮が反応してしまうのも、仕方が無い。

 なんせ相手は誰もが知る『なろう』のトップランカー、勇者マサツグなのだから。

 晴輝だって、胸の高鳴りを抑えるので精一杯だった。


「じゃあ……開けますッ!」


 気合いを入れたように、火蓮は蜜柑箱の上に丁寧に置いた小包を、ゆっくりと開封した。


 30センチほどの小包の中には、十センチほどの丸い玉が入っていた。

 上が白く、下が赤い。まるでガチャガチャのカプセルを大きくしたような玉だった。


「……えっと」


 火蓮が困ったような表情を浮かべた。

 なんでしょう? と目で問われるが、晴輝も初めて見るアイテムである。

 答えようがない。


「あ、メモが入ってるぞ」

「ほんとですね」

「なんて書いてある?」


 火蓮が素早く二つ折りのメモを開いた。


「ええと……新しく見つかったアイテムみたいです。詳細鑑定では……全不明?」

「全不明!?」


 火蓮の言葉によほど驚いたのだろう、朱音の声がプレハブ内にビリビリと響き渡った。


「本当に全不明って書いてあるの!?」

「え、あ、はい」


 朱音の勢いに、火蓮が青ざめた。

 朱音のそれは、まるで大切な人の死を聞いたような反応だった。


「おい朱音。一体なにに驚いてるんだ?」

「詳細鑑定って、全部鑑定出来なくても種類は絶対に判るものなのよ。種類さえ判らなかったなんて、アタシは今まで聞いたことがないし」

「なんでいずれかは絶対判るんだ?」

「アンタはこれを見て、どんな武器だと思う?」


 そう言って、朱音は棒を取り出した。

 どこからどう見ても木の棒だ。その辺に落ちていたのか、薄汚れている。


「木の棒なら、棍棒か杖だろうな」

「そうね。で、詳細鑑定も同じことなのよ」

「……ああ、なるほど」


 晴輝は朱音の言いたいことがそれとなく理解出来た。

 詳細鑑定は、今し方晴輝が木の棒を見て『棍棒か杖』と判断したのと同じ感覚で、アイテムの種類を見極めるのだ。

 ただし、レベルは全くの別次元だが。


「一体どうしてこの玉の種類が判らなかったのかしら……」

「武具じゃないからとか?」

「武具以外でも判るわよ。薬とか素材とか。じゃなきゃ、アンタのワーウルフの素材も鑑定出来ないじゃない」

「……あ、そうか」


 たしかに、武具以外鑑定出来ないなら、晴輝がワーウルフの素材を詳細鑑定に回す意味などなくなってしまう。


 朱音は不思議そうな表情を浮かべながら、カプセルに顔を近づけた。


「ん? ねえなんか真ん中に切り込みが入ってるけど、これ開くの?」

「ほんとですね。――あっ、開くみたいです! メモに書かれてました。ただ……」

「……ただ?」


 一体メモになにが書かれていたのか。

 言葉を止めた火蓮に、晴輝も朱音も首を傾げた。


「何が出るかわからないって」

「どういう意味?」

「ええと……この玉は合計5つドロップしたらしいです。5つとも全く同じ見た目で、詳細鑑定も同じように全不明。試しに4つ開いたら、全部違う中身だったって」

「……ああ、だから全不明なのね」


 なにか気づいたように、朱音が何度も頷いた。


「なにか判ったのか?」

「ええ。たぶんだけど、この玉は開かれるまで中身が決定してないのよ。だから、鑑定をしても、絶対に判るはずの種類まで判らなかったの」

「中身が決定してない……」


 それは、晴輝にとってにわかには信じがたい憶測だった。

 しかし理屈は通っている。


「火蓮。そのカプセルを開けてみてくれ」

「は、はいっ!」


 少し表情を強ばらせながら、火蓮がカプセルを両手でこじ開けた。

 すると中には――。


「なにも入ってないぞ?」

「いえ……入ってます!」


 晴輝から見ると、カプセルの中身は空だった。

 しかし火蓮は否定し、素早くカプセルの中に手を入れた。


「なっ!?」


 肘まで入った!?

 目の前の光景に、晴輝はぎょっとした。


 しかしすぐに我を取り戻す。

 なるほど。あれはマジックバッグと似た効果があるカプセルなのか。


 晴輝の予想通り、火蓮はカプセルから――カプセルの口径より大きなブレスレットを引き抜いた。


「……デカいな」

「デカいわね」

「すごく、大きいですね」


 ブレスレットの直径は12・3センチほど。

 幅は通常サイズだが、手首に嵌めるものにしては直径が大きすぎる。


 ブレスレットは簡素で、意匠はない。

 ただ1点。ブレスレットの中央に小さな穴が一つ空いていた。

 まるで宝石をはめ込むような穴だ。


「首輪でしょうか?」

「腕輪だろ?」

「うーん」


 コテンと首を傾げながらも、火蓮がブレスレットに腕を通す。

 火蓮の手首では引っかかることもない。


「やっぱりぶかぶか――わっ!?」

「おお!」


 手を通すと、ブレスレットが縮小した。

 腕に密着しすぎず、かといってぶかぶかでもない。丁度良いサイズである。


「……こういうアイテムもあるんですね」

「アタシも初めて見たわ」


 武具のエキスパートである朱音さえも、目を丸くしている。

 どうやら火蓮のアイテムは、そうとう珍しいもののようだ。


「まさかとは思うが、このカプセルって、ガチャ玉か?」


 ガチャ玉はゲームに出てくるクジアイテムで、ノーマルから高ランクレアまでのアイテムが、決まった確率で排出される。

 開けるまで中身が判らず、また開けても同じ武具が出るとも限らない。


 まさに、ガチャ玉と呼ぶにふさわしいアイテムである。


「……かもしれませんね」

「たしかに。状況からいってその可能性は十分あるわね」


 晴輝の憶測に、火蓮と朱音が頷いた。


「朱音。そのブレスレットは、どういうものかわかるか?」

「……無理ね。資料にもないし、見ただけじゃさっぱりよ」


 朱音がお手上げというふうに首を振る。

 見た目はつるっとしている、ただのブレスレットにしか見えないのだ。

 詳細鑑定を持たぬ彼女では判るはずもない。


「このブレスレットですけど、魔法の通りが良いみたいです」

「ん? てことは、杖と同じ武器みたいなものなのか」

「あ、いえ。たぶんですけど、攻撃じゃなく守りを強化するアクセサリじゃないかなと。込めた力が薄い膜になって体に広がっているので」

「へえ、なるほど」


 魔力を込めると自分を守る魔法になるアクセサリ。

 防御力の低い火蓮にとっては願ってもないアイテムである。


 どの程度の防御力が確保出来るかは不明だが、それは追々ダンジョン探索で調べていけば良いだろう。


 ここまで火蓮にぴったりなアイテムを引き当てられたのは、火蓮の運スキルがきっちり仕事をしたからだろう。


 もしかして、運スキルをカンストさせてガチャ玉で高レアアイテムを引き続ければ、一財築けるんじゃないか? と邪な考えが頭を過ぎる。

 しかし、晴輝はすぐにその邪念を振り払った。


 そもそもガチャ玉を手に入れる機会が、そうそうあるとは思えない。

 市場に出回ったとしても、手が届く金額とは限らないのだ。


 機会があれば購入しても良いかもしれない。

 だが、しばらくはお預けになるだろう。

 現在の晴輝は、ほぼほぼ素寒貧なのだ。


「それじゃ、次は俺の包みだな」


 火蓮の包みは、紛れもなくスペシャルアイテムだった。

 では自分の包みには、どんなスペシャルアイテムが潜んでいるだろう?


 躍動する心臓を宥めながら、自らに宛てられた小包を開く。

 中には2枚のメモ。

 それと、謎の仮面が納められていた。


「仮面……」


 それは白一色の能面のような仮面だった。

 晴輝の仮面同様に、呪われそうな見栄えで装備するのがためらわれる。


 見ただけでは、どんな能力のある仮面なのかが判らない。

 晴輝はメモを開いて確認する。


 メモの冒頭。1行目に、四釜らの名が記されていた。

 間違いない。送り主はマサツグだ。晴輝はそう直感した。


 四釜らの行動とその結果について、マサツグはカゲミツから詳しく聞いたらしい。


“仮面くんに迷惑をかけて済まなかった”

“一緒に送ったアイテムは迷惑料だと思って受け取ってほしい”


 メモには四釜らの襲撃について、晴輝への謝罪の言葉が書かれていた。

“新宿での一件が片付いたら、仮面くんの下に正式に謝罪に伺おうと思ってる”とも……。


 それを読んだ晴輝は、違うと思った。


 マサツグは、間違ってる。


 俺の名前は空星晴輝だ!

 そしてハンドルネームは空気!

 仮面なんて、一度も名乗ってないっ!!


 くそっ! なんで仮面くんなんて呼ばれてるんだよ!!


 何故そう呼ばれているか判らない晴輝は、奥歯を噛みしめ涙を堪える。


 だがしかし、トップランカーが自分のことを認識してくれている。

 名前は違うが、マサツグが晴輝に手紙をよこしてくれたのだ!


 これは、かなり存在感がアップしたんじゃ!?

 一気に頭に春が来た晴輝は、涙も乾いて鼻歌交じりに2枚目のメモを開いた。


 そこには仮面についての、詳細鑑定のデータが書かれていた。


「仮面は……ええと……」


 名称:隠面 種類:仮面

 等級:特稀少級(スーパーレア) 品質:特

 効果:存在感を消失させる――


「朱音。こいつを処分しろ」

「ちょ、ま、処分!? なんでよ!? それ、勇者マサツグからのプレゼントでしょ? 処分なんてとんでもないわよ!!」

「持ってるだけで俺が死ぬかもしれないんだぞ!!」


 ちらつく存在感消失死の可能性に、晴輝は震えた。

 これはかなり、逼迫した状況である。

 出来ればいますぐ仮面を焼却炉に放り投げたい。


 くそっ。マサツグさんはなんでこんなものを!


 手元の仮面の説明書きを眺めると、晴輝は一番下にマサツグの筆跡で追伸が書かれているのに気がついた。


“PS.仮面くんは強い仮面を蒐集しているかと思って、中でも強いものを送ってみた。気に入ってくれると嬉しい”


 要らない配慮だった。


 しかも、

“中でも強いもの”

 恐ろしいワードである。


 晴輝は益々この仮面を処分――いや、消滅させたくなった。

 しかし朱音は断固とした態度を崩さない。


「その詳細鑑定の効果だけど、所々歯抜けでしょ? うちの鑑定士でも見えないなら、相当レベルの高い装備よ。しかも等級が特稀少級(スーパーレア)で品質が特。超絶レアアイテムよ! そんな商品、処分するなんてバカよバカ」

「しかしだな……」

「触れるだけで狙われにくくなるんだから、絶対に手元に置いておくべきよ」

「そんな危険物を手元になんて――ん?」


 触れるだけで狙われにくくなる。

 その言葉に、晴輝の中で何かが反応した。


「装備しなくてもいいのか?」

「そうみたいよ。ほら、この説明書きにあるでしょ?」


 目を落とすと、確かに詳細鑑定の紙に『触れている物体の気配を隠す』と書いている。


 なるほど。

 たしかに、マサツグが“中でも強いもの”と書くだけはある。


 益々危険な香りが漂い始めた仮面を前に、晴輝は楽しげに鼻を鳴らした。


 ――鞄に装着するのもアリだな。


 晴輝の脳内で、“隠密可動砲台ジャガイモ”の構想が広がり、固まった。


 あとで鞄に装着してみよう。

 隠密効果が発揮されれば、さらにレアが狙われにくくなるに違いない。



 こうして、マサツグからの荷物の開封という予想外のイベントを終えた晴輝らは、中一日空けて、ダンジョンの攻略を再開する。


 しかしこのときは誰も、予想だにしていなかった。


 まさか晴輝が、戦えない体になっていたなどとは……。

いつもお読み下さいまして、本当にありがとうございます。

以上で3章(1部)が完結となります。

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