討伐戦の後始末をしよう!
コミカライズ決定!
詳しくは活動報告をご覧下さい。
【新宿駅】新宿奪還作戦司令室 520棟目【奪還!】
890 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
まさに史上最大の作戦だったな
891 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
1万を超える冒険家がゾクゾクと新宿駅に入っていく風景は圧巻だったな
892 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
たしカニ
あれはマジで興奮した
人類の夢と希望を賭けた壮大な映画のワンシーンみたいだった!
893 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
新宿駅奪還には成功したけど
なんでボスいなかったん?
スタンピードの雑魚モンスも途中からおかわり無くなったし
894 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
逃げたのかもなー
いまマサツグさん達が躍起になって探してるらしい
895 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
ランカーはなんか言ってないん?
896 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
しばらくはマサツグさん達がダンジョンを巡回するってさ
それまで他の冒険家は新宿駅になるべく入るなって
897 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
入れって言われてもいやだわw
ただ終わったっぽい雰囲気は出てるよな
ゲートが使えるようになってたし・・・
で結局ボスはどこに行ったんだろうな?
898 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
さてなあ
ダンジョンに吸収されたか
それとも別のダンジョンに移動したか
899 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
怖いこと言うのやめーやww
地元のダンジョンに戻ったらばったり出くわした!
なんて怖すぎるわw
900 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
まあなー
でもま
みんなマジでお疲れ!
901 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
お疲れっした!!
902 名前:新宿奪還に成功した栄えある名無し
乙!!
*
朱音は決死の覚悟を持って、15階のゲート部屋から飛び出した。
「アンタたち、アタシが来たからにはもう大丈夫よ!」
朱音の気合いに満ちた声が、静まりかえった草原に響き渡った。
平原には紫色のワーウルフが大量に倒れ込んでいる。
朱音の立ち位置から見えるすべての魔物はもう、息をしていない。
吐き気を催す血の臭いと、死体が生み出す静寂に、朱音の背筋が震えた。
まさか、晴輝達は死んでしまったのでは?
アタシが、来るのが遅れたせいで……。
顔がみるみる青くなっていく朱音の耳に、
「……おい」
太く低い声が響いた。
この声はカゲミツのものだ。
パァッと表情を一気に明るくし、朱音は振り返る。
そこには血にまみれたカゲミツ。
意識のない晴輝と、それを介抱する火蓮の姿があった。
それを見て、朱音は安堵の息を吐き出した。
みんな、生きてて良かった……。
「お前、一体なにしに来たんだ?」
「なによ失礼な口ぶりね。この朱音様が助けに来てやったんじゃない!」
朱音は恩着せがましくふんぞり返る。
しかし、
「全部終わったぞ」
「……へ?」
「だから、希少種討伐は終わったって言ってんだ」
「ええと……」
「お前、来るの遅すぎ」
「いやいやいや! 嘘でしょ? う、嘘よね? 冗談なんでしょ!?」
「嘘じゃねえよ。てか嘘ついてどうすんだよ」
「じゃあ……アタシの……出番は?」
「…………ッチ(使えねえ)」
「アハーッハハァーン!!」
カゲミツの辛辣な舌打ちに、朱音は一気に青ざめボロボロと涙を流すのだった。
*
目を覚ました晴輝はまず自分と、それに火蓮とカゲミツの無事を知り安堵した。
強烈なレベルアップ酔いに罹かったときはどうなるかと思ったが、カゲミツと火蓮がなんとかしてくれたようだ。
頼りになる冒険家達である。
一切頼りにならなかったのは朱音だ。
アタッカーがもう1人いればなんとかなる、とか豪語していた。そんな朱音は、鹿討伐戦に参加するものだと晴輝は考えていたが、彼女は戦闘には参加しなかった。
もちろん、逃げたわけじゃない。
登場したタイミングが遅すぎたのだ。
彼女が現れたのは戦闘終了後。
間が良いのか悪いのか。
そのことをカゲミツに詰られた朱音は、ずるずると鼻をすすりながら、一人で紫色のワーウルフの山を解体している。
いまはまだダンジョンの中。ダンジョンの外に魔物の死体を運び出したわけではない。
手早く解体せねばいずれダンジョンに吸収されてしまうだろう。
自分も手伝った方が良いのでは?
そう尋ねようとしたとき、晴輝の視線の先で新たなワーウルフがポップした。
紫色ではなく、通常のワーウルフだ。
そのワーウルフは解体中の朱音に素早く近づき、
「あぶな――」
「ふんぬっ!!」
気合い一発。
死角からの攻撃だというのに、朱音はトンファのような武器をワーウルフの首筋に素早く打ち込んだ。
たった一撃で、朱音は首の骨をたたき折った。
急所を的確に突いた、見事な一撃だった。
首の骨が折られたワーウルフは絶命して地面に転がった。
まさかたった1撃で倒すとは……。
朱音の攻撃の練度に、晴輝は目を丸くした。
「……はっ!?」
よほど解体に夢中だったのか。
攻撃した本人は今まさに何かに気づいたかのように、地面に倒れたワーウルフを見て頭を抱えた。
「あ゛あ゛あ゛っ!! 解体しなきゃいけないワーウルフが増えちゃったんですけどぉ! もぉ解体はいやぁぁぁ!!」
そして、ボロボロと涙を流す。
……不憫だ。
「俺達も手伝った方が良いんじゃないか?」
「戦闘に参加しなかったんだ。それくらいの罰は必要だろうよ」
「罰って」
晴輝と朱音はチームメンバーではない。
戦闘に参加しなかったからといって、罰を与えるようなことではない。
しかし世の中には適材適所という素晴らしい言葉がある。
朱音は素材販売店の店員らしく、是非ともその解体の腕を存分に振るってもらうことにしよう。
晴輝はカゲミツに向き直る。
「カゲミツさんが来てくれて助かった。本当にありがとう」
「俺も『ちかほ』じゃ助けられたからな。恩返しみたいなもんだ」
気にするな、とカゲミツが照れくさそうに頬を掻いた。
「――ってそうだ! お前はなんで一人で突っ込んだんだよ!?」
「え?」
カゲミツに詰め寄られ、晴輝はぽかんと口を開けた。
「だってカゲミツさんが、倒せって」
「誰が倒せって言った!?」
「いや、俺に任せろって……」
カゲミツが意味ありげな表情を浮かべ『こっちは俺に任せろ』と口にした。
晴輝はそれを『こっち(火蓮の防御)は俺に任せろ(ボスは頼むぞ!)』と解釈したのだが。
「誰もそんなこと言ってねぇよ……」
泣きそうな顔をして、カゲミツが頭を抱えた。
「てかあのまま鹿のワーウルフ切れを待てば、わざわざ危険な中特攻しなくても勝てたかもしれねぇだろ……」
「…………あっ」
たしかに、と晴輝は思った。
思ったが表情に出ないように動揺を抑え込む。
間違ってしまったのは事実だが、結果的に上手く行ったのだ。
なにも怯える必要はない!
「たた、弾切れは無かったかもしれなひじゃなひかっ?」
「落ち着け。声が裏返ってるぞ……」
激しく動揺した空気を目にし、カゲミツは頭をかきむしった。
本当に、なんの考えもなかったのかよ。まったく……。
カゲミツの観察では、鹿の戦闘能力はかなり高かった。
雷魔法で動きが乱れていたが、それでも『ちかほ』の30階の魔物に相当する実力はあった。
それを何故、現在最高到達階層が15階の空気が倒せたのか?
己の目で見た光景にも拘わらず、カゲミツはいまだにこの結果が信じられなかった。
結果だけを見れば、空気はあのリザードマンさえ一人で倒せるレベルだということになる。
少し前まで10階に出たばかりの冒険家が、だ!
たった1ヶ月で30階の魔物と対等に戦えるほど急成長するなど、普通ではあり得ない。
実際、鹿の魔物を倒した途端に、空気はレベルアップ酔いで意識を失った。
このことから、彼は30階で狩りをする適正レベルから大きく外れていることが判る。
では何故空気は短剣で、己の到達階層の倍はある魔物を倒せた?
何故、何故、何故……。
カゲミツの頭からは次々と疑問が溢れてくる。
(もしかしたら空気はもう――)
カゲミツが立てた仮説は現実的ではないものだった。
しかし、それ以外にはあり得ない。
ここで、空気をきっちり問い詰めておきたい。
だが個人の実力を問いただすのはマナー違反だ。
冒険家はみな共闘関係にあるが、競合相手でもある。
大企業が自らの技術を秘匿するのと同じ理由で、冒険家は自らの技術や能力を秘匿している。
空気の能力を聞き出すわけにはいかない。
少なくとも、今は……。
「マジで死ぬかと思って、なまら焦ったんだぜ?」
「それは……本当に済まなかった」
「だがそれで生き残って、おまけにボスを討ち取るとはな……。ほんと、お前には驚かされっぱなしだ」
「おお。ランカーに褒められた!」
「褒めてねえよ!」
カゲミツの大きな拳が晴輝の胸を打つ。
彼の思いが乗ったのだろう、容赦ない一撃だった。
最後の軽口は余計だった。
痛みに顔をしかめつつ、晴輝は口を開く。
「話は変わるが、この戦闘で見たことについてなんだが――」
「ああ、わかってる」
晴輝の言葉に、カゲミツが真顔で頷いた。
火蓮の魔法がどれほど優れているか。
優れているが故の爆弾にも、カゲミツは気づいているはずだ。
今回の戦闘で、晴輝らはカゲミツに手の内を晒した。
だからといって、彼は晴輝らに悪辣な条件をふっかける人物ではない。
それを晴輝は、『ちかほ』の一件で知っている。
念のために尋ねてみたが想像していた通りの反応が返り、晴輝はホッと胸をなで下ろした。
「ただ、その代わり――」
真顔になったカゲミツの声色に、晴輝は思わず身構える。
一体どんな条件を突きつけられるか。
晴輝は緊張し、ごくりと唾を飲み込んだ。
「この戦闘が“あったこと”を、誰にも口外するな。鹿の稀少種を倒した、ってのもダメだ」
「え? ブログでもか?」
「ブログでもだ」
「マジか……」
晴輝はガクリと項垂れる。
見たことも聞いたこともない稀少種との戦いを記事にすれば、ブログのアクセス数が増加したかもしれない。
冒険家としての存在感が増したかもしれないのに!
晴輝は泣きそうな顔になり、カゲミツを見る。
「……そんな顔すんなよ。大体、お前がブログの内容について、俺が突っ込まれてみろ。魔法について、どっかでボロが出るかもしれねぇだろ」
「じゃあ、カゲミツさんが参加したことを伏せて記事にすれば――」
「それもナシだ。ボロを出す可能性はゼロが良い、ってのがリスクマネジメントってもんだ」
「……ぐぅ」
カゲミツの理屈は正しい。
正しいが故に、晴輝は悲しみのどん底へと突き落とされた。
俺の、存在感アップへの道が……。
遠のいていく理想の未来に、晴輝はがっくりと肩を落とすのだった。
朱音が解体を終えるまで休憩し、解体が終わると地上に戻って素材の整理を行う。
今回得られたワーウルフの素材は、全てが鑑定不能だった。
原因は稀少種の鹿だ。
鹿の特殊スキルにより、ワーウルフが紫色に変色してしまったのだ。
解体しても紫色は元に戻らなかった。
変色により素材の性能があるか、それすらも判らない。
「鹿もそうだしワーウルフもそうだけど、一菱の資料にさえ載ってないのよ。だから鑑定は不可能。価格の算定も無理ね」
分厚い資料を閉じた朱音が、肩をすくめてそう口にした。
彼女が手にした資料は、一菱がこれまで詳細鑑定を行ってきた内容を纏めた、アイテムデータベースだ。
このデータベースがあれば、どの支店でも一定レベルの鑑定が行えるようになる。
朱音の疑似鑑定も、このデータベースが元になっている。
「これを適正価格で買い取るには詳細鑑定するしかないけど」
「うーん。このまま買い取れないのか?」
「買い取れるけど。適正価格を大きく下回ったらアンタは大損よ?」
晴輝は朱音が解体した素材の山を見てため息を吐き出す。
詳細鑑定には1品10万円近くかかってしまう。
だが晴輝はカゲミツに依頼の報酬を、朱音には解体労働費用を支払わねばならない。
「ま、アタシは儲かるからそれでも良い――」
「わかった、詳細鑑定を頼む」
「……ッチ」
ワーウルフの素材は、無傷なら1万円から5万円ほどだ。それが何体分になるか。
詳細鑑定をしても、十分利益は確保出来るはずだ。
少しでも元を取るために、晴輝は詳細鑑定の依頼を行うことにした。
詳細鑑定が行われるまで、おおよそ1ヶ月かかる。
つまり、利益の確定は早くて1ヶ月後。
それまで、懐が寂しい日々を過ごすことになりそうだ。
ボス素材だけは、晴輝は朱音に販売するつもりはなかった。
というのも、鹿の外皮は非常に硬く、これを用いれば現在装備しているワーウルフの防具より数段上の防具が製作出来るだろうからだ。
晴輝はこれを、次の装備を作る材料にするつもりだった。
ただ、現状では晴輝も火蓮も、鹿の防具を装備するだけのレベルが足りない。
装備出来るレベルになるまでは、朱音に預かってもらうことになった。
鹿の素材でもう1つ使えるものがあった。
角だ。
「見たところ、武器素材になりそうな硬度はなさそうなのよねぇ」
そんなはずはない。
晴輝は眉を寄せた。
ワーウルフの短剣と接触したのに、角には傷一つついていないのだ。
硬度が低いはずがない。
そう思った晴輝だが、手にして確認すると確かに武器素材になる特有の“詰まり”が感じられない。
2本の角を軽く接触させてみるが、乾いた木のような音がした。
たしかに武器に出来るほどの素材ではない。
「変だな。戦ってたときは間違いなく硬かったんだが……」
「硬度が変化したのよ。死ぬと性質が変化する素材って、案外珍しくないのよ」
ワーウルフの短剣を超える、新たな武器素材になるかもと思っていただけに、晴輝は大きく落胆した。
その晴輝の鼻孔を、不意に刺激臭がくぐり抜けた。
「……ん?」
この匂い。
一体どこから?
それは、覚えのある香りだった。
香りが脳を刺激すると同時に、胃袋が動き出す。
晴輝はスンスンと鼻を鳴らし、匂いの出所を探る。
すると、その原因はすぐに判明した。
「……まさか、角?」
どうやら刺激臭は角から香ってくるようだ。
試しに角に鼻を近づけると、
「うおっ!?」
臭いの刺激に、晴輝は思わずのけぞった。
心臓が、早鐘を打つ。
臭いに刺激され、口の中いっぱいに唾液が広がった。
「これは……」
「空星さん、どうなさったんですか?」
火蓮が怪訝な表情を浮かべながら、晴輝の顔をのぞき込んだ。
だから晴輝は、火蓮の質問に答える余裕はなかった。
体が、小刻みに震える。
まさか、そんな。
その言葉がグルグルと回る。
しかし、否定しようがない。
晴輝の脳内に浮かんだ、アイテムの正体を口にした瞬間。
「――――ッ!!」
小さなプレハブに、大きな衝撃が走った。
「……ッチ(使えねえ)」
ということで、足りないのは朱音さんでした。
○角についてのヒント
キルラビットの角は、お薬に使われておりましたね?
鹿の角はリアルでも漢方に使われます。
さて古今東西、薬は沢山種類がありますが、漢方・薬膳と呼ばれる(ry
1章の晴輝の独白でも、既に答えが(ry
ということで、ヒントはここまで。
次話をお楽しみに!




