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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない
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己の殻を破り捨てよう!

1章「愛する町を守りぬこう!」の、重大なミス(固有名詞の間違い)を訂正いたしました。

ご指摘して頂いた方、感謝いたします。

「――空星さんッ!!」


 緊急事態だというのに、火蓮は我を忘れて叫んだ。

 自分を逃がそうとした晴輝が魔物からの攻撃を受けた。

 しかも直撃だった。


 晴輝の体がくの字に折れ曲がる。


 空星、さん……。


 火蓮の全身の血液が凍り付いた。

 このままでは空星晴輝が、死んでしまう。


 強烈な絶望が火蓮を支配する。

 彼の死を想像した途端に、火蓮の視界から色が失せた。


 まただ。

 また、自分はなにも出来なかった。

 邪魔ばかりして、彼に迷惑をかけた。


 本当は彼の力になりたいのに、

 なりたくて努力していたのに。


 努力はなににも結びつかず、

 結局彼を、窮地に追い込んでしまった。


 絶望が、思い出したくない過去を引きずり出す。


 自分を助けるために盾になって死んだ両親の姿と、現在の晴輝。

 少しも恩返しが出来なかった。そのことに、後悔しつづけた過去。

 情景が蘇り、光景が重なり、オーバーラップする。


 また、自分はなにも出来なかった……。

 絶望に、涙があふれ出す。


 ――これでいいのか?


 突如頭に声が響いた。

 あるいはそれは、自問か。


『魔物の命を奪うというのに、

『誰かの命を救おうというのに、

『君はいまだになにも賭けようとはしていない。

『いつまでも偽物。

『ごっこ遊びだ。

『君の覚悟はその程度か?』


 ――違う!

 火蓮は強く否定する。


『だったら覚悟を示せ。

『躯を賭けろ。

『命を賭けろ。

『魂を賭けろ。

『すべてを差し出せ。


『そして力を望め。

『全てを守る力を。


『たとえ化け物になったとしても、

『大切なものを守り抜く力を手に入れる覚悟をするんだ。


『私は何よりも暗く、何よりも強い。

『人間のエゴイズムを肯定する。


『自分勝手で頑なで、

『考えが甘くてはた迷惑。

『そんな君の――身勝手な愛を!

『私は全力で肯定する。


『だからさあ、

『偽物を捨てろ。

『本物に臨め。

『そうして目の前にある、絶望に反逆するんだ!』


 強い声が、徐々に遠ざかり、消える。

 だがその存在はまだ、火蓮にしっかりと寄り添っていた。


 大切なものが失われる未来に絶望していた火蓮が、消えてなくなった。


 後に残ったのは(おもい)


 火蓮は立ち上がる。

 涙を拭い、唇を噛みしめて。


『覚悟は出来たかい?』

『じゃあ、この手を掴んで』


 火蓮は杖を高々と掲げた。


 火蓮の世界に色が戻り、

 瞬間。

 上空より、無数の雷撃が鹿へと落下した。


 ――ドドドドドドドド!!


 何発も、何発も。

 木の幹より太い雷が、鹿の角に直撃する。


 直撃した鹿の筋肉が、ギチギチと歪み痙攣する。


(絶対に助ける)

(私が、助けるんだ!)


 たとえ命が燃え尽きても、誰かに馬鹿にされようとも、

 化け物と言われても、命を狙われるようになったとしても。


(私はもう2度と、目の前で大切なものを失いたくないから……)


 杖に魔力を込めて、収束させる。


(――だからっ! この力で、未来を変えるんだ!!)


 ――ィィィイイイン!!


 これまでにない膨大な魔力が、火蓮のコントロールを離れることなく杖に注ぎ込まれていく。


 火蓮は否定する。

 弱い自分を否定し、

 最悪の結末を否定する。


 ――ッタァァァァン!!


 まばゆい光と共に、杖の先端から放たれた雷撃が鹿に直撃。

 その攻撃がダメ押しとなり、鹿が完全に崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……」


 あれほどの雷撃を受けたというのに、鹿にはまだ息があった。

 現在は雷撃で、動きを封じただけにすぎない。


 これが回復したら、いますぐお前の命を奪ってやる!

 そんな強烈な殺意が、火蓮の体に突き刺さる。

 しかし、念に満たされた火蓮はもう、鹿の殺意に怯えなかった。


 鹿が一時的に行動不能になったのを確認し、火蓮は晴輝に目をやった。


「空星さ――――あれ?」


 地面に倒れ込んだだろう晴輝の姿が、あるべき場所から消失していた。


 ――まさか。

 火蓮の脳裏に嫌な想像が浮かぶ。


 火蓮は晴輝から、鹿がワーウルフを攻撃している話を聞いていた。

 黒紫色の塊が直撃すると、ワーウルフが地面に飲み込まれていくのだと。


 先ほど、黒紫色の塊が晴輝に直撃した。

 だからもしかしたら、彼は地面に取り込まれてしまったのではないか?


 火蓮の耳に、血の気が失せる音が響いた。


「いやすごい魔法だったな。ビックリしたぞ」

「にょわ!?」


 突然真横から声が聞こえて、火蓮は飛び上がった。


 その声は――確認するまでもない。


「空星さん!!」


 火蓮が歓喜に沸いた。


          *


 一体どこからそんな声が出たんだ?

 火蓮の裏返った声を聞き、晴輝は状況を忘れて疑問を抱いた。


「い、生きてたんですね!」

「勝手に殺すな」


 死んだとは思っていないにせよ、大けがをしたとは考えたのだろう。

 晴輝がむっつり顔で答えると、火蓮がへなへなと崩れ落ちた。


「一体どうして。攻撃が直撃しましたよね?」

「そうだと思ったんだがな」


 晴輝は足に絡みついたなにかに意識を取られた瞬間、鹿から攻撃を受けた。


 大ダメージを受けたと、晴輝も思った。

 だが現実は違った。


 攻撃が当たった腹部には、ちょうどエスタがいた。

 そのエスタの甲殻が、ボスの攻撃をあっさり弾いてしまったのだ。


 攻撃を受けたエスタの甲殻には、傷一つない。

 軽減スキルを上げたが、まさかここまでダメージを受けないとは。

 その軽減率の高さに、晴輝も大いに驚いた。


 攻撃が直撃した本人(?)は、褒めて褒めて! と触角をしきりに動かしている。


 うはは。くすぐったいから止めてくれ。

 晴輝はぽんぽんとエスタの甲殻をなでつける。


 しかしながら、エスタの活躍より驚かされたのは火蓮だ。

 晴輝が攻撃を受けた直後、彼女は恐ろしいほどの雷撃を空から、何発も鹿にぶち込んだのだ。


 通常の魔物であれば、間違いなく消し炭になっていた。

 それほどの威力。


 衝撃の余波が離れた晴輝の横隔膜を押し上げるほどだった。


「火蓮はよく、俺がダメージを食らった直後に魔法を放てたな」

「……え? すぐには撃ってないですけど」

「いや、撃っただろ?」

「ふえ?」


 互いに首を傾げ合う。


 晴輝の感覚では短時間だ。

 それこそ、コンマ数秒の出来事だった。


 戦闘時の集中力により、いずれかの時間感覚が狂っていたのだろう。

 晴輝はそう結論付け、スキルボードを取り出した。


 先ほどの攻撃は、いままでの火蓮のスキルレベルではあり得ない。

 なのでおそらくは、何かしらのスキルが上昇したはずだ。

 そう晴輝は考えていたのだが、


「――ぉお!」


 火蓮のスキルツリーを見て、晴輝は思わず声を上げた。



 黒咲火蓮(18) 性別:女

 スキルポイント:9

 評価:精霊師槌人

 加護:平和者<?????>→雷鳴神人<オキクルミ>


-特殊

 運1

 加護2→MAX



「加護がカンストしてる」

「え!?」


 晴輝の言葉に、火蓮がスキルボードを覗きこんだ。

 彼女も、まさか加護がカンストしたとは思っていなかったようだ。


 しかし、オキクルミか……。

 晴輝はその名に、僅かばかりの憧憬を抱く。


 オキクルミはアイヌ神話に登場する、人間と共に育った神だ。

 父に雷神カンナカムイを持つ神人。

 人に文化を与えた面から文化英雄という名で呼ばれることもある。

 神体は雷鳴で、アイヌの人々は雷の音でオキクルミの来訪を感じたと云われている。


 人間と共に生き、人間のために魔物と戦う。

 そうして魔物を退治し、人間の世界に平和をもたらす。


 まさに北海道出身の冒険家にぴったりな加護だった。


 スキルツリーを眺めていると、晴輝は鹿が起き上がりそうな気配を捉えた。


 いけるだろうか?

 素早く脳内で計算する。


 先ほどの激しい雷撃でも、鹿には致命傷を与えられていない。

 だが先ほど晴輝が鹿から感じていた強烈な威圧感が、今では綺麗さっぱり失われていた。


 見れば、鹿の筋繊維はいまだに十全に動いていない。

 火蓮の雷が強力なデバフになったようだ。


 潮目が変わった。

 その変化を、晴輝は敏感に察知した。


 異様に硬い魔物だが、スキル次第でなんとかなるか……。


「火蓮」

「はい」

「魔法の威力を上げればアイツを倒せるかもしれない。やるか?」

「……はいっ!」


 以前とは違う。

 スキルボードの力を受け入れる火蓮の瞳に、晴輝は感心しつつ頷いた。


 ほんの数秒目を離した。

 ただそれだけで、彼女の瞳の色が明らかに変化した。


 ――変わったな。


 火蓮はようやっと、冒険家としての覚悟を瞳に宿した。

 魔物を殺す、化け物になる覚悟を。


 相手の命を奪う以上、潔癖ではいられない。

 潔癖さを望めば、必ず命のやりとりの最中で失敗する。


 それが、これまでの火蓮だった。

 もちろん晴輝も同じ轍を踏んだ。

 晴輝は火蓮より一歩だけ早く抜け出せたが……。


 火蓮の変化にしみじみしつつも、晴輝は素早くツリーをタップした。



 黒咲火蓮(18) 性別:女

 スキルポイント:9→0

 評価:精霊師槌人→精霊王槌人

 加護:雷鳴神人<オキクルミ>


-生命力

 スタミナ2

 自然回復1


-筋力

 筋力1


-魔力

 魔力3→5

 魔術適性3→5

 魔力操作3→5

  変化<雷>2→4


-敏捷力

 瞬発力1

 器用さ2


-技術

 武具習熟

  鈍器1

  軽装1


-直感

 探知1


-特殊

 運1→2

 加護 MAX



 魔法系のスキルを5へ。

 良い状況を呼び寄せるため、1ポイントだけ運に振り分けた。


 晴輝はスキルボードを収納する。


「魔法の威力が大幅に変化してる。気をつけて使ってくれ」

「はい」

「それじゃ……いくぞ!」

「はいっ!」


 晴輝がかけ声をかけたのは、鹿が立ち上がるのとほぼ同時だった。


 晴輝は短剣を構える。

 鹿が走り出したそのとき、


 ――ッタァァァン!!


 火蓮の雷撃が鹿に直撃。


 チャージ時間は極小。

 スキル上昇により変化を知る火蓮は、きっちり魔力を抑えて雷撃を放っている。


 だが威力は以前とは比べものにならない。

 ほぼチャージ時間のない雷撃が、鹿の筋肉を僅かに痙攣させた。


 その隙を、晴輝は見逃さない。

 全力で前に飛び出した。


「――ッ!!」


 激しい加速。

 たった1歩で飛び越える。

 これまでの2歩。


 晴輝は瞬く間に接近し、攻撃。

 鹿の皮を、短剣が浅く切り裂いた。


「――硬っ!」


 鹿の皮は、かなり固かった。


 とはいえ現在の晴輝は心技体がバラバラ。

 洗練なんてあったものじゃない。


 スキルを上げてから、調整さえしてない。

 つまり、上手く力を扱えていないのだ。


 心技体が重なればダメージを与えられるようになるか……。

 自らの体の動きと、相手の堅さを確認し離脱。

 同時にレアが投擲。

 晴輝の肩に反動が伝わる。


 ――ダダダダダ!!


 ジャガイモ弾が鹿の体にヒット。

 レアの攻撃はかなりのものだが、数発で怪我をさせられるほど相手の防御はヤワじゃない。


 とはいえ、無視出来ない威力はあるようだ。

 火蓮に向かっていた鹿の憎悪が晴輝に移動した。


 そこに、


 ――ッタァァァァン!!


 雷撃が再びヒット。

 鹿が再び膝を突いた。


 チャンス!

 一気に攻めようと踏み込んだ晴輝だったが、


「――!」


 鹿から放たれた威圧に反応。

 即応した体がその場を離脱する。


「ゲゲゲゲゲ」


 鹿が空を仰ぎ、喉の奥から呻くような声を発した。


 鳴き声は、ニホンジカと同じ。

 敵を威嚇するものだ。


 だが晴輝は緊迫した。


 何故わざわざ隙を見せてまで鳴き声を上げたのか。

 相手の狙いが、まるで読めない。


 じり、と足を動かし様子を窺う。

 ――何が起こる?


「か、空星さん!」


 背後で火蓮の悲鳴が響いた。


 咄嗟に振り返りそうになり、晴輝は理性を総動員して食い止める。

 いま振り返れば、鹿に攻撃される。


 振り返る代わりに、晴輝は探知の出力を上げる。

 そして、気づいた。


「…………嘘だろっ!?」

鹿の「ゲゲゲ」という鳴き声は威嚇です。

発情期の雄が他鹿に対抗するときは「ミーフーン」。

雌へは「ミミミ」「ミィー」と鳴きながら近づきます。(わりとどうでもいい


ようやっと「神様当てクイズ」最後の解答が出そろいましたね。

(判るはずがない問題で、すみません……)


【裏設定】

○火蓮の雷魔法について補足

 神話では『青年期を過ぎたオキクルミのもとに、神が使わした大鹿(試練)が現われ、これを破り』ます。

 この神話の通り、火蓮の雷には『鹿特効(大)』他が付与されております。これがなければ晴輝らは……(ry


 火蓮だけでなく、晴輝とレア、エスタにもそれぞれ『特効・補正』の設定があります。

 一番伏線を盛り込んでいるのがレア。

 エスタは、なんとなく想像出来そうですね。

 晴輝は伏線がほとんど無いですが、想像はつきそうです。

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