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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない
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中札内ダンジョンで依頼をこなそう!3

 地鶏肉を鞄に詰め込み、晴輝は9階のボスの元へと向かう。

 9階のボス部屋で待っていたのは、巨大コッコだった。


「…………あれ?」


 晴輝は何度も瞬きをする。

 見間違い……ではない。ボスは紛れもなく、ビッグコッコだ。


 現階層は9階。それは間違いない。

 先に階段が見えるので、ボス部屋を間違えているわけでもなさそうだ。


 なのに何故、中層の門番こと9階のボスがビッグコッコなのだろう?


「あれぇ?」


 てっきり亜人タイプのボスだとばかり晴輝は考えていた。

 だが現れたのは、ビックコッコ。

 車庫のダンジョンの7階に登場したものと、同じ見た目である。


「もしかして、中札内ダンジョンだからか?」


 晴輝は思い出す。

 中札内ダンジョンは、北海道の中でも最も難易度の低いダンジョンだということに。


 まさかその難易度の低さをこのような形で、はっきり視認出来るとは、晴輝は予想だにしていなかった。


「……いや、強いのか?」


 とはいえ油断は禁物だ。

 亜人タイプではないといっても、ボスはボス。


 見た目ではわからないが、ものすごく強い可能性がある。

 晴輝は気を引き締めて、戦闘態勢に入った。


 レアが晴輝の肩でノズルを固定した。

 エスタが腰で、力をため込んでいる。


「……すぅ」


 一度深呼吸をし、晴輝は全力で移動。


 晴輝は時雨の動きをなぞる。

 予備動作を極小にし、前へ。


 相手に動いていると気づかせない。

 気づいた時にはもう、移動を終えている。


 その華麗な動きでボスの間合いに入り込む。


「――ッ?!」


 短剣を構えたところで、ようやっとボスが気がついた。


 成功だ。

 だが甘い。


 晴輝は攻撃に移る前に気づかれた。

 時雨なら、攻撃が当たるまで気づかれない。


 己の甘さに奥歯を噛む。


 晴輝の攻撃は、ボスの首にあっさり滑り込んだ。

 ボスは回避行動を一切取らなかった。


 さく、と首の半分を切断。

 動脈が裂けて、血が噴き出す。


 そこに、レアが弾丸を連射。

 数発の弾丸が切断を免れた頭部を吹き飛ばした。


 そしてエスタが体当たり。


 エスタがボスの体にぶち当たる。

 ボスの体はあっさりエスタに押し流され、壁に激突した。


「…………あれぇ?」


 攻撃を終えた体勢のまま、晴輝は首を傾げた。


 やはり弱い。

 これが中層の門番?

 あり得ない……。


 ボスがこの程度なら、ここは中級冒険家を量産出来る。


 事実、中級になるために難易度の低いダンジョンを狙う冒険家は、少ないながらも存在する。

 中級になって箔を付けるのだ。


 中層に出れば加護が得られる。

 加護で能力が底上げされる。

 強い冒険家が量産出来るではないか!


 晴輝は僅かに興奮し……しかしすぐに頭が冷却される。


 さて、それでは現在中級冒険家は量産されているだろうか?

 ――いや、されていない。


 ダンジョンの難易度の違いは、周知の事実だ。

 それでも、中級冒険家が量産されていない。


「やはり魔物が弱すぎるからか?」


 弱いダンジョンで中級になっても、強いダンジョンで活動出来るわけではない。


 中層に出れば加護がもらえる。

 このことを知っているのは晴輝と火蓮だけだ。


 他の人は、強くなった気がする? 程度の噂話しかしない。

 メリットが体感しにくい。


 中級冒険家になったからといって企業が必ずバックアップしてくれるわけではないし、素材の買取金額が上がるわけでもない。


 武具販売店や素材買取店の店員は、客の実力をしっかりチェックしている。

 自ら中級を名乗ったとしても、待遇がすぐに変わるわけではないのだ。


 レベルを下げてでも中層に出たいという輩は、一定数はいる。

 しかし無理に中層に出ても、得られるものがほとんどない。

『自分は中級冒険家』だと肩で風を切るのが関の山だ。


 冒険家は命を張っている。

 背伸びをすれば命はあっけなく失われるのだから、到達階層をブーストする冒険家は現れにくいのだろう。


 そう自らを納得させ、晴輝は10階に向けた歩みを進めた。


          *


 いつもと同じ時間にホテルから移動してきた火蓮は、既に改札前で待機している朱音の姿を見て小走りで駆け寄っていった。


「火蓮おそーい」

「すみません。お待たせして」

「折角空気がいないんだから、ちゃっちゃかレベリングしちゃうわよ!」


 朱音がメラメラと闘志を燃やしている。

 どうやら彼女は晴輝がいないあいだに、火蓮を大きくレベルアップさせて度肝を抜いてやろうと考えているらしい。


 そも、彼女は一菱武具販売・素材買取店の店員でありながら、冒険家育成サポータとしても(表だってはいないが)活動している。


 一菱がスポーンサードする可能性のある冒険家へは、普段武具販売や素材買取などを行っている店員が直接関わり冒険家の育成を行うのだ。


 彼女が張り切っているのは、サポータとしての力を晴輝に見せびらかすためだろう。


『どうよ空気ぃ、アタシの力は!? 恐れ入るでしょう? これはもう神よ神。ほらぁアタシを崇めなさいよお』とかなんとか、鼻の穴を大きくしながら晴輝に絡みたい。

 そんな欲望が、彼女の背後でとぐろを巻いている。


 欲望に満ちあふれた朱音ではあるが、能力は間違いない。

 それを火蓮は以前、共にダンジョンに潜った日に目にしている。


 上層の魔物を一切寄せ付けず、9階のボス――中層の門番でさえあっさり倒してしまったのだ。

 一菱の、戦う店員の名は伊達じゃない。


「ほら行くわよ! 空気に負けちゃいられないんだからね!」


 勢いよく朱音が火蓮の腕を引く。


「あの……。熱石集めですけど、空星さんは一人で大丈夫でしょうか?」

「なんでよ?」

「昨日調べたんですけど。その、とても一人じゃ大変なんじゃないかって」

「大丈夫でしょ」


 朱音があっけらかんとした口調で、火蓮の不安を否定した。


「どうしてですか?」

「ひとつはマジックバッグがあること。あれがあるだけで採取がかなり楽になるのよ。それともう一つは目の良さよ」

「目、ですか?」

「そう」


 朱音が鷹揚に頷いた。

 目が良い……。視力のことか?

 火蓮は首を傾げた。


「アンタも見たでしょ? あいつ、あの時雨の動きを目で捕らえられてたのよ?」

「それは、確かに凄いことですけど――」

「凄いなんてもんじゃないわよ! 資格を得てからたった2・3ヶ月の冒険家が、時雨の初動を見極めるなんて絶対にあり得ない。おまけにちょっとずつ時雨の動きを真似してもいたし。時雨は動きを変化させて対応してたけど、内心焦ってたでしょうね」


 さすが朱音だ、と火蓮は思った。

 火蓮には、あの戦いで晴輝と時雨がなにをしているのか、まったく判らなかった。

 遠くから見ていたのに、目で追うことさえ出来なかった。

 時雨の動きが変化した、と言われてもさっぱりである。


 火蓮は晴輝が時雨に手も足も出なかったようにしか見えなかったが、しかし朱音にはあの戦いの、より深いところが見えていたようだ。


「時雨の技は超一流。それを少しでも真似出来たのは、どんなに小さな変化も見逃さないアイツの目があったからよ。十中八九、アイツのバカみたいに早い成長速度も、その目が関係してるんでしょうね」


 火蓮は口を閉ざして、俯いた。

 朱音はスキルボードを知らない。だから火蓮は現在の自らの表情を少しでも見られる訳にはいかなかった。


 もし僅かでも見られれば、店員として多くの人を見てきた朱音に気づかれてしまう気がした。

『晴輝の異常な成長速度について、火蓮は何か知っているんじゃないか』と……。


「……それで、その目が熱石採取になにか関係があるんですか?」

「ええ。目が良いと熱石の採取が凄く楽になるのよ。ま、アイツが依頼を失敗することはないだろうから、安心しなさい。――それより狩りよ狩り!!」

「はい。あ、今日はどこでレベリングになりますか? 私は15階まで行きましたが、朱音さんは10階で止まってますよね?」

「…………あっ」


 ピタっと朱音の足が止まった。

 彼女の体が、ふるふるとにわかに震えていく。


「ね、ねえ火蓮さん。中層ソロはさすがに危険だから、当然アタシの力が必要よねぇ?」

「確かに中層は危険ですけど」

「けどってなによけどって? あああ、アタシの力が必要なんでしょ? だったら10階の突破を手伝ってもらえるのよね!?」

「…………」

「なんで黙るのよ!? ねえ助けてよ。助けてくれたっていいじゃないのよぉ!! アハーハハァーン!!」



 その後、ルッツの体液でギトギトにされながらも、朱音は元気よく泣きながら火蓮に縋り付くのだった。

 火蓮のレベリングは、前途多難となりそうだ。


          *


【枝豆】中札内ダンジョンについて語る書 11【鶏肉】


202 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 仮面の正体がわかったぞ


203 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 マジか!

 でなんなんだ?

 魔物か? 悪霊か?


 俺はアイツが悪魔だったとしてもビックリしないね


204 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 期待してるところ悪いが人間だぞ


205 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 いやいや

 あれが人間なわけないって!


206 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 いやまじで

 ちかほの方で見たことあったから調べたんだ


 そしたらどうやらそいつ

 ちかほのモンパレ殲滅に携わってた


207 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 ほらやっぱり悪魔じゃねーか


208 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 ちげーよ!

 たしかに悪魔的な所業だけどww


209 名前:カゲミツ★

 おっす

 仮面男が登場したのはこのスレでおk?


210 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 偉人きたー!!

 すげえ!まじぱねえ!

 てかなんでこんな処に!?

 興奮して鼻血出そう


211 名前:カゲミツ★

 俺如きが出たくらいで鼻血を出すなw


 仮面男はアレだ

 見た目がなまらエグいがかなり普通の男だぞ


212 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 モンパレ殲滅する奴を普通扱いとは・・・

 さすがカゲミツさん


213 名前:カゲミツ★

 あ、そういう意味じゃねえからw


 普通だって言ったが戦闘能力は確かだ

 北海道でモンパレを単独殲滅出来んのはたぶんアイツだけだな

 あいつは色々相性が良いんだ


 で、エグい見た目だが

 それは諦めてくれ

 アレは俺でもどうにもならん


214 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 ランカーがまさかのお手上げ宣言・・・


215 名前:カゲミツ★

 いやお手上げってか

 あの格好はアイツの能力を抑えるために必要なんだ・・・


216 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 >>215

 能力を抑える

 ゴクリ・・・


217 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 仮面を外したら中札内が呪で消し飛んだりしないだろうな?ww


218 名前:カゲミツ★

 いま全レス読み終えた


 すまん

 アイツの鱗は俺のせいだ・・・


219 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 >>218

 え?

 ・・・えっ!?


220 名前:鼻から枝豆を飛ばす名無し

 カゲミツさん

 一体アンタはなにをしたんだ・・・


          *


 中札内ダンジョンの10階は、それまでと同じ迷路のような作りになっていた。

 しかし、上層とは違い通路の幅がかなり広い。


 壁や天井も洞窟のような見た目から、人間が整備した坑道のように変化している。

 そのせいか、少し肌寒い。


 晴輝は二の腕をさすりながら、ゲートをアクティベートする。


 一体エスタにはどんな加護が付いているんだろう?

 わくわくしながら晴輝はスキルボードを取り出してスワイプする。


「……あれ?」


 エスタ(0) 性別:男

 スキルポイント:2→3

 評価:硬殻虫


 エスタのツリーには、加護の欄が表示されていなかった。


 壊れたんだろうか?

 何度かボードをスワイプするが、加護は出現していない。


 どうやら中札内ダンジョンでは10階に下りても、車庫のダンジョンのように加護が付与されないようだ。


「やっぱり弱いダンジョンには弱いなりの理由があるんだな……」


 近道には、近道なりの理由がある。


 金に物を言わせて小火器を持てば上層を容易く攻略出来る。しかし武器の攻撃力は一定。

 いずれ火力がネックとなり、魔物が倒せなくなる。


 だからといってさらに強い火器を使えば、攻撃の度にモンスターパレードが起きかねない。

(流れ弾が壁や天井に当たると、威力が強すぎるせいでダンジョンへの攻撃と見なされてしまうのだ)


 小火器が効かない魔物には、通常武器でもダメージが与えられない。

 かといって、慌てて武器を持ち替えようにもダンジョン素材の強力な武器は、熟練度不足により装備が出来ない。


 過去、小火器を使ってダンジョンを攻略しようとした者達はそれより先に進めない、いわゆる『詰み状態』となってしまった。


 何事も、安易な道には罠があるということ。

 ダンジョン攻略は、地道な積み重ねこそが大切なのだ。


「……さて」


 では、何階に降りると加護が出現するのか? それは気になったが、晴輝は思考を切り替えた。

 鞄を下ろし、絡めておいたヌメヌメウナギのフィギュアを2本鞄から外した。

 再度鞄を背負い、ウナギフィギュアに水を含ませ両手に持つ。


「エスタ。ここからはあまり魔物を攻撃しなくてもいいからな。レア、危ない敵だけ攻撃してくれ。エスタはそれをお手本とするように」


 晴輝はレアとエスタにそれぞれ指示を出してから、10階の探索を始めた。


 中札内ダンジョン10階は、知る人ぞ知る鬼畜階。

 自然モンパレ発生装置の居る場所である。


 この階層は、一切油断出来ない場所だ。

 晴輝は気を引き締め、慎重に歩みを進めた。

晴輝くんを助けに行ったはずのカゲミツさんが爆弾投下。

疑いは、益々深まっていく……。

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