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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない
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中札内ダンジョンで依頼をこなそう!1

ブックマーク15,000突破!!

これも皆様のおかげでございます。本当に有難うございます!!

「依頼?」

「ええ。中札内ダンジョンに行って、熱石を採取してきてほしいの」


 晴輝は首を傾げた。


「それなら、地元の冒険家に頼めば良いだろ。なんでわざわざ俺に話が来るんだ?」

「熱石は主に中層で採掘されるんだけど、中層に行ける中級冒険家がことごとく新宿に向かっちゃってるのよ」

「……ああ」


 晴輝は思わず額を打った。

 確かに現在、新宿奪還作戦のまっただ中だ。

 中級以上の冒険家の大半が新宿に集っている。


「新宿奪還作戦のおかげで、普段中級冒険家たちがこなしてる依頼が滞って、ダンジョンアイテム不足が起りはじめてるのよ」


 奪還作戦が悪いとは言わないけど、と朱音は付け加えた。


 新宿を放置すれば、ダンジョンから溢れた魔物はやがて本州全土に行き渡る。

 日本固有の生物が外来種に追い詰められるように、人は安全に暮らせる場所をどんどん失っていくだろう。

 新宿奪還作戦は冒険家にとっても一般人にとっても、捨て置けない問題である。


 だが新宿奪還のために中級以上の冒険家が集ったせいで、新宿以外の場所にそのしわ寄せが行っている。


 たとえば『ちかほ』のモンパレがそうだ。

 通常時であればカゲミツを中心に大規模討伐隊が編成され、より安全に殲滅することが出来ていたはずだ。


 中級冒険家が不足していたせいで、エアリアルと晴輝は危険な橋を渡らざるをえなかった。


 今回浮上したアイテム問題も同様だ。


 熱石は、武具を生産する上で欠かせない。

 もし奪還作戦が長引けば、製作所が武具を製作出来なくなるなんていう事態になりかねない。


 新たな武具が供給されなくなると、いずれ全国の冒険家のダンジョン探索に支障が出る。


 ことの重大さを認識し、晴輝は眉をひそめた。


「……それは不味いな」

「そうなのよ。それで、熱石を2・3ヶ月分採取してほしいんだけど」

「それはまた、ずいぶんだな」


 2・3ヶ月分となると、一体何キロになるのか……。

 かなり長期間の遠征となりそうな依頼だ。


「大したことないわよ。ざっと100キロくらいだから」

「いや、100キロって相当だろ」


 以前晴輝がボスを倒して得られた熱石で、おおよそ5・6キロだ。

 それを100キロ……。


 晴輝は軽い頭痛を感じ、こめかみを指で抑えた。


「いま、どうしても大量に必要なのよ。ああ、心配しなくても大丈夫よ。中札内ダンジョンの中層は熱石の採掘場として有名で、11階に行けばその辺にゴロゴロ落ちてるって話だから」

「ゴロゴロって、マジか」

「マジよ。ただし小さいけどね」

「ふむ」


 朱音の弁が本当に正しければ、100キロの熱魔道具など数日で集められる。


 それだけ手軽に採取出来る熱魔道具なのに値崩れしないのは、採掘場が中層だからか。

 それにマジックバッグを持たぬ冒険家では、一度の採掘もたかが知れている。


 以前晴輝が手にした熱石5・6キロの値段が10万円だったので、単純計算で100キロ集めて200万円。

 それプラス、依頼料。


 引き受けても良いように晴輝は感じた。

 しかし、これからだという所ではある。


 ワーウルフ相手にレベリングをし、晴輝らは着実にレベルアップしてきた。

 また晴輝は時雨と戦うことで、より洗練された動きを学ぶことも出来た。


 15階を突破する足がかりが出来つつあった。


 熱石の在庫の薄さに文句を言うわけではない。

 だが晴輝はどうしてもこのタイミングか……と思ってしまう。


「他に依頼を発注出来る冒険家はいないのか?」

「アタシが声をかけられる人材で、北海道にはいまアンタ以外の中級冒険家はいないわよ」

「エアリアルはどうだ?」

「あれは上級でしょ」

「あー」


 つまりこの依頼は中級冒険家用だということだ。

 確かに依頼の内容を考えると、北海道最強チームのエアリアルが出張る内容じゃない。


 晴輝が悩んでいると、それまで黙っていた火蓮が口を開いた。


「空星さん、依頼を受けないんですか?」

「これから15階を攻略するってところだっただろ? 依頼を受けるとしばらく足踏みするが、火蓮はそれでいいのか?」

「はい」


 頷いた火蓮の瞳に不満の色はない。


「空星さんには先を行かれてますからね。是非この機会に空星さんは素材採取で足踏みをしてください。そのあいだに、追いつきますから」

「……」


 晴輝は自らのスキルツリーを火蓮に見せたことは一度もなかった。


 それでもきっと、火蓮は気づいている。

 晴輝と火蓮とで、成長度合いが明らかに違うことに……。


 もし晴輝が火蓮の立場なら。

 相方がぐんぐん先に進んでいき、自分の成長が思うように伸びなかったら。


 きっと、ものすごいプレッシャを感じる。

 あるいは自らの成長率の低さに、絶望するかもしれない。


 晴輝は火蓮に、プレッシャを与えはいない。

 だが火蓮は晴輝の成長を見て、不安を感じていたかもしれない。


 焦って前のめりになるよりも、一度立ち止まってみるのも良いかもしれない。

 朱音もいるし。大丈夫だろう。


「わかった、依頼を受けよう」


 晴輝は深く頷く。


 全力で走れば、先の景色を早く見られる。

 だが立ち止まっていても、走っているときには見られない景色を、じっくり眺める事が出来る。


 晴輝はまだ中札内のダンジョンに行った経験がない。

 この際なので、知らないダンジョンの探索を楽しもうと思った。

 そうすることで、見えてくるものが、きっとあるから。


「え、ちょっと待って。一人で行くの?」

「そうだが、なにか問題か?」

「えっと……」


 なにか計算しているのだろう。

 朱音が珍しく難しい顔をして空中に指で文字を書く。


「うん、まあ大丈夫かしらね」


 算段が付いたのだろう。彼女は難しい表情を消して笑顔になった。


 一体朱音がなんの計算をしていたのかは、晴輝にはわからない。

 だが彼女が大丈夫と言うのだ。

 きっとなんの問題もないはずだ。


 依頼のリミットは移動時間も含めて2週間。


 成功報酬は経費上乗せで44万円。

 プラス熱石の買取と、その金額に上乗せ5%がなされることになった。


 久しぶりの一人旅。

 久しぶりの未体験ダンジョン探索。

 想像すると、晴輝の心が早くも躍り出す。


 中札内ダンジョンは、一体どんなところなんだろう? と。


          *


 K町から中札内へはかなりの悪路が続いた。


 通行出来るはずの道が崖崩れで封鎖されていたり、通常速度で走ろうものならタイヤがパンクしそうなほど路面が割れていたり、とにかく道が最悪だ。


 これなら車じゃなく、走って移動した方が早かったかもしれない。


 晴輝は火蓮からマジックバッグを借り、レアと共に移動した。


 晴輝は火蓮に、家を守護するエスタへの食事イナゴ調達を依頼した。

 だが全力で拒絶されてしまったため、仕方なくエスタも共に晴輝の依頼に同行している。


「このメンツで、宿が見つかるかな……」


 ペット宿泊オーケィの宿はあるが、魔物宿泊オーケィな宿はない。

 なので晴輝はホテルのフロントでは、レアもエスタもマジックバッグに詰め込む予定である。


 でなければきっと、中札内では全日程を野宿で過ごすことになる。

 それはさすがに遠慮したい。


 車の中で、レアはすました様子で座席に座っている。

 代わってエスタは始めての車だからか、もちょもちょと動いている。


 動きすぎて妙な所に入り込んでしまいそうなエスタにレアが注意する。

 するとエスタはしゅんとして、運転席の後ろから晴輝の肩にちょこんと顎を乗せてじっとするのだった。



 北海道の中心から南方にある中札内は村で、第一次スタンピード前までの人口は約四千人程度。十勝管内にある村では最も人口の多い村だった。


 しかし第一次スタンピード以降、元々少なかった人口はさらに減少し、現在では2千人を割り込んでいる。


 それでもこの村にはダンジョンがある。北海道の食料庫として名高いダンジョンだ。

 ここには食糧系の魔物の狩りで生計を立てるまたぎ系冒険家がよく訪れる。


 人口が減少したことで廃屋が目立つ中札内だが、冒険家が狩りに訪れるためホテルや民泊は村にしては多い。

 空室を心配する必要はなさそうだ。


 中札内に到着した晴輝は、まずホテルを確保する。

 当然ながらレアもエスタもマジックバッグの中に投入済みである。


 ホテルのカウンターに向かうと、


「いら……ヒィィ!!」


 フロントマンが悲鳴を上げた。


 なんだ!?

 晴輝は構えながら素早く振り返り構える。


 晴輝はフロントマンが悲鳴を上げるほどのなにかが、ホテルのやってきたのかと思った。

 だが晴輝の背後には誰一人としていない。

 驚くようななにかが、晴輝の目には映らなかった。


「一体なにが――」

「ヒィィ!!」


 振り返ると、フロントマンが再び悲鳴を上げた。


 ……もしかして俺か?

 晴輝は唖然とした。


 ホテルに入ってすぐに気づいてくれたことは行幸だ。

 はっきり言って、素晴らしい出来事である。


 だが、さすがに怯えられると少々悲しい。

 晴輝は強面ではなく、どこにでもいる普通の顔のつもりだ。


 ……顔?


 もしかしてと思い、晴輝は顔から仮面を外した。


「き、消えたぁぁぁ!!」


 これだから仮面を外すのはイヤなんだよ!

 くそっ!!


 胸の内で悪態をつきながらも、晴輝は溢れ出る涙を乱暴に拭った。


 仮面をかぶり、遠くから『自分は人間です』とアピールをすることで、なんとかホテルのフロントマンと会話をすることに成功。


 自らが中札内ダンジョンの探索に訪れた冒険家だと伝えると、ほんの少しだけフロントマンの警戒感が和らいだ。


 冒険家なら仮面をかぶるような怪しげな奴がいても不思議じゃないと納得したのかもしれない。


 晴輝が借りたのは、フェアリーハウスという三角形のコテージだった。

 建物は2階建てとなっていて、1階がリビングとキッチン。2階が客室となっている。


 1人が借りるには少々大きすぎる部屋だが、晴輝にはレアとエスタがいる。

 少々広くても建物が独立していたほうが、予想外の問題が起きにくい。


 中札内ダンジョンの情報はWIKIで確認していたが、買取店や武具販売店の店員らから新鮮な情報を得た方が万全だ。

 コテージに荷物を置いて、晴輝はすぐに素材買取店に向かった。


 一菱素材買取店は、中札内ダンジョンから目と鼻の先にあった。

 建物はK町と同じプレハブだが、K町のものより大きい。


 プレハブを眺めながら店の扉を開く。

 カウンターに居た店員が笑顔で振り返り、


「ヒッ!!」


 くぐもった悲鳴を上げた。

 フロントマンと同じ反応である。


 だがフロントマンとは違い、反応はそこで終わらなかった。

 彼女は驚きながらも、カウンターの下から武器を取り出し構えた。


「ま、待った待った! 俺は客だ!」


 晴輝は慌てて声を上げる。

 その声を聞いて、店員が停止。


「……あ、空星さんですか」

「あ、ああそうだ」


 なあんだ、と店員はほっと息を吐いて武器を下ろした。


 店員が『空星』と口にしたことから、おそらく晴輝のことは朱音から聞いていたのだろう。

 彼女が武器を下ろしてくれてなによりである。


「大げさに反応してすみませんでした。うちの夕月が『首は羽、背中は植物、胴体は鱗で触手を持った宙に浮かぶ変態仮面が現われる』なんて言うから、てっきり冗談かと思ってましたよお」


 うふふ。店員が笑う。

 あはは。晴輝も笑った。


 なんだその連絡は。

 朱音はもっと真面目に特徴を教えるべきである。


 ――そんな教え方じゃ、俺が空気だと判らないじゃないか。

 晴輝は笑みを浮かべつつも、遠くK町にいる朱音に怨嗟を送る。


 ……あれ?

 とある事実に気づき、晴輝は笑みを凍らせた。


『てっきり冗談かと思ってましたよお』という言葉。

 これは冗談だと思っていたが、事実だったんですねという意味では!?


 ――畜生ォォオッ!



 店員曰く、熱石は中札内ダンジョンの11階にあるという。

 その他の情報も、WIKIにあるものとまったく同じだった。


 ひとまず11階を目指せばなんとかなるだろう。

 晴輝は熱石の採取方法を頭に入れてダンジョンに向かった。


 中札内ダンジョンは、北海道で最も難易度の低いダンジョンと言われている。

 魔物が弱く、落命し難いダンジョンではあるが、だからといって楽に攻略出来るわけではない。


 落命の危険は常にあるし、車庫のダンジョンでは見られない中札内固有の魔物もいる。

 決して気を抜いて良いわけではない。


 中札内ダンジョンを訪れる冒険家はK町ほど少なくない。

 きっと改札口に特殊警察が立っているだろう思い、晴輝はレアとエスタをバッグに隠したまま近づいていく。


 だが改札口付近には、特殊警察の姿がなかった。

 やはり札幌くらい大きなダンジョンでなければ、常駐しないようだ。


 晴輝は安心し、レアとエスタをバッグから取り出して装備。

 まずはダンジョン中層を目指して、1階の入り口に向かっていった。

次回、中札内村で地獄の釜のふたが開く。

一体何故なんだ……(白目

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